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カー用品市場にみる、従来の枠に拘らない販売施策の必要性
◆イエローハット、カー用品販売で新手法。提案型の売り場づくり手法を導入。
陳列形態を見やすくする為、ユーザーの車種に合わせて関連商品を集める。
<2006年04月06日号掲載記事>
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イエローハットがカー用品販売の商品戦略(MD)で提案型の新手法を導入する。従来は用途・機能別を中心に売れ筋商品や用品メーカー毎に陳列していたものをユーザー視点に変更。車種に合わせたメンテナンス商品や装飾品などの関連商品を集積した提案型の売場作りに変更する。
主要顧客層である 30 代のニューファミリー層に訴求した店舗形態を重視しており、サービス向上による売上増を狙うものである。
【カー用品市場縮小の背景】
カー用品市場は近年縮小傾向にある。自動車用品小売業協会が纏めた 04年度の総市場額は 4,717 億円で既存店売上高、客単価、来店客数の何れの数値も前年度比マイナスである。
カー用品市場の小売店上位にあるイエローハットもその影響を受け、年々売上は減少しており、2005年 3月期の連結決算で売上高 117,411 百万円、当期利益 897 百万円と 2 期連続で減収となっている。
カー用品市場の落ち込みの原因として、消費者のライフスタイルが変化してクルマに拘りを持つ消費者が減少したことが指摘されることが多いが、筆者は寧ろ逆ではないかと思う。カー用品店がクルマに拘りを持つ消費者のニーズに応えきれていないことに原因があるのではないかと推察するのである。
下の表を見て頂きたい。
1.オーディオ・ビジュアル 23.8% (+3.9%)
2.タイヤ・ホイール 23.5% (+5.9%)
3.機能用品 12.3% (-7.0%)
4.洗車・オイル・ケミカル 8.6% (-10.2%)
5.車内・車外用品 8.2% (+0.9%)
6.その他 (DIYショップ、用品など) 23.6% (+4.6%)
( )内は前期比
2005年 3月期「イエローハット売上構成比率」より
カーナビ、幅広タイヤ、意匠性の高いアルミホイールがメーカーオプションやディーラーオプションで用意されるようになって久しいが、依然としてこれらの商品をアフターマーケットで購入する消費者も厳然として存在し、金額的には増えていることが分かる。
純正品では満足しない拘りのある消費者はカー用品店に来店しているのである。
一方、洗車・オイル・ケミカルや機能用品の売上は減少している。ディスカウントストアや DIY ショップ、SS でも購入可能なこれら消耗品、カーケア用品の購入客は、より利便性の高い場所、より低価格を提示する店舗に分散し始めている可能性がある。
拘りのない消費者にとってカー用品店は来店理由に乏しい場所になっているのではないか。
つまり、カー用品店の売上の減少は、拘りのある消費者の引き付け方が、拘りのない消費者のカー用品店離れよりも弱いために起きている現象ではないかという仮説が成り立つのである。
【ついで買い喚起による客単価の向上】
売上は客数と客単価の積であるから、売上を増やすためには客数か客単価の少なくとも一方を増加させなければならない。だが、人口が減少し、ライフスタイルが多様化してクルマ以外への支出が増えている中では、クルマに拘りのある客数を増やすことは容易ではないため、客単価の向上が鍵を握る。
客単価の向上にも方向性は二つある。
1 つは機能・性能の強化による商品単価の引き上げであり、「おいしい牛乳」、「プレミアムビール」、「産地を明記した食品」などがそれに当たる。自動車の世界で言えば、アルテッツァ、アリスト時代よりも中身を充実させて単価を引き上げた IS、GS がそれに当たる。
もう 1 つの方向性が「ついで買い」の喚起による買上げ点数の拡大である。「ついで買い」というのは、元々スーパーマーケット等の小売現場で開発され、多用されているマーチャンダイジング手法である。
鍋や肉や野菜や酢を別々の売場に陳列するのではなく、ひとまとめにして「今夜、お勧めの鍋物」として陳列することで、単品陳列では忘れられていた商品まで一緒に想起購買が促され、顧客 1 人あたりの買上げ点数が増加する効果を狙ったものである。
アマゾン.コムで「この商品を買った人は他にこんな商品も買っています」という推奨図書が表示されるのも同じコンセプトだし、i-pod も関連グッズを多数用意して「ついで買い」を喚起しようとしている。
イエローハットの今回の戦略は、後者の方向性、つまり、車種別に商品をまとめることによって、その車種に愛着・拘りのある消費者の「ついで買い」を喚起し、来店客 1 人あたりの買上げ点数を増やすことで客単価を引き上げようとするものであることが分かる。
【来店客数自体を増やす仕組みも用意する】
イエローハットの戦略は客単価向上の仕組みとしては的を射ているといえる。だが、来店客数の減少が客単価向上を上回ってしまうとこの施策も売上増には結びつかないから、同時に来店客数をこれ以上減らさない施策を組み合わせることが求められるのではないかと考える。
例えば、次のような施策が考えられる。
1)販売商品にメリハリをつける
店舗販売は売上増への貢献が高いカーナビ、タイヤ、ホイール等の高額商品の販売に傾注させ、消耗品等の売上構成比率が低下している商品群については店舗販売に加えて新たな販売ルートの活用を考えるものである。
カー用品の中でも整備工場での取り付けを伴わない消耗品類であればコンビニのような小規模店舗で取扱うことも可能である。コンビニ等で取り扱っている商品と当該品の大きさや価格帯は差がないためミニコーナーの設置等による販売提携等の可能性はあるのではないだろうか。
2)カー用品の試供品を異業種のノベルティーにする
カー用品(消耗品)は見ているよりも使った方が購買意思の決定を促進させることは間違いない。従来通り、カー用品店に来店したお客様にサンプルを配布するのではなく、例えば食料品売場にあるペットボトルやビールの箱売りに試供品をサービスする。全く商品を知らない消費者へのリーチが可能となる。
3)複合施設型ショッピングセンター等への出店を積極化する
既に数店舗存在しているが、集客力のある商業施設へ出店することは来店客の母数を増やす効果が期待出来る。拘りを持たない人がわざわざカー用品店に足を向けないため、こちらから相手の生活行動範囲に飛び込むのである。
今回の施策である「ついで買い」をさせるための「ついで寄り」の効果が期待出来る。
人口減少、少子高齢化、消費者の関心の多様化により悲観的な見通しが蔓延する国内の自動車流通・サービス業界だが、これは国内を主戦場とする全ての業界に共通の問題であって自動車だけが特別な訳ではない。
従って、異業種で成果を上げているマーケティング手法を上手に取り入れることで自動車の流通・サービス分野でも売上を伸ばす余地はまだまだあるし、その重要性は一層増していると思われる。
<大谷 信貴>