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自動車メーカーが主導する国内販売体制の再構築
◆ホンダ、高級車専売網「アキュラ」を 2008年秋に国内導入すると発表
現在の国内販売チャネル「プリモ」、「クリオ」、「ベルノ」の 3 チャネルを来年 3月に『ホンダ』チャネルへ統合し、北米などで展開している高級車専売網「アキュラ」を 2008年秋に全国約 100 拠点で国内スタートすると発表。
<2005年12月14日号掲載記事>
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ホンダは北米を中心に展開している高級車ブランド「アキュラ」を 2008年秋に国内に導入すること及び、現在、3 チャネルある自動車販売網を来年 3月に「ホンダ」に統合することを正式に発表した。
先日、日産が国内販売網の新たな再編・統合を発表するなど、自動車メーカー主導による国内販売チャネル政策の見直しが相次いで具体化している。
昨今、日本の自動車メーカーは海外市場での販売を拡大しており、日本車が全世界の自動車販売台数の約 3 割を占めるまでに至っている。しかしながら、一方の国内市場は新車市場の成熟化に伴い、販売台数は減少傾向となっており、今後の市場の拡大が見込めない状況であることから、メーカー主導で国内販売事業の収益性を高めるための梃入れを開始しているのである。
その施策は自動車メーカーによって経営環境が異なるため、対応策も異なる。
今回はホンダの施策における狙いについて、以下にて考察したい。尚、日産の施策については先週の弊社、長谷川のメルマガにて取り上げているので是非、ご参照頂きたい。
https://www.sc-abeam.com/sc/library_s/column/3526.html
【ホンダの施策】
今回発表となった施策の概要は以下の2点である。
(1)国内販売チャネルの統合
ホンダは、1978年に「ベルノ」、1984年に「クリオ」、1985年には「プリモ」を立ち上げ、3 チャネル体制を構築し、車種及び販売網の拡大を図ってきた。
現在の各拠点数は、「プリモ」 1,494 拠点、「クリオ」 511 拠点、「ベルノ」 399 拠点となっており、合計約 2,400 拠点を「ホンダ」チャネルへ統合し全モデルを顧客がどこの店舗でも買える体制を構築する。
(顧客からも分かり易くするために外装も統一されたものに刷新される。)
ホンダの販売 3 チャネルでは、既に軽自動車を除いた普通乗用車で 9 割は併売しており、統合によって全国の販売会社の基盤強化、及び顧客の利便性向上により、量販車種の売上拡大と販売効率化を狙うとしている。
(2)高級車ブランド「アキュラ」の導入
ホンダのアキュラ(ACURA)は、1986年米国で発売を開始した高級車ブランドであり、その歴史はトヨタのレクサス、日産のインフィニティよりも古いものである。
ブランド名称は「ACCURACY= 正確さ」から由来しており、ブランドエンブレムは頭文字の「A」を模したものを使用している。現在は米国以外にカナダ、メキシコ、香港で展開しており、2006年には中国展開、2008年からは日本での展開を予定している。
現在の展開車種は以下であるが、国によって取り扱い車種は異なっている。
米国及びカナダにおける販売車種
・ RL (日本:レジェンド) +メキシコ、香港で展開
・ TL (日本:なし、ミドルサイズセダン)+メキシコ、香港で展開
・ MDX (日本:MDX) +メキシコで展開
・ RSX (日本:インテグラ) +香港で展開
・ TSX (日本:アコード)
・ NSX (日本:NSX)
・ CSX (日本:シビック) カナダでのみ展開
アキュラブランドの世界販売台数は 2004年度で過去最高の 22 万台となっており、ホンダの全販売台数の約 7% に達している。
しかしながら米国市場では、アメリカホンダが展開している車種(アコード、シビック、エレメント、フィット、インサイト、オデッセイ、パイロット、S2000など)とアキュラの展開車種構成に大きな違いが無いこと、及びアコード、シビックでハイブリッドを取り扱うようになってからは、価格がアキュラ以上に高くなっていることもあり、実質、消費者よりは同一視されていて高級車というよりもスポーティ、カジュアルなブランドイメージとなっているようである。
日本における 2008年の導入時の展開は 100 拠点程度で 5 車種を予定しており、「走り」や「個性」を際立たせたプレミアムブランドという位置付け、都市部での強化、セダンの強化、と目的を絞った形で展開を開始する。
また、本年 8月から販売を開始しているトヨタの高級車ブランドのレクサスとは一線を画した取り扱いになるとの見解を示しているが、高級車を強化することで収益性を高める狙いは一致するものと思われる。
【ホンダの課題から見る施策の目的】
ホンダは 2004年度(2005年 3月期)決算にて連結売上高 8 兆 6,501 億円、営業利益 6,309 億円と国内シェアで第 3 位となっており、売上高と最終利益額は過去最高を記録している。
一方で、同社の販売台数は、海外市場が全体の約 8 割を占めており、国内市場における販売台数は 2001年以降、3年連続で前年を下回る結果となっている。
また、海外市場において北米への依存率が高く、販売台数で 4 割以上と他のメーカーの約 2 倍以上の比率となっており、ポートフォリオ戦略として、過度の依存からの脱却を急ぐべきであり、先ずは国内の販売チャネル整備に着手したものとも考えられる。
経営指標の 1 つである販売管理費率についてもホンダは、トヨタ 10.8%、日産 15.9% と比べ、22.9% と国内メーカーにおいても高い水準になっており、また、1台当たりに掛かる販売管理費用については日本車メーカーで最も高い結果となっている。
販売効率を高め、売上を拡大することは今のホンダにとって重要な課題であることが今回の施策に繋がった理由の 1 つと考えられる。
【市場におけるポジショニングの重要性】
成熟期に入ったとされる国内市場は、少子化・高齢化の社会環境からも今後、数年に亘って厳しいことが予想されることから、自動車メーカー各社ともにマーケットでの優位性を如何にして継続していくか、が課題となる。
今回のチャネル統合は、全車種を取り扱う「ホンダ」ブランドへの統一と、特定の顧客の獲得を狙う「アキュラ」ブランドの開発による、「顧客囲い込み」戦略も重要な目的であると推察する。
ホンダは今迄も単に販売チャネルを拡大するのではなく、1984年から CSI 調査を始めるなど「顧客満足度」に批准を置いた戦略を実施し、ディーラーの自立化が進んでいると評されている。
マーケティングプランにおいて、市場における自社のポジショニングを決めることは、他社との違いを明確化することである。
「ホンダ」が市場で築き上げてきたブランドイメージを販売網の名に冠することを契機に、お客様へのアプローチを強化し売上を拡大する一方で、特定の顧客へアプローチする「アキュラ」で顧客基盤の成長は緩やかなものとなるが、新たな顧客を確実に獲得していくといた、2 つの新たな戦略がバランスよく配置されたものと考える。
しかしながら、単に軽自動車も含めた全車種を 1 つの店で取り揃えることによって、一度購入したお客様が継続してクルマを買いに来るとは言えないだろう。クルマを購入頂いたお客様に満足頂くような仕組みを、購入、サービス、買い替えとバリューチェーンで実現していく必要性があるのではないだろうか。
ホンダの具体的施策についての情報は未開示であるが、今まで以上にメーカーが主体的に資金やリソースを投入しなければ、顧客をバリューチェーンで囲い込むような仕組みを作り上げることは困難であり、効果的な結果を得ることは難しいと思われる。
自動車メーカーが性能が良い、品質の高いクルマを開発・生産するだけの時代は終わり、製造から販売まで一気通貫の仕組みを作り上げることが、より効果的なバリューを生み出す手法となるではないだろうか。
昨年までは、ホンダ幹部も米国の市場戦略と日本での販売政策は異なるとして「アキュラ」の国内市場への導入を否定していたが、覆せねばならない事態となったのは、クルマの販売から買取、再販までのインフラを構築する新たな販売手法を用いたレクサスの影響も少なからずあるかもしれない。
トヨタのレクサス、ホンダのアキュラ、日産のインフィニティ(検討中)といった新たなブランドの導入が日本市場における新たな販売手法を生み、新たな流れを市場に生み、新たなニーズを生み、成熟した市場から成長する市場へと変革をもたらすのではないかと期待している。
<大谷 信貴>