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麦のエコ路地散策(2) 『排出量取引制度』
昨今、新聞、雑誌、TV等で見かける環境用語を取り上げ、自動車業界との関係を探っていくコラムです。
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第 2回 『排出量取引制度』
【京都メカニズムで定められた排出量取引制度】
排出量取引(ET: Emission Trading)とは京都議定書に批准する各国ごとに温室効果ガスの排出量を定め、排出枠が余った国と、排出枠を超えて排出してしまった国の間で取引する制度です。
上記制度では以下の4種類の炭素クレジットが CO2 の t(トン)単位で取引されます。
まず一つ目は AAU(Assigned Amount Unit)といい、これは各国に割り当てられる排出枠です。割り当てられた排出枠に対して、排出量が少なかった際は、炭素クレジットとなります。
二つ目が RMU(Removal Unit) といい、植林等の吸収源活動による温暖化ガスの吸収量です。この吸収源活動を通じて削減された排出量もクレジットとして使用できます。
三つ目は ERU(Emission Reduction Unit)といい、先進国が他の先進国に温室効果ガス排出量の削減、または吸収量の増加を目的に技術・資金等の支援を行う共同実施(JI:Joint Implementation) により発行されるクレジットです。
最後に CER(Certified Emission Reduction)といい、先進国が開発途上国に技術・資金等の支援を通じて、温室効果ガス排出量の削減、または吸収量を増幅する事業の実施するクリーン開発メカニズム( CDM:Clean Development Mechanism)を通じて発行されるクレジットです。
それぞれのクレジットの詳細については本コラムではあまり触れませんが、本取引制度は国を超えて取引を行うことで、削減が容易でない国は少ない費用での削減が可能となり、削減しやすい国は対価を求めて大量の削減が望めるため、世界全体として削減費用が最も少ない形で温暖化ガスを削減できるのではと期待されています。
一方で、先進国がクリーン開発メカニズムを通じてより少ない投資や労力で排出枠を確保してしまうと、温暖化効果ガスを削減するための新たな技術やシステムの開発の必要性が薄れてしまうのではないかとの問題も抱えています。
なお、近年は関心の高まりを受けて第三者機関が認証する温室効果ガス削減量が民間で取引されるようになりましたが(※カーボンオフセット等)、これらは企業の CSR活動の一環として京都メカニズムの枠外で行われているものです。
※カーボンオフセットについては前回ご紹介した下記コラムを参照して下さい。
【欧州での域内排出量取引制度】
京都議定書で規定されている排出量取引が各国の排出量削減義務の達成を目的に国と国の間で取引されるものであるのに対し、国内(域内)排出量取引制度は、国が課されている排出量削減目標を達成するために、国の目標を企業までブレイクダウンして企業間で取引を行わせることで、自国内の排出量削減活動を促進を図るものです。
その中でも、最も有名な取引制度が2005年 1月にEU内で創設されたEU ETS(The EU Emissions Trading Scheme)です。EU ETS では現在、EU域内の全製造業の 6割で約 1万を超える施設が参加を義務づけられており、その対象となる温室効果ガスはEUの全排出量の40% 近くにも迫っています。
対象となる施設は自身の CO2排出量を計測し、毎年その排出量を報告する必要があります。政府より無償で排出枠が与えられており(このように排出量取引において、各企業の排出量の上限を決められているものをキャップ・アンド・トレード制といいます。)、排出枠を超えている場合は他の排出施設やトレーダー、政府から、新たな排出枠を購入します。また、企業内部において独自に異なる国に所在している施設間での排出枠を移転する事も可能です。
目標が未達成の場合は、CO2排出量 1t当り40ユーロの罰金が課されていましたが、2005年~2007年のフェーズ1 では排出枠の供給過多から需要が減り、排出枠価格が下落した事を受けて、2008年以降のフェーズ2 では更に厳しい排出枠及び、1t当り100ユーロという厳しい罰金が設定されています。
【日本でも始まる国内排出量取引制度】
一方、日本でも今年の10月に政府より国内排出量取引制度の試行制度が発表されています。
「試行」との位置づけもあり参加義務を設けず参加は企業の自主性に委ねる業界団体としての参加も認めている、罰則が設定されていないといったことから、EU ETSに対してやさしい内容となっていることがわかります。
排出枠についても企業が任意に決められるようになっていて(もちろん現在の温室効果ガス排出量より少ない事は求められています。)、排出枠の設定方法についてもキャップ・アンド・トレード制に加えて、原価単位目標も認めるといったように自由度が高くなっています。
このように一見易しい仕組みとなっているのには、1 社でも多くの参加を促すために企業が参加しやすい仕組み作りを優先したためですが、12月12日時点(10月21日より募集開始)では 446 社と、日本経団連の自主行動計画に参加する約2,100 社と比べても 2割程度にと留まっております。特に、自動車業界や鉄鋼業界は、業界団体としての参加に留まっており、個別企業の申請に限ると310 社程度でした。
「排出枠を設定する際に過去の削減努力をどう評価、反映するのか」「取引が排出量削減につながるのは幻想である」といった否定的な意見が多い中、企業に対するインセンティブ(又は罰則)をどのように設定するか、また、まったく異なる産業間で当初の排出枠を如何に設定するかが、本運用へ向けた最大の課題となるのではないでしょうか。
【日本の施行制度で初めて採用された原価単位目標】
今回の施工制度の一番の特徴は、排出枠を設定する際に原価単位の設定を認めている所にあります。
この原価単位での排出枠の設定では製品の生産量に応じて排出枠を変動させることが可能になります。生産量が増えて全体の排出量が増えた場合でも原価単位での排出量が削減できていれば、達成として認められます。一方で、生産量が減って全体の排出量が減少した場合でも、原価単位での排出量が削減できていないと未達成扱いとなり、達成には他企業より排出枠を購入する必要が生まれます。要するに一つの製品の生産当りの排出量の低減を目標とできます。
一方で、EU ETSで採用されているキャップ・アンド・トレード制では、企業として拡大・成長した結果、削減努力を行っても企業全体としての総排出量が増加して、排出枠を購入する必要が生じるといった、一見企業活動を阻害するような一面もありますが、原価単位の設定であればその点は問題はありません。
キャップ・アンド・トレード制での排出枠の設定を行なう事で、一時的に CO2排出量を減らす目的は達成できます。しかし、将来的に現在の生産活動による豊かさと CO2 の排出が共存して行くためには、生産活動の CO2排出効率を下げていく事が必要不可欠であり、原価単位の設定が将来の主流となるべきではないでしょうか。
【日本の排出量の現状と今後】
日本は排出量を2012年までに1990年比で-6 %削減する必要があるのに対し、現在、1990年比で8 %増加しており、2012年までに14%もの排出量の削減が求められている状況です。そんな中で、政府が国内排出総量の管理が出来なくなり、排出量の増加につながる可能性を秘めているこの原価単位の排出枠の設定制度を疑問視する声が多いのも事実です。
さらには、金融危機に始まる各業界での減産が相次ぐ中、原価単位での排出枠の設定は、固定排出量が重くのしかかってくる可能性があり、現在、参加を表明している企業の内どれだけの企業が原価単位で排出枠の設定するかは非常に疑問です。
しかしながら、製造大国である日本にとって自動車に始まる今の輸出産業を守るためにも、生産活動におけるCO2 排出効率を下げることは避けられない命題であります。
筆者としては各企業に今回の施行制度を活用し、積極的に原価単位での排出枠設定を行い、CO2 の排出効率の低い製品を世界に先行して生産していって欲しいと願っております。
<尾関 麦彦>