自動車業界ライブラリ > コラム > 麦のエコ路地散策(4) 『リサイクル』
麦のエコ路地散策(4) 『リサイクル』
昨今、新聞、雑誌、TV等で見かける環境用語を取り上げ、自動車業界との関係を探っていくコラムです。
……………………………………………………………………………………………
第4回 『リサイクル』
近年、廃棄物の削減、限りある資源の有効活用の観点から、リサイクルの重要性は高まってきています。そこで今回は自動車業界のリサイクル事情についてご紹介いたします。
【資源有効活用促進法(改正リサイクル法)】
1991年に日本で初めて再生資源の利用促進(リサイクル)に関するリサイクル法が施行されましたが、製品や素材の省資源化・長寿命化による廃棄物の発生抑制(リデュース)、分別回収による部品の再利用(リユース)、これら 2つの促進を盛り込んで2004年4月に新たに改正されて施行されたのが、改正リサイクル法です。
改正リサイクル法は10業種69品目を対象に 7つの類型を設けて、業種や製品ごとにリデュース、リユース、リサイクルに沿った取り組み内容を定めています。
該当する一定規模以上の企業がこれら対策を怠った場合は、経済産業省などが勧告、事業者名の公表、命令といった措置を講じることになっており、命令に従わない事業者には50万円以下の罰金も課されます。
自動車業界は、廃棄物などの副産物の発生抑制を義務づける「特定省資源業種」に指定されており、自動車という製品は廃棄物の発生を抑制する設計が求められる「指定省資源化製品」に指定されています。製品の中ではパソコンや小型二次電池に与えられている義務が一番重く、使用済みの製品の回収・再資源化が求められる「指定再資源化製品」に指定されています。
資源有効活用促進法について(経済産業省HP)↓
http://www.meti.go.jp/policy/recycle/main/admin_info/law/02/index.html
上記の資源有効活用促進法は製品の設計や構造といった上流工程での対応を重視し、業種、製品、横断的に対策を求めている一方で、それぞれの業種ごとに下流工程でのリサイクル法が定められています。もちろん、自動車においても使用済み車両の適切なリサイクルを義務付ける、自動車リサイクル法が存在します。
【自動車リサイクル法】
使用済み車両のリサイクルや適正処理を目的として、2005年 1月以降から施行されている法律で、自動車メーカーや輸入業者に対してシュレッダーダスト、エアバッグ類、フロン類の 3品目の回収・リサイクルが義務付けられました。 もともと、使用済み車両は中古部品や資源の宝庫で、施行前から再資源化率が高かったため、不法投棄や処理の難しさなどの問題を抱える 3品目の回収・リサイクルだけが法律の対象となっています。
上記リサイクル法では、まず最終所有者から引取業者(ディーラー、整備工場等)が車両を回収しフロン類回収業者に引き渡し、解体業者にてエアバッグ類の回収、最終的にはシュレッダーダストを回収する粉砕業者に引き渡されます。それぞれのリサイクル業者は、自動車購入時に所有者より回収されて一時的にプールされていたリサイクル料金を、その指定品目の引渡しをもって自動車メーカーや輸入業者から受け取ります。
これは、自動車メーカーや輸入業者が購入時に回収したリサイクル料金を元手に業者にリサイクルを委託しているとも見ることができます。
また、決められた順番にリサイクルが行われる様に義務づけられており、その管理を行なうために、それぞれのリサイクル処理を行う業者は都道府県知事等による登録・許可が必要となる上に、引取引渡過程の報告を自動車リサイクル促進センターに報告することが義務付けられています。(電子マニュフェストシステム)
自動車リサイクル法について(経済産業省HP)↓
http://www.meti.go.jp/policy/automobile/index.html
自動車リサイクル法の導入直後は、販売済み車両のリサイクル料金回収問題等で騒がれましたが、ここ数年は資源高の影響も受けて当初の想定とは異なる形で比較的上手く回っています。では具体的にどのようにリサイクルルートが構築されているか、その背景と合わせて紹介いたします。
【資源高と自動車リサイクル業界の盛り上がり】
そもそも、この自動車リサイクル法が制定された背景には、鉄スクラップ価格の下落があります。
従来、粉砕業者は鉄スクラップの売却益を元手にリサイクルを行っていましたが、鉄スクラップ価格の下落を受けて、鉄スクラップ売却による収益が期待できなくなりました。その結果として、破砕業者が使用済み車両引取りの際に粉砕処分費用を請求する必要が生じて、車両が粉砕業者に渡らなくなり、不法投棄が増加したのです。
しかし、自動車リサイクル法が制定された後から資源高の高騰を受けて鉄スクラップ価格は上昇し、解体業者や粉砕業者がリサイクル料金に加えて鉄スクラップの売却益を得られるようになり、処分費用を請求する必要がなくなりました。さらには、今まで投機されていた不法投棄車まで鉄スクラップ欲しさで値が付き回収・リサイクルが進みました。
状況はさらに思わぬ方向に進み、今まで無償で解体業者に使用済み車両を引き渡していたディーラーや整備工場等の引取業者が、使用済み車両をオークションに出品したところ値が付くことに気が付いたため、使用済み車両がオークションに流れるようになりました。これを受けて解体業者はオークション経由で使用済み車両を落札することになったのです。
この様に、従来はお金にならないため参入業者が少なく、法律で規制する事でリサイクルルートの確保を狙ったのに対して、資源の高騰を受けて使用済み車両の価値が上がり、意図しない方向で自動車リサイクル業界は盛り上がってきました。
しかし、ここ半年で鉄スクラップ価格は約 1/7にまで落ち込んでおり、使用済み車両がオークションで値が付かなくなるのは明らかです。
自動車リサイクル業界も、この資源価格の変動を受けて新しい局面を迎える
ことになるでしょう。
【自動車の電子化とリサイクル】
資源価格の変動だけでなく、自動車の電子化も自動車リサイクル業界に新たな問題を生んでいます。具体的には、既存のリサイクル業者の電子部品に対するリサイクル技術やノウハウの不足です。
そもそも、電子部品には多くの有害物質と有価資源(レアメタル等)が含まれるため、家電リサイクル法では家電のリサイクルをメーカーの義務として、適切なリサイクルを目指していますが、現在自動車業界にはその動きはあまり見られていません。
ハイブリッド自動車等で使われる二次電池はコラムの冒頭で紹介した資源有効利用促進法にて「指定再資源化製品」にあたり、メーカー側での回収及び適切なリサイクルが行われている例がありますが、その他の電子部品については鉄スクラップと一緒に海外に流れるケースも少なくない状況です。
パナソニックEVエナジーによるリサイクル活動↓
http://www.peve.jp/recycle.html
先進国の責任として途上国における有害物質の廃棄を減らすためにも、また非資源国である日本においてレアメタル等の有価資源の海外流出を防ぐためにも、自動車メーカー主導で有害物質やレアメタルの使用場所の開示等、電子部品のリサイクル強化が求められています。
今後もハイブリッド車や電気自動車等の本格普及を受けて、自動車の更なる電子化が進むと思われます。自動車は電気製品としても一番大きな製品となりつつあり、その自動車に眠るレアメタルの都市鉱山をしっかりと採掘する仕組みが、限りある資源と共存していく上で求められてくるのではないでしょうか。
<尾関 麦彦>