中国ビジネスの達人(3)『中国に投資した資金の回収術』

住商アビーム自動車総研のアドバイザーであり、過去 15年の中国駐在・ビジネス経験を経て現在も浙江省杭州にある日産ディーゼルの製造会社に出向中の三木辰也が、自動車業界にとって避けて通れないテーマの一つである中国進出に携わる方々に対し、中国ビジネスのヒントを伝授するコーナーです。

第3回 『中国に投資した資金の回収術』
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前回までヒト、モノのお話をしてきましたので、今回と次回に分けて今度はお金の話をすることにします。

「中国では配当金支払が認められないと聞いた」とか、「中国では一度会社を設立してしまうと清算ができないそうだが」といったご相談をよく耳にします。

お答えとしては「最近はそんなことはかなり減っています。でも、やり方次第ではないとは言えません。」ということになります。(「中国ビジネスをやっている人に聞くといつもそんな答えだ!」とお怒りになるかもしれませんが、事実そうなのですからご勘弁ください。)

まず、配当金に関して。
国外に配当金を支払おうとする場合、

(1)合弁の場合なら、契約書で董事会の承認で配当金を送金できることを明記しておく。
(2)所轄の経済貿易委員会の許可を得ておく。
(3)所得税(10-20%)、営業税(5%)を納税する。
(4)必要書類を揃えて銀行に送金依頼をする。

というプロセスを踏めば、技術的には可能です。(3)の税金は受益者負担で、税金分を差し引かれて、日本に送金されます。

また、配当金以外の方法で国外に利益を持ち出す方法にも次のようなものがあります。

(1)ロイヤリティ
(2)技術指導費
(3)開発・設計費等

いずれも名目をはっきりさせて、日本の本社と現地の会社間できちんと契約書を締結したうえで、配当金に関する上記(2)~(4)までと同様の手続きを踏めば、送金は可能です。

次に、どうしても事業が上手く行かず、最終手段として清算の方法で投資資金(の一部)を回収しようとする場合ですが、これも契約と所定の手続を踏むことで技術的には可能です。

「あれ、それじゃあ結局、何でも可能ということではないか」
「じゃあ、投資資金が回収できないことがあるなんてもったいをつけることはないじゃないか」とおっしゃるかもしれません。

それがやっぱり回収できないことがあるのです。最も多い原因は、現地パートナーとの意見調整の拗れや関係悪化です。例えば輸出型企業の場合、日本側では現地法人を製造拠点やコストセンターとして位置付けてしまうことも多いと思います。基本的には現地に技術開発力を持たせたり、事業から利益を上げることを目的とはせずに製品だけを持ち帰り、もし、利益が出たらそれも配当その他の方法で日本に持ち帰ることとして、一方、損失が嵩んだり、現地事業の優位性が薄れて投資の意義が低下したと見るや清算を考えるということが結構あると思います。

ところが、現地パートナーは違う目的で投資している可能性があります。最新技術の移転だとか、事業利益を期待して合弁に参加していることが多いと思います。にも拘わらず、合弁企業には殆ど技術移転が進まず、たいした利益も上がらないところでなけなしの利益からの配当や挙句には清算を日本側が要求してきたとしたらどう思うでしょうか。

これらの議題を董事会の議題に上げたとたんに、猛反発、猛反対。董事会での決議もままならないうえに、税務署や所轄の機関に対しても(誇張も含めて)日本側の不誠実や不法行為をあげつらって妨害したり、強権発動を請願することだってありえます。その結果、日本側は抜けるに抜けられない、または、結局会社を現地パートナーに牛耳られるというような結果に陥ることだって最悪の場合はあり得ります。

こんなお話をすると、「やっぱり独資が身軽で良い」という方々が多いのですが、制度的な理由から独資は認められないとか、仕入先や販路の開拓を円滑に垂直立ち上げするためなどの理由で合弁の必要性や有効性は否定できません。

そこで合弁を前提にするとしたら、当たり前のことですが、合弁の事業の目的を明確にすること、それをよく話し合って事業のパートナーが納得して付いてきてくれる相手であることをよく見極めること、最悪の場合は、手切れ金を払うことも覚悟しておくこと、を押さえたうえで現地に進出することをお勧めします。

「資金回収術」というお金の出口のことを言っておきながら、結局「投資の際の心構え」のようなお金の入り口の話になってしまいましたが、合弁とは結局男女の結婚のようなものだと割切れば合点がいくところも多いのではないでしょうか。独身 (独資) は気楽だけど社会風習 (中国) ではそうもいかないことがある、だから結婚(合弁設立)するのだが夫婦生活(経営や利益処分)や離婚(清算)でもめるときは結局、その原因は結婚のときに遡ることが多い、というような。難しい問題ですよね。

<三木 辰也>