独自技術の活用戦略

◆三菱自動車、仏 PSA グループに EV 「i-MiEV」を OEM 供給する契約を締結

日本で販売している i-MiEV をベースに欧州向け EV を開発し、プジョーとシトロエンのそれぞれのブランドで販売へ。2010年末までの発売を目指す。

<2009年 09月 06日号掲載記事>

◆仏 PSA、プジョーがフランクフルト・ショーに「i-MiEV」ベースの EV を出展

「三菱・ i-MiEV」がベースの『iOn』を出展すると発表。専用の大型バンパーを採用、全長は i-MiEV より 85mm 長い 3480mm。来年末頃に発売する予定。

<2009年 09月 08日号掲載記事>

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【需要が高まるクリーンエネルギー車】

かねてから提携関係を交渉していることは報道されていたが、三菱自動車が「i-MiEV」を仏 PSA グループに OEM 供給することが発表となった。プジョーがフランクフルトショーに出展予定の車両の写真を見る限り、外観は「i-MiEV」そっくりであり、仕様も共通な部分も多いことからすると、基幹部分はそのまま流用し、充電電圧やテレマティクスサービス等、一部仕様変更を行う程度での供給になるのであろう。

昨今、クリーンエネルギー車への注目が高まっているが、既存のガソリン車と大きくパワートレインが異なるハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)の開発には、当然大きなリソースを要することになるため、あれもこれも同時に開発するリソースがどの自動車メーカーにもあるわけではない。

一方で、グローバルに展開している自動車メーカーは、各地域・市場に併せてクリーンエネルギー車を投入する必要がある。各国政府は、自国の経済対策の正当性を高めるために、環境対策面での施策立案に注力しており、自動車業界においては、環境負荷の低いクリーンエネルギー車を優遇・促進する施策の導入が進められている。

そうした中で、各市場に合わせたクリーンエネルギー車のラインナップを揃えるために、自社にはない技術については、OEM 調達や技術提携によって、他の自動車メーカーからの調達が必要になる。今回はこの OEM 供給・調達の背景について考えてみたい。

【OEM 供給・調達の背景】

今回の三菱自工と仏 PSA の提携については、今回が初めてではない。既に三菱自工は、SUV の「アウトランダー」をプジョー・シトロエンに OEM 供給している。欧州市場において、競合他社が小型 SUV 車種を投入していく中で、SUV車種をラインナップに加えたいと考えた仏 PSA 側のニーズと、生産台数を確保したいと考えた三菱自工側のニーズがマッチした結果として実現したものだと考える。

これまで、自動車メーカー間の車両の OEM 供給・調達は、多様化が進む市場のニーズに対応していくために、自社で手薄なセグメントの車種を補完するためのものというケースが主流であったと考える。調達側の立場からすると、自社のラインナップにはない軽自動車、小型車、商用車、SUV 等のセグメントの車種を補完するケースが多く、自社で開発や生産まで手が回らない、もしくは十分な競争力を確保できるだけの生産台数を見込めないために、 OEM による調達を選択することが多かったのではないだろうか。つまり、商品開発・生産面でのリソースを調達する OEM 調達だと考える。

一方で、今回の「i-MiEV」の OEM 供給も、EV を車種構成に加えたいと考えた仏 PSA 側のニーズと、量産規模を拡大させたいと考えた三菱自工側のニーズがマッチして実現するものと考えられるが、その背景は、これまでの OEM 供給の流れと違う側面があるのではないかと考える。

自社にはない車種ラインナップを補完するという点ではこれまで通りとも考えられるが、調達したのは商品開発・生産のリソースというよりは、技術開発面でのリソースという側面が大きいのではないだろうか。

現在、中国を始めとする一部の市場を除き、世界的には依然として自動車業界を取り巻く市場環境は厳しい状況にある。自動車メーカー各社は 3~ 4 割程度の余剰生産能力を抱えていると言われており、生産面でのリソースが不足している状況にあるとは考えにくい。こうした中で厳しい経営状況を改善するために、車種毎の収益率を高める必要もあり、不採算車種の撤退や今後投入予定の車種の見直しも進めている。商品開発面でのリソースも、昨年までに比べれば逼迫している状況ではないだろう。

一方で、前述の通り、急速に市場からの需要が高まってきたクリーンエネルギー車の根幹にあるパワートレイン技術は、一朝一夕で開発できるものではない。自社の技術開発リソースを集中させて注力することも当然あるだろうが、HEVや EV、その他省燃費技術など、開発すべきテーマが多数ある中で、全て自社のリソースでまかなうにも限界がある。そこで、今回のケースのような、技術開発面でのリソースを補完するための OEM 調達という選択肢が出てくるのではないだろうか。

【独自技術の活用戦略】

HEV や EV の普及は、自動車メーカーと部品メーカーの関係といった業界構造にも変化を与える可能性があることを 7月に執筆したコラムで触れた。

『EV がもたらす業界構造変化の可能性』

この業界構造の変化は、自動車メーカーと部品メーカーの関係だけではなく、自動車メーカー間の関係にも及ぶ可能性がある。昨今報道が過熱する環境技術だけでなく、安全技術、走行技術等、今後自動車メーカーが求められる技術課題は年々そのハードルが高まっている。その中で、全て自社で技術開発を行うことには限界が見えてくるメーカーも少なくないであろう。

自社で対応できなければ、当然外部から調達することになる。これまで通り、部品メーカーから調達するのも一つだろうが、その対象がパワートレイン全体や車両全体に及ぶ技術になると、必ずしも部品メーカーだけでは解決できないケースも出てくるはずである。そうなると、必然的に他の自動車メーカーとの提携による調達となるのではなかろうか。

自動車メーカー間での技術提携がこれまで以上に活発化するとすれば、今後自動車メーカー間の競争力を左右する上で、他社にはない独自の技術を確立することが、これまで以上に大きな武器を持つことになるだろう。特に昨今の環境技術のように、直面する厳しい規制への対応が求められる中で、その解決策となる独自技術を持っているとすれば、他の自動車メーカーにも優位に交渉を進められるはずである。提携関係を拡大させることで、自社技術の生産台数を拡大できれば、技術開発への投資回収も早期化できるし、量産効果によるコスト競争力向上も期待できる。

現在、2012年の欧州 CO2 排出ガス規制に対応するために、各自動車メーカーが環境技術の開発を強化させている。これまで HEV にそこまで注力していなかった欧州自動車メーカー各社も、HEV の開発を本格化させてきている。これまで欧州市場ではマイノリティであった日系自動車メーカー各社にとって、HEV や EV で参入する機会でもあるし、自社技術を欧州自動車メーカーに提供する機会でもあるはずである。独自技術を武器に開発した車両を市場投入していくか。他社にその技術を供給することでよりコスト競争力を高めるか。今後の欧州市場の戦略は、企業戦略を考える上で一つの試金石になるのかもしれない。

<本條 聡>