2007年 年始のご挨拶  『自動車から始める日本のイノベーション』

年始のご挨拶
『自動車から始める日本のイノベーション』

新年明けましておめでとうございます。
昨年、私ども住商アビーム自動車総研は設立3周年を迎えました。3年前、社名も全く知られておらず、一人のクライアントもサポータもいない、完全にゼロの状態からスタートしたことを考えますと、4万人近い読者の方にご支持いただき、多くのクライアントの方々とお仕事をさせていただく現場に恵まれ、自動車業界の大先輩である技術アドバイザや行政、機関投資家等多くの方々のご支援やご助言を常に得られる体制になった今日の姿は本当に夢のようで、大変感慨深い3周年となりました。
あらためまして、日頃住商アビームをご支援・ご指導いただいている皆様に御礼を申し上げます。

さて、昨年初、私は同じ本誌「年始のご挨拶」の中で、2006年を「新たな世界標準を創造する年」と定義付けました。2006年には世界一の自動車メーカーが日本企業になるであろうこと、中国が日本を抜いて世界第二の自動車市場になるであろうことの二つの予測に、日本のものづくりを支えた戦後世代の第一期生の引退が始まるという事実を加えた 3 点をその根拠・きっかけとしたものです。

残念ながら一つ目の予測の方は今年にお預けとなりましたが、2006年が「日本発の自動車イノベーション」の初年度になったことは間違いありません。 安全面では ITS インフラ協調支援システムの実験がスタートし、車載システム単独でも LS460 に見られるようにアクティブセイフティが商品化されるようになりました。
環境面では省資源・低燃費・ゼロエミッションへの意識が高まり、燃料電池車やハイブリッド車だけでなく、バイオエタノール自動車やクリーンディーゼル車の投入など低コストで効果や拡張性の高い現実的な選択の余地が広がりました。
趣味・娯楽性、利便・快適性といった企画品質の面でも C セグメントや軽自動車に駐車支援システムが搭載されるなど、世界に先駆けた少子高齢化対応が始まりつつあります。

このように日本の自動車産業が「新たな世界標準の創造」に向けて動き始めたことは事実であり、大変喜ばしいことですが、新たな脅威も芽生え始めています。開発リソースの分散希薄化とか天然資源の減少・高騰、韓国車の製造品質向上といった問題も勿論気になるところですが、最大の敵は日本車的なものづくりに対する「驕り・慢心」にあると考えられます。

販売不振・業績低迷・格付け低下を踏まえて株式売却や工場閉鎖、業務提携に走るビッグ 3 の狼狽ぶり、北京モーターショーに出品された中国の自主開発モデルのデザインが日本車のコピーであったことや、昨年末に週刊ダイヤモンド誌が特集した「自動車依存シンドローム」なる記事に接して、「あのようなものづくりをしているからああいうことになる」、「あんなものづくりではいつまで経っても日本車に追いつくことは不可能」、「他産業も自動車のものづくりを見習うべきだ」と侮蔑・失笑し、「やはり日本車のものづくりが一番」と胸を張った関係者も多いことと思います。

このような状況は 20年前、80年代半ば頃に日本車が世界を席巻し、「もはや日本が世界に学ぶべきことは何もない」と息巻いた時の状況に酷似しています。しかしながら、その 10年後の 90年代半ばには世界の自動車産業では逆転劇が起こり、日本車メーカーの殆どが経営危機に陥った挙句、米欧の傘下に入って何とか持ちこたえたことを忘れるわけには行きません。10年前の日本車メーカーの経営危機はバブル崩壊が直接の引き金でしたが、実は過剰品質・無秩序な専用設計によるコスト競争力の低下が進行していたことがより本質的な原因です。
つまり、当時の日本車的ものづくりの敗北です。

また、10年前ビッグ 3 も当時の日本車のものづくりを投資に見合う収益を生み出さず、マーケティング視点の欠如した非戦略的ビジネスモデルとして軽視し、オープン・モジュラー型のものづくりを益々強めていきました。そのことが今日の凋落の原因になっています。

つまり、日本でも北米でも、勝利も敗北も原因はものづくりそのものに根ざしており、敗北は勝利の瞬間に他者からの学習を閉ざしたところから始まっていたとも言えるのです。

日本車が名実ともに世界のフロントランナーとなった今、日本の自動車産業が心しておくべきことは日本車的ものづくりに対する「驕り・慢心」を排除すること、謙虚に外部の声を聞き、意識的に外部の知恵や技術を取り入れて、モンロー主義的傾向が強すぎる嫌いのある日本車のものづくりを日々カイゼンしていくことではないでしょうか。

さもなければ、「日本発の自動車イノベーション」や「新たな世界標準の創造」など到底覚束ないことになります。また、現実にリーディング・インダストリーとして日本の産業・市場・社会に大きな影響力を持つ自動車産業におけるイノベーションは、日本そのもののイノベーションにつながっていくはずです。

私ども住商アビーム自動車総研では、そのような確信のもと、「自動車から始める日本のイノベーション」なる評語を掲げ、今年も異業種や海外の技術・ビジネスモデルを取り入れることでイノベーションを実現しようとする日本の自動車産業のお手伝いを使命としてまいります。本年も何卒宜しくお願い申し上げます。

<加藤 真一>