今後の問題は GM を両側で挟む、部品サプライヤーとディーラーの運転資本

◆GMがTier-2部品サプライヤーに対する直接支払をスタート
フルサイズピックアップトラックやシボレートラバースとプラットフォームを共有するモデルに部品を供給する Tier-2 サプライヤー 150 社に対して、支払いを直接受け取るオプションを提供。

◆ディーラーの在庫担保融資(フロアプラン)が危機的状況。スズキ

<2009年 3月 2、9、16日付Automotive News>

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本コラムが配信される 日本時間の 09年 3月 31日(火)には米国政府によるGM/ クライスラーへの支援有無が明確になっているはずなので、29日(日)~30日(月)にかけて執筆すること自体正直思い切りが必要ですが、どうやら 3末時点で GM が単純に破綻するということにはならなそうです。

というところまで 30日に書きながら、31日(火)の朝にこの段落と次の段落を加筆しています。GM については 60日、クライスラーについては 30日の猶予期間と同期間相当の運転資金(実額は開示されず)の支援が提供される形となりました。ウォールストリートジャーナル (WSJ.com) によれば大統領は両社が提出した再建計画は不十分であるとの見解を示し、GM については 60日の間にステークホルダー(債権者や、特に UAW) との間の合意を取り付けること、クライスラーについては 30日以内に FIAT との合意を取り付けることを条件としているとのことです。

また、オバマ大統領の自動車作業部会では、今後 GM、クライスラー両社の新車及び販売済み車両のワランティーについては政府が保証すると共に、政府によるフリート車両買い付けの加速、新車販売時の税金に関わるインセンティブの付与などが出された模様です。

【GM本体の状況】

今回 GM は既に受領済みの 174 億ドルに加えて政府に 220 億ドル(2 兆円強)を求めていますが、以下数値が 08年の GM の赤字と昨年末時点の手元現金、今年 1年の予想キャッシュバーン(現金をどれだけ使うか)をまとめたものです。

・08年 1-12月税前赤字 ▲294 億ドル
・08年1-12月営業キャッシュフロー ▲121 億ドル
・08年 12月以降受領済み融資金額 174 億ドル*
・08年12月末手元現金 140 億ドル

* 一部、09年 2月受領分を含む

・09年 1-12月予想キャッシュバーン 180 億ドル

因みに、08年 12月末時点の GM の借入残高は 465 億ドルとなっています。

手元の 140 億ドルは企業規模からしてギリギリの水準になっていることから、もし昨年末時点で政府支援が無ければ倒産していたであろうことは数字で確認できます。また、今回の 220 億ドルが満額出るかは別にして、足元も極めて厳しい状況となっています。

【部品サプライヤーへの対応】

米財務省は 3月 19日に、経営難に直面している米国内の自動車部品メーカーを支援するため、50 億ドルを超える公的資金を投入すると発表しました。具体的には部品の納入先が破綻(はたん)状態に陥った際、納入済みの部品代金を政府が保証するとのこと。また、資金繰りを支援するため、部品メーカーの保有する債権の一部を政府が引き取るというものです。

GM 自体も同様の仕組みを上記 220 億ドルの内訳として政府に要請しています。具体的には、部品サプライヤーから GM に対する売掛金を対象に政府が保険設定することで、部品サプライヤーが金融機関から運転資本を調達する際に「回収可能性のある債権」として担保差し入れ可能な形を取るというものです。

保険設定額は 45 億ドルを上限として、2011年を期限とするとのことです。

この保険が無ければ部品サプライヤーとしては決済条件として納品時現金払いを要求せざるを得なくなり、結果 GM にとってのキャッシュアウトが更に加速することになってしまうことから重要なファクターとなります。

また、GM は奇策として部品購入代金の二次部品サプライヤーへの直接支払いという方法を一部対象モデルで導入することを発表しました。一次部品サプライヤーと GM との間の決済条件は通常納品後 45日であり当該決済条件が二次部品サプライヤーと一次部品サプライヤーとの間でも適用されますが、一次部品サプライヤーの中には二次部品サプライヤーへの代金支払いを遅らせることで手元の現金を確保する動きに出ているところもいるとのことです。(具体的には納品後 60日を越えても支払わないとのこと)

当該プログラムは、当初はフルサイズピックアップトラックとシボレートラバース他一部のモデルの部品を供給する部品サプライヤー群との間でスタートし、その後適用範囲を拡大するとのことです。(09年 3月 16日付 Automotive News誌より)

全米で経営危機に直面している自動車部品サプライヤーは 500 社にもなるとの試算もある中で、あらゆる手段を用いて部品サプライヤー間の運転資金の融通を行う動きを加速させていることが分かります。

【自動車ディーラーへの対応】

自動車部品サプライヤーにとっての運転資本は、部品を納入してからメーカーから回収するまでの期間(上記事例では 45日*)ですが、自動車ディーラーにとっての運転資本は、メーカーから自動車を仕入れてから販売するまでの期間となります。この期間の資金は、通常金融会社により猶予されていました。

* 仕入れた素材の決済日から部品納入までの期間を除く。

昨年末には全米で平均流通在庫日数が 100日を超えたこともありましたが、通常金融会社から猶予を受ける期間(フロアプラン期間)は 90日以内です。事実、米国の上場自動車ディーラー大手 3 社の平均は 08年 9月末の貸借対照表ベースで 75日となっています。

GM の金融会社は GMAC ですが(筆頭株主は投資ファンド)、その他多くのノンバンク同様金融危機後に銀行免許を取得のうえ、政府から 60 億ドルの支援を既に受けています。この結果、

1)ディーラー向けの在庫担保融資(フロアプラン)
2)消費者向けオートリース
3)在庫担保融資を実施している車両に対するオートローン

の 3 つが銀行法により制限されています。

全米ではこの影響で GM 系のディーラーは車両の仕入れそのものが困難になりつつあります。また GM のみならずスズキのディーラーでも同様の事例が生じつつあるようです。スズキは嘗てから GM と資本関係にあったことから、米国におけるスズキディーラーの在庫担保融資は GMAC が多く扱うという傾向がありましたが、全米における販売台数 1 位のスズキディーラー(06年に 2,641台販売)が在庫担保融資を受けられなくなったばかりか、既存の在庫も GMAC によって引き取られてしまったとのことで、売るものが無い状態とのことです。(Automotive News 09年 3月 16日号より)

血税が投入されたという観点で、政府からの支援金は消費者が直接享受出来る範囲とするべきであるという原則がある反面、自動車ディーラーからは、結果として在庫担保融資にしわ寄せが来ることに対する問題が提起されつつあります。

例えばカリフォルニア自動車ディーラー協会は、ガイトナー米財務長官宛てに「連邦政府からの支援を受けている金融機関がフロアプランに不公正な条件を付与しないよう」依頼する書簡を 2月末に提出したとのことです。

【モノと金の流れ・・・1. → 2. → 3. → 4. → 5.・・・どこから始める?】

1. 二次部品サプライヤー
2. 一次部品サプライヤー
3. 自動車メーカー
4. 自動車ディーラー
5. 消費者

さて、それではどこの決済がスムーズに流れるようにするのが王道でしょうか?当たり前ですが、定石では最終購入者である 5. の消費者がクレジットを獲得できるようにすることが大切であり、最終購入者が総原資を確保したうえで、徐々に 4. 3. 2. 1. と繋げていく形となります。例えば T 型フォードは、労働者の賃金をアップさせたことにより 5. を確保することから始めたことは有名です。

一方、今回のケースでは丁度真ん中にいるメーカーが潰れそうな状況になっていますので、先ずは 3. を手がけながら、次に消費者である 5. と 末端で企業体力が劣る 1. を手がけています。

ただ、仮にど真ん中のメーカーが一息ついたとしても、5. から順に数字が若くなる方向に資金が徐々に流れるまでにタイムラグは生まれます。

結果、今後急激に資金繰りが厳しくなるのは 2. と 4. になると思われます。

産業新陳代謝の触媒となり得る事業会社やファンドといった、リスクテイクが可能な母体へのキャッシュの移動は、全世界的なデレバレッジ効果により直ぐには期待出来ないものの、こうした領域に対するリスクをとるプレーヤーの活躍を期待したいものです。

【最後に】

どうやら方向性としては GM が新会社設立後、旧会社から優良ビジネスのみを事業譲渡したうえで、この新会社にて UAW との間で新たな労働契約を締結して、連邦政府からの巨額融資を受ける形のスキームが検討されている模様です。旧会社が新会社の株主としても一定割合で残りながら(優良事業の価値を幾らと判断するか次第で出資比率も変わります)、新会社を IPO させる、乃至は同社への投資を希望するプレーヤーへの一部株式譲渡に基づくキャッシュの回収も念頭に入れている模様です。

こうなると、どの資産が優良でどの資産が不良なのか?というお決まりの話と、これを誰が決めるのか?という話になりますね。

米国連邦政府ということになるのでしょうか。本当に不思議且つ大変なことになってきました。

<長谷川 博史>