自動車業界ライブラリ > コラム > バイオエタノールが抱える課題
バイオエタノールが抱える課題
◆ホンダ、ブラジルでバイオ燃料でもガソリンでも走るバイクの発売を発表
バイオエタノール 100 %対応の「フレックス・フューエル技術」を 2 輪車では初めて実用化。150cc の「CG150 TITAN MIX」を現地の子会社で生産し、3月中旬に 6340~ 7290 レアル (約 26.7 万~ 30 万円) で発売へ。年販計画 20 万台。
<2009年 03月 11日号掲載記事>
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【フレックスフューエルビークル】
昨年の原油価格高騰もあり、昨今バイオエタノールに代表される代替燃料技術の開発も進められている。特にブラジルのように政策的に代替燃料の導入が進められている地域もあり、こうした市場で事業展開する上で、代替燃料に対応した車両の導入は不可欠となっている。
この代替燃料だが、多くの場合は、ガソリンとエタノールを混合させて使用するケースが多く、その混合比率を持って識別されている。例えば、ガソリン90 %にエタノール 10 %を混合させたものは「E10」、エタノール 85 %にガソリン 15 %を混合させたものは「E85」というように表記される。
このガソリンと代替燃料の混合比率に合わせてエンジン制御を対応することで、どんな混合比率でも対応できるクルマがフレックスフューエルビークル(FFV)である。投入された燃料を識別して、その噴射量やタイミング等を制御するだけでなく、タンクや配管等の腐食対策も施されている。
四輪乗用車では、各自動車メーカーが既にこの FFV を市場投入しているが、二輪車の分野では今回のホンダが初めての実用化だという。今回は、このバイオエタノールが抱える課題について考えてみたい。
【バイオエタノールが抱える課題】
バイオエタノールは今後も普及していくのであろうか。それを考える上で重要な課題が四つある。
一つは、カーボンニュートラルである。
そもそも、バイオエタノールが注目された理由は、このカーボンニュートラルと密接な関係がある。京都議定書以降、世界的に取り組みが進んでいる CO2排出量削減という流れの中で、植物由来の代替燃料は、CO2 を排出してもカウントされないというルールが適用されている。植物自身は、大気中の CO2 を吸収して成長するため、その成分として含まれる炭素は、元々大気中に CO2 として存在していたものであり、それを燃料として消費することで再び大気中に CO2を戻しても、CO2 を増やしたことにはならないという考え方に基づくものである。だから、植物由来のバイオエタノールは、カーボンニュートラルとされている。
しかしながら、現実的には、植物を成長させる過程、収穫する過程、精製する過程等で消費される労働力や機械の稼動も考慮すれば、本当の意味でカーボンニュートラルなのかどうかは疑問である。原料や精製方法が一様でないので難しい部分があることはわかるが、こうした部分を盛り込んだ形の CO2 排出量を設定することができれば、正当に評価しやすくなるのではないだろうか。
二つ目が食糧問題との関係性である。
バイオエタノールの利用を積極的に推進している代表的な市場がブラジルであるが、このブラジル自身、CO2 排出量を削減するためにバイオエタノールの精製や利用を始めたわけではない。同国の主要産物である砂糖の国際市場相場を維持するために、相場が下がった時にバイオエタノールの精製を進めて備蓄可能なものとすることで、自国の産業の競争力を維持しようとしたことが始まりだといわれている。つまり、砂糖が高い時は砂糖で外貨を獲得し、砂糖が安くなったら、バイオエタノールを消費することで原油輸入を減らすということであろう。現在では、このバイオエタノール自体も外貨獲得手段となっている。
ところが、昨今の原油価格高騰の中で、飼料や食料の価格も高騰する事態が起こった。米国でのバイオエタノール精製に注目が集まり、投機マネーが殺到したことで、トウモロコシ相場が引き上げられたことによるものである。
ご承知の通り、発展途上国では安定的な食糧の確保は大きな問題である。こうした状況を考えれば、バイオエタノールの普及を進めて、食糧の供給量や相場自体にも影響を与えてしまうこと自体、間違っている気がしてならない。根本的には、食糧問題と摩擦を生じない原料調達や精製手法の確立が理想だと考える。
三つ目は、絶対的な供給量である。
世界のエネルギー消費自体は、原油換算で、年間約 112 億トン(2004年、資源エネルギー庁調べ)である。現在ではもっと増えている可能性が高い。このうち 10 %をバイオマス・廃棄物が占めているが、そのほとんどは廃棄物の焼却時のエネルギーを再利用しているものである。米国の調査では、バイオエタノール自体は、2000年から 2007年までに、世界の生産量が 3 倍に増加したが、依然として世界の輸送用燃料供給の 3 %未満に過ぎないという。
世の中の全ての穀物や砂糖を食糧から燃料に転じたとしても、原油を始めとする既存エネルギーを代替できる存在にはなりえるものではなさそうである。であれば、食糧問題の解決を優先すべきであろう。代替する存在ではなく、補完する存在として考えるべきなのではないだろうか。
そして四つ目は、政策的な方針である。
日本の事情を考えれば、バイオエタノールを ETBE と呼ばれる物質に変換してからガソリンと混ぜるべきだという意見もあれば、バイオエタノールをそのままガソリンに混ぜるべきという意見もあり、政府自身もどういう方針を取るのか、まだ見えないところが多い。実際、どんな形で導入されたとしても、メリットを得る業者もいれば、デメリットを受ける業者もいるはずで、簡単な問題ではない。
ブラジルのように明確に方針を打ち出しやすい背景があれば、政府としても決断しやすいが、日本の場合、そこまで明確な背景がないままに進んできたこともあり、簡単にはいかないかもしれない。政府の政策立案と実行力が問われるところだが、業界毎の利権も絡む問題なので、しばらく結論が出そうにも思えない。
こうした課題を考慮した上で、今後のバイオエタノールの活用を考えていくべきであろう。
【バイオエタノールの可能性】
ここまで、否定的な課題ばかり書いたが、バイオエタノールの存在を全面的に否定したいわけではない。
筆者が最も期待しているのは、廃油や廃材からバイオエタノールを精製する技術とその応用用途である。既に国内でも 50 以上の自治体がバイオ燃料を利用する取り組みを始めているという。
その中でも最も知られている取り組みの一つが、京都市である。廃食用油から精製したバイオ燃料を、市のゴミ収集車約 220台(バイオ燃料 100 %)や市バス約 80台(バイオ燃料 20 %混合)に利用しているという。
こうした取り組みの結果、これまで焼却処分していた廃油、廃材が、既存の焼却処分以上の効率でエネルギー回収できることが見えてくれば、その価値は高くなると考える。
勿論、供給量やインフラ、燃料自体の品質保証の問題もあるため、一般消費者が利用する乗用車、二輪車に全面的に導入することは簡単ではないし、現実的でもないかもしれない。しかし、用途を限定した領域で活用していくことで、バイオエタノールの理想的な形が見えてくれば、徐々に普及させていくこともできると考えられる。
そうした視点で考えると、バイオ燃料に対応する二輪車は、有効な利用手段の一つになる可能性が高いと考える。業務用車両として、カブに代表される二輪車は不可欠な存在である。これがバイオ燃料で対応できれば、廃油・廃材からバイオ燃料の精製とその利用という小さな循環系が成り立つ可能性があると考える。例えば、蕎麦屋さんの出前用バイクが自前のてんぷら油の廃油で動くような流れが出来たら、実効性は高いと考える。こうした成功事例が生まれれば、他にも展開が広がっていくかもしれない。
環境問題への注目度が高まる中、他社がまだ手がけていない環境対策を模索する企業も少なくない。バイオ燃料も、そうした企業が注目すべきものの一つであると考える。
<本條 聡>