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2009年 年始のご挨拶
◆年始のご挨拶
新年明けましておめでとうございます。
私ども住商アビーム自動車総合研究所は、このコラムを読まれている 4 万人を超える読者の皆様に支えていただきながら、2008年も多数の自動車業界及び周辺業界のクライアントの皆様と一緒に、「世の中により良い価値を提供する活動」に従事することが出来たことを大変有り難く思っております。
あらためまして、住商アビームをご支援・ご指導いただいている皆様に御礼を申し上げる次第です。
さて、私、長谷川自身は当社の代表を 2008年 2月より前任の加藤より引継いだ次第ですが、昨年の年頭に加藤より 2008年の自動車のテーマを「survivability (生存の可能性)」と設定させて頂いておりました。
https://www.sc-abeam.com/mailmagazine/backno/0189.html
詳細は上記リンク先を参照頂ければと思いますが、元旦からの日経新聞 1 面で展開されている主張である「サバイバビリティ」を正に 1年先取りしていたわけです。
書くという作業は読むという作業の 5 倍の労力と知識・経験の蓄積を必要とすると個人的に実感しています。誰かが書いた文章を読んで「これは知ってる」と思うことは簡単ですが、実際に自分で同じことを書こうと思うとなかなか出来ないものです。逆に読者が読んで、それなりにためになったと思うことを書いている作者は、その 5 倍の労力を文章の裏で費やしていると考えても良いと思います。
住商アビーム自動車総合研究所では日々の自動車業界関連のニュースを元に、当社なりの独自のパースペクティブを一定以上のボリュームで毎週コンスタントに「Auto Business Insight」として皆様にお届けしていますが、これらは弊社のコンサルタント達がアンテナを高く巡らせながら、自ら日々の情報に接することで、「4 万人を超える皆様に責任感を持って主張をお届けする」というプロセスを経ています。このプロセス自体が、通常の 5 倍の労力をかけて一つのことを考え抜くということに繋がり、結果弊社の知的生産性・創造性の維持向上に繋がっていると信じております。
その意味では、このコラムで皆様に今年のテーマを主張させて戴くプロセス自体が当社のクオリティ維持に繋がっていると言い訳をさせて頂きながら、思考を結晶化させていければと思います。
2008年も終わりに差し掛かった頃から急展開を見せた金融危機が、実体経済の中で特に自動車業界に大きなインパクトを与え、具体的には総需要が全世界的に約 3 割も減少するという昨年頭には考えられなかった動きの中での今年のテーマ設定は困難を極めますが、2008年までの 10年間の自動車産業は「過去の蓄積と未来の可能性の圧縮燃焼」であったと思います。
「過去の蓄積」は、自動車にとって仕入の根源にあたるエネルギー、具体的には化石燃料を指します。即ち、過去何億年もの間に生息していた動植物が体内に蓄積した炭素を、18~ 19 世紀の産業革命後の 200年強といった極めて短い期間で燃やしているということです。地中奥深くに眠っていた過去の炭素ストック(蓄積)数億年分を一気に圧縮燃焼することが、現在の自動車産業のサバイバビリティの前提条件となっていることは、今年をきっかけに乗り越えなければならない大きな課題です。
もう一つの「未来の可能性」の圧縮燃焼とは、正に金融を前提とした自動車販売のサブプライム層までの拡大です。金融において本来貸し出し可能金額≒借り手の将来所得の現在割引価値となります。これを 4年ローンでは 48 か月分行っているのが自動車ローンであり、未来の所得の可能性を現在に先取りして消費しているということになります。勿論、借り手が所得を確実に得ていけば問題はないわけですが、仮に自動車が 100 % 48 ヶ月自動車ローンで販売されていたとすれば、理論上は常に 4年分の需要を現在に圧縮して燃焼し続けているということになります。
米国(及び欧州)で住宅をモーゲージで購入した消費者は当然自動車も同様に自動車ローンやリースで購入していました。しかも本来貸し出し可能な層から一歩踏み出してリスクの高い借り手に対しても、その後証券化というプロセスを入れることで表面上のリスクを軽減させていたことは、既に新聞報道などで繰り返し耳にされているかと思います。しかも、セカンダリー市場である業者間オークションなどを経る事で担保価値の保全を期待出来る筈であることを前提に、貸し手の側でこの残存価格リスクをも負う形で将来需要を先取する形をとっていることから、2009年は特に米国におけるリース関連引当金積み増しに伴う費用増、及び引き当て額を上回る実際のロス発生が予想されます。
こうした、自動車を正にモビリティとする前提のエネルギー源である化石燃料のハイレバレッジ化と、需要創出における将来所得を取り込むハイレバレッジ化が仕入と販売両サイドで行われてきたわけですが、これらの手法は正にサステイナブルではありません。
そこで、私は敢えて 2009年を「イノベーションへの勇気」の年と定義したいと思います。
企業であるからには一定の資源(会計用語では総資産と言っても良いし、これに人材やバランスシートに載らない各種資源を本来は含む)を預かる以上、これを元手に世の中で期待される利回りプラスアルファを生み出す必要があるのは必然ですが、上記仕入・販売両サイドのハイレバレッジを是正せざるを得ないことを考えると、これまでの世界の前提条件であった持続的な 5 %成長と、これに基づく定石投資は過去のものになりました。
私は 2008年 2月に新たに当社の代表に就任した際、「イノベーションは新たな規格や価値を自ら創り出す構想力のもとで初めて生まれる。どれだけ巨大な優良企業であっても、より大きな資産を、より大きく収益性の高い市場に特化していくだけでは、結果として、必然的に衰退へと向かう」という Harvard Business School Press が発行した『イノベーションのジレンマ(クレイトン・
クリステンセン著)』を引用して、イノベーションの大切さを訴えました。
つまり、今現在の環境を前提に、儲かりそうだからより大きな市場により多
くの資源を、という定石に基づく投資行動ではリターンをもたらさない時代に
なりつつあるということです。
足元の経済環境が更なる悪化を続ける中、キャッシュと人財を維持しつつ人
材の育成を継続し、本当に正しいと経営者として思えること、世の中が必要と
すると信じるものに愚直に投資し続けることで新たなイノベーションを実現す
る勇気が求められるスタートの年、それが 2009年であって欲しいと思います。
私ども住商アビーム自動車総研では、こうした確信のもと、「自動車から始
める日本のイノベーション」なる標語を設立当初から掲げております。
この原点に立ち戻りながら、今年もイノベーションを実現しようとする日本
の自動車産業のお手伝いを愚直に継続していきたいと思います。
本年も何卒宜しくお願い申し上げます。
2009年 1月 6日
<長谷川 博史>