くるま解体新書『バリューチェーンの重要性(3)』

弊社親会社であるアビームコンサルティング(旧デロイトトーマツコンサルティング)が、自動車業界におけるモノづくりから実際のチャネル戦略に至るまで、さまざまな角度から提案していく。

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第 5 弾は、アビームコンサルティング製造事業部マネージャーの大河内ケビンが、バリューチェーンの重要性について 5 週に渡って紹介する。今回はその第3 回にあたる。

第5弾『バリューチェーンの重要性(3)』

(日刊工業新聞 2004年09月22日掲載記事)
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自動車業界のマーケティング戦略は「マス」から「個」へ移りつつある。自動車メーカーの課題は高ロイヤルティー顧客のニーズを把握し、対応することだ。

米国の自動車産業界は独占禁止法への懸念から垂直統合がされておらず、日本のような「系列」は見当たらない。独立系のディーラーは他組織と情報を共有することに積極的ではなかったため、米自動車メーカーは 「GM BuyPower」などのウェブサイトを駆使して顧客との直接交流を図ってきた。顧客はサイトからディーラーを検索して見積もりを取るが、ディーラーにとっては潜在顧客と接触できるメリットがある。

全米自動車ディーラー協会の調査によると、ディーラーの負担する広告費は車 1台当たり 512 ドルに上ることから、大きなコスト節約となるだろう。

メーカーにとっては、顧客の個人情報と車の好みを知ることができる。そして販売からアフターサービス、そして次の購入までモニタリングとアプローチを続け、顧客が同じメーカーから次の車を購入した時点で、高ロイヤルティー顧客として認識し、値引きやオプション、迅速な納車などの優遇サービスを提供し、より高いロイヤルティーの獲得に繋ぐ。この「閉じた輪」のようなプロセスに顧客を取り込む努力を進めている。

クロスマーケティングによって販売機会を創出することも可能だ。トヨタが98年に創設した総合情報ネットワークサービス「Gazoo」 は、車だけでなく、衣服から旅行パッケージまで扱う生活全般のショッピングサイトだ。

さらにアマゾンドットコムのように、ログイン画面を顧客の嗜好に合わせてカスタマイズすれば、購入意欲を喚起できるだろう。

たとえば、海外旅行をオンライン発注した女性は独立心が強く、高額の買い物をできる購買力を持つ可能性が高いことから、この層をターゲットとするトヨタ自動車の「イスト」やマツダの「デミオ」などの広告を展開すると効率的だ。

顧客データ入手のもう一つの手段がナビゲーションシステムだ。200 万人を越す利用者をもつ ゼネラル・モーターズ(GM) 傘下のオンスターは、全地球測位システム(GPS) を使った位置情報だけでなく、ドライバーが好む道路やレストランなど幅広い情報を提供する。またエアバッグが作動すると直ちに救援が向かう「エアバッグ・デプロイメント・サービス」も展開中だ。メーカーはこれらのサービスを提供しながら、ドライバーの好みという貴重な情報を得る。

03年のカーナビの普及は約 1,290 万台であったが、総務省は 2015年までに4,200 万台に達すると予測している。メーカーは車との双方向情報通信サービスであるテレマティックスを応用して、膨大な顧客情報をリアルタイムで受信することが可能となる。

かつて顧客によるディーラーへの来店は 3、4年に一度だけだったが、顧客の情報を得て接触機会を増やすことで、付加価値サービスの提供や売り上げ拡大のチャンスにつなげる。

ウェブサイトとテレマティックスは、顧客ロイヤルティーを強化するうえで重要な2大ツールといえよう。

<大河内 ケビン>