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くるま解体新書『バリューチェーンの重要性(5)』
弊社親会社であるアビームコンサルティング(旧デロイトトーマツコンサルティング)が、自動車業界におけるモノづくりから実際のチャネル戦略に至るまで、さまざまな角度から提案していく。
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第 5 弾は、アビームコンサルティング製造事業部マネージャーの大河内ケビンが、バリューチェーンの重要性について 5 週に渡って紹介する。今回はその最終回にあたる。
第5弾『バリューチェーンの重要性(5)』
(日刊工業新聞 2004年10月06日掲載記事)
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これまでの総括として、今回はトップメーカーが採用している方法をもとに、注文から納車までの重要なステップを見ていきたい。
新規顧客の開拓より、リピート顧客を維持するほうが低コスト。そこでメーカーは顧客情報を網羅したデータベース(DB)を構築し、カスタマーリレーションシップマネジメント(CRM)を駆使して継続的に接触する。また CRM はディーラーに対して、顧客に接触すべきタイミングに注意を喚起することもできる。さらに潜在顧客についてもディーラーへの訪問や、メーカーサイト上でオプションを選択して好みの車を組んでみるといった行動から関心の程度を判断し、優先順位をつけるのも CRM の特性だ。
顧客情報を得たディーラーはさまざまな戦略が採れる。ダイレクトメール(DM)にとどめるか連絡すべきか判断したり、優先すべき客には優遇サービスを提供し、ライバルメーカーに流れないように努める。ポータルサイトで顧客にあわせたキャンペーンを実施することも可能だ。これらは顧客ロイヤルティーを判別し、一連の流れをサポートする「見込み顧客システム」が決め手となる。
次のステップのビルド・ツー・オーダー(BTO)では、注文が入り次第、バリューチェーン全体に情報を送り、速やかな納車を目指す。注文はさまざまな方法で処理することが可能だ。ゼネラル・モーターズ(GM) やフォードモーターのロケイト・ツー・オーダー(LTO)は在庫をモニタリングし、適切なディーラーに配送する。トヨタ自動車のフィット ツーオーダー(FTO)には、半製品にオプションを装備して出荷するシステムもある。
メーカーサイドでは柔軟性を発揮して、生産スケジュールの変更や需要の増減に速やかに応じられる体制が必要だ。1 ラインで 8 モデルを生産できる日産自動車が好例だ。
1台ずつの受注生産は、オーダー管理が複雑で生産効率が下がる。だがサプライチェーンマネジメント(SCM)を用いて在庫を削減し、生産計画とスケジュール策定による改善ができる。生産ラインを効率良く稼動させるには受注情報と、製造やサプライヤーへの情報がリアルタイムに統合され、ツールとして機能することが重要だ。
日米欧メーカーのコンソーシアム「コビシント」や、フォルクスワーゲンの「グループサプライ・コム」などのオンラインコラボレーション、電子商取引もすでに始まっている。
完成車を速やか、かつ効率的に届けるシステムも必要だ。特に米国では膨大な数の車を、広範な地域に最短時間で届けるために、洗練された配送システムが必要だろう。
結論を言えばデータの統合と、そのデータをバリューチェーン全体でリアルタイムに共有することが重要だ。メーカーが先を競ってバリューチェーンの構築を実現しつつある今、自動車業界の新しい時代が始まろうとしている。
<大河内 ケビン>