くるま解体新書『ブランドマネジメント(1)』

弊社親会社であるアビームコンサルティング(旧デロイトトーマツコンサルティング)が、自動車業界におけるモノづくりから実際のチャネル戦略に至るまで、さまざまな角度から提案していく。

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第 7 弾は、アビームコンサルティング USA シニアマネージャーのクリスチャン・ボッチャーが、ブランドマネジメントについて 5 週に渡って紹介する。今回はその第一回にあたる。

第7弾『ブランドマネジメント(1)』
(日刊工業新聞 2004年11月10日掲載記事)

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世界の自動車メーカーは一部を除き、市場における生産力過剰、増大する競争圧力、その揚げ句の利益圧縮に苦しんでいる。今後、成長と収益性を確保できるのは、自社ブランドを「プレミアム」として差別化できる企業か、「コモディティー(日用品)」として自社製品を超低コストで提供できる企業だけになる。それ以外の企業は厳しい戦いを強いられる。

韓国の現代自動車とその傘下にある起亜自動車は、2010年までに世界 5 大自動車メーカーの一角を担う計画を発表し、インドのタタとマルチは積極的に輸出を進めている。中国の第一汽車集団公司、東風汽車有限公司および上海汽車工業グループも、今後 10年間に高品質な車の輸出を拡大させる可能性を秘めており、いっそう品質を向上し、低コストで製品を供給していくだろう。

供給過剰環境における販売活動は、大幅な割引きや過剰サービスが必要となって利益が縮小する。保守的なブランドや車種は、なおさらである。高品質でユニークな製品を効率的に提供できるのはトヨタ自動車や日産自動車、ホンダ、BMW、ポルシェ、プジョーシトロエングループ(PSA)などに限られる。目標を絞り込み、迅速な行動に出ることができるか否か、この分化傾向は強まっていく。

では、その成功要因は何か。消費者は、製品やメーカーと自分との間に何らかの『感情的繋がり』を構築し、それに左右されることが多い。競合製品と同等レベルで、ある程度の水準を満たすならば、消費者は車の機能よりも、感情的つながりや情緒的満足を重視する傾向がある。これらは数値化が困難で、効果を測定しにくい側面がある。

もし自動車メーカーが自社ブランドの構成要素として購入プロセスや製品属性に加え、この情緒的側面でもほかをしのぐことができれば、ライバル社の追従を許さない優位性を手にできる。

自動車メーカーは他社と比較しながら製品の刷新と差別化を図っており、BMWは「究極のドライビングマシン」というブランド・プロミスで表現している。優れた製品が必ずしも優位性を保証するとは限らないため、ブランドを差別化し、似通った製品の中で自社製品を際立たせる必要がある。

米国では車種が 30年前に比べ 2 倍の 267 種にまで増加し、現在 78 車種あるスポーツ多目的車(SUV) が 2年後には 100 車種を超えると予想されている。日本や欧州でも同じ流れが続くと予想できることから、ブランドの違いを訴求する動きは加速していくだろう。

一方で買い手側には幅広い選択肢があるが、ブランドは購入者を混乱させるものではなく、選択を後押しするものであるべきだ。ブランディングには製品を際立たせる差別化が必要。しかし特定のスタンスを取り、他社との違いを出すことは、メーカーにとって勇気のいる選択となる。そのため多くの企業が差別化を避け、中間の無難な道を選んできた。だが今やこの「中間」市場は既存・新規参入の低コスト企業であふれている。将来の成功と存続のカギとなるのは、正しいブランド・マネジメントによって支えられた差別化である。

< クリスチャン・ボッチャー>