自動車業界ライブラリ > コラム > 自動車業界とXX業界 第9回『自動車業界とスーパー業界』
自動車業界とXX業界 第9回『自動車業界とスーパー業界』
自動車業界と××業界を比較し、製品、業界間の関連性や類似点・相違点から自動車業界への示唆を探るこのコラム。弊社副社長の秋山喬とアビームコンサルティング経営戦略事業部マネージャー山田将生の共同執筆です。
第 9 回の今回は、「自動車業界とスーパー業界」です。
————————————————
【はじめに】
第 9 回目となったこのコラムだが、趣旨を説明すると、自動車業界と他業界とを比較し、業界間の関連性や業界特性等に関する類似点・相違点を把握。最終的には他業界との比較から見えてくる自動車業界への示唆を導き出そうとするものである。
第 9 回の今回はスーパー業界を中心とした日用品流通と新車ディーラーを中心とした自動車流通の比較をしてみたい。
まずスーパー業界を俯瞰してみると、 GMS (General Merchandise Store の略;いわゆる総合スーパー)の販売額は、1997年の約 10 兆円から 2002年の約8.5 兆円へと変動しており、市場規模は 5年の間に約 15% も縮小したことになる。(商業統計参照)
そして代表的な GMS にはイオン、イトーヨーカ堂、ダイエー等、我々消費者になじみの深い名前が並ぶ。
こういった GMS は日本においては 1960年代の半ば頃に誕生し、「食料品」、「衣料品」、「住関連品」といった本来性質の異なる商品を「生活必需品」という要素で束ね、広域からの来店客に対してセルフサービス方式をベースに、ワンストップショッピングで提供するというモデルで成長してきた。
また、チェーンストア理論に基づき、「標準化」、「効率化」を追求し、その結果得られるコスト削減等によるメリットを商品の価格に還元し、比較的安価な価格もしくは割引価格で消費者に販売するのもGMSの特徴の一つである。
そして、70年代半ばまでは上記のモデルに基づく「マス対応力」と「価格訴求力」を武器に急成長を遂げた GMS であったが、その後、GMS を含むスーパー業界内で供給過剰が強まったこと、また、他の小売業態からの侵食が激化したことにより、業績が低迷し、冒頭で紹介したように市場規模自体が縮小する結果となった。
他の小売業態からの侵食という意味では 食料品分野では 70年代、80年代より食品スーパー、コンビニエンスストアが GMS と競合する関係にあったが、90年代以降、食料品以外の衣料品、住関連品といった分野で家電量販店、カジュアル衣料品専門店、ドラッグストア、ワンプライスショップ等の専門チェーンが台頭してきている。
このような厳しい状況の中、GMS 各社も競争力回復を目指したさまざまな取り組みを進めている。GMS 最大手であるイオンがショッピングセンター開発を積極的に推進しているほか、イトーヨーカ堂は IYG 生活デザイン研究所を設立し、衣料品分野でより魅力的な商品を消費者に提供する試みを始めている。
このように業界内だけでなく他業界、他業態との競争が激化しているスーパー業界と自動車流通の分野を比較して何か見えてくるものはないだろうか。
【業界特性の類似点・相違点】
「類似点」
まず当たり前の話だが、どちらも消費者との接点を有する業界であるため、マーケットの変化の影響を大きく受けるということが挙げられる。
日本の小売市場は経済発展に伴う大量消費の時代を経て、徐々に成熟化する方向へと進み、消費者ニーズも多様化、且つ質的な変化が起こってきた。
また、同時にそのニーズは極めて短期間のうちに変化し続けるという特徴も併せ持っており、現在の状況は成熟しつつも動きの早い市場であるといえる。
消費者ニーズに対応する形で日用品流通の領域では、様々な業態が生まれ、現在、台頭してきている企業は、あるセグメントに特化して商品、サービスを提供する専門チェーンの形態をとっているケースが多い。
逆に、マス対応力、価格訴求力、ワンストップショッピングを売りにする GMSは大量消費の時代には消費者にとって訴求できる価値が大きかったが、現在ではその競争優位性は次第に下がってきているといえるだろう。
そのため、GMS、コンビニエンスストアといった既存の業態でも新たな業態の模索が行われており、例えば、GMS では既に紹介したようにイオンがジャスコを核テナントに据えたショッピングセンター開発を進めていたり、コンビニ業界でも 100 円生鮮コンビニなどの新業態が出現してきている。
このように日用品流通の領域は、専門チェーンの出現に加え、既存の業態がさらに細分化されて、さながら業態間戦争というべき状態となっている。
翻って自動車流通領域を見てみると、やはり日用品流通同様、消費者ニーズの変化を受け、これまでに様々な業態が誕生してきた。
代表的な例を挙げると、4 人に 1台の自動車が行き渡った 1974年には個性的なカーライフ需要を満たすため、カー用品店オートバックスが誕生しているし、1994年にはガリバーインターナショナルが独自のオペレーションシステムで中古車買取業という業態を確立した。
これらの企業は消費者のニーズの変化を受け、自動車業界において新たな業態を生み出したということができるだろう。
しかし、自動車業界における新業態企業の出現は主に新車を販売した以降のアフターマーケットの領域に集中している。新車販売に関しては自動車メーカー系列の新車ディーラーがその役割を長期間にわたり担ってきており、そこに業態的な変化はそれほど見られない。
GMS、コンビニ、専門チェーンなど日用品の領域では店舗間競争を考える上で、業態が重要な要素となるが、新車ディーラーの場合は業態がそれほど重要な要素とならず、新たな業態もなかなか出現しない。これは下記でも触れるように両者が扱うモノの違い、商品特性の違いが大きく関連しているのである。
「相違点」
上記で述べたように両業界では扱っている商品の特性が異なる。スーパー業界では日常的に必要となる生活必需品を扱っているのに対し、新車ディーラーでは消費者にとって住宅の次に高価な買い物となる自動車を扱っている。
自動車の特性としては非常に安全性、品質が重視される商品であるし、消費者のこだわり、感情移入が入る商品でもある。つまり、消費者がメーカー、ブランドを重視する商品なのである。
そのため、メーカー主導の小売形態ともいうべき新車ディーラーという業態がこれまで維持することが可能であったし、新業態の生まれてくる余地が少なかったのである。
通常、マーケットが成熟するとバリューチェーンの中で消費者に近い小売業者の影響力が大きくなるが、自動車業界の場合、上記のような商品特性もあり、バリューチェーン全体がメーカー主導になっているといえるだろう。
このようなメーカー主導の小売形態の場合は店舗間競争における要素として、扱っている商品の占める比率が大きく、小売業者が自由に事業活動を展開する余地は少なくなる。消費者としても当該商品を扱っている店舗がそこしかないからその店に行くという行動様式をとる。
しかし、消費者がメーカー、ブランドをそれほど重視しない生活必需品の場合は小売業者が事業活動を自由に行う余地が大きく、業態の議論も競争を考える上で重要な要素となる。
このような観点で考えると、スーパー業界と新車ディーラーでは同じ小売業者でも、競争の焦点の数が異なるということになる。スーパー業界の場合は様々な角度から競争、差別化を試みることができるが、新車ディーラーの場合は扱う商品に大きく左右され、それ以外の点での競争、差別化を行いづらいといえる。また、試みたとしても消費者がそれを重視しない傾向にある。
そして、このような事業活動の自由度の高さが、スーパー業界に代表される日用品領域における多様な業態の出現と業態間の争い、また新車ディーラーにおける画一的な業態、といった形で表面化しているのである。
【自動車業界への示唆】
スーパー業界と比較すると新車ディーラーは商品面の制約があり、事業展開の自由度が現在は低い形となっているものの、小売形態が大きく変化した電化製品の例もあるため、今後の事業展開に関しては未来を睨んだ大きな展望を持っておく必要があるものと思われる。
また、自由な事業展開という意味で、新車ディーラーにおいては、新車販売以降のサービスや中古車といったアフターマーケット領域に注力することも有効ではないかと思われる。
というのも、これらの領域は整備工場や中古車ディーラー等、他業態と競合する領域であり、それはスーパー業界の例を見ても分かるとおり、自由な事業展開が可能な証だからである。
<山田 将生>