自動車業界ライブラリ > コラム > 巨大電機メーカー誕生が自動車業界に与える影響
巨大電機メーカー誕生が自動車業界に与える影響
◆パナソニックと三洋電機、資本・業務提携に向けた協議開始について合意
パナソニックは、三洋の優先株を保有する主要株主の三井住友銀行、大和証券 SMBC、米ゴールドマンサックスグループの金融機関 3 社との間で買収価格について年内合意し、年明けにも株式公開買い付け (TOB) で三洋株の過半数を取得することを目指す。
両社のシナジーが発揮できる分野として、太陽電池や 2 次電池などのエネルギー分野を挙げ、太陽電池については「パナソニックの販売網を利用できれば、三洋電機の製品を拡販できる」とし、車両向け 2 次電池については「今後、爆発的に需要が増す。これまで共同開発してきた自動車メーカーに違いはあるが、強力な 2 社が組むことは自動車メーカーにもメリットがあるはず」とした。
パナソニックにとって、急成長が確実なリチウムイオン電池で世界首位の三洋は、「絶対に他社に奪われてはならない存在」。両社の交渉がひそかに始まったのは今年夏。三井住友銀行が取り持ったがゴールドマンサックスが米GE への売却を推すなど、電池事業だけを韓国・サムスン電子や中東の投資ファンドなどに切り売りされる懸念もあったという。
<2008年 11月 9日号掲載記事>
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【世界最大の電機メーカー誕生か?】
国内最大、いや事実上世界最大の電機メーカーの誕生に、大きな注目が集まっている。国内の大手電機メーカー同士の再編は初めてのケースであり、両社の提携がどういった形に落ち着くのか、そして、どういった戦略を打ち出すのか、今後の動向に目が離せない方も多いと思う。
パナソニックと三洋は、創業者同士の血縁関係もある一方で、お互いライバル意識もあったと言われている。その両社が今回の発表に至るまで、株主である金融三社の思惑や従業員をはじめとする関係者への配慮等、水面下での交渉も簡単なものではなかったはずで、各種報道されている通り、文字通りドラマがあったものと思われる。
パナソニックにとって、今回の提携関係における最大の狙いは、三洋が手がける環境・エネルギー事業だと言われている。パナソニックが手がけていない太陽電池事業や、三洋が世界シェアトップを誇るリチウムイオン電池などである。
昨今の原油高や環境問題の影響もあり、急速に存在感を増しつつあるこの分野において、三洋の存在感は大きい。三洋が持つ技術の海外流出や事業バラ売りを避けようという意向もあったと言われている。
こうしたドラマの部分については、引き続き各種メディアが取り上げると思うので注目していきたいが、ここでは、両社の提携がもたらす自動車業界への影響について考察してみたい。
【二次電池事業への影響】
自動車業界にとって、今回の両社の提携における最大の関心事は、両社のバッテリ事業であろう。特に、今後需要が拡大すると見込まれるハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)用の二次電池の分野は、市場の成長もさることながら、供給できるメーカーも限られていることから、関係者の関心も高いと考えられる。
周知の通り、パナソニックはトヨタと提携関係にある。両社の合弁であるパナソニック EV エナジー(PEVE)で、ニッケル水素電池を製造し、プリウスを始めとするトヨタの HEV 用の二次電池として供給している。
一方、三洋は、ホンダ、独 VW など複数の自動車メーカーに二次電池を供給しており、自動車メーカーとは独立性を維持する戦略を取っている。ホンダのHEV 用にはニッケル水素電池を供給しているが、独 VW 向けにはリチウムイオン電池を供給することが決定していると報道されており、その分野でも先行している。
PEVE は、リチウムイオン電池の開発で競合他社よりも出遅れていると言われているが、リチウムイオン電池業界トップの三洋の技術を取り込むことができれば、その意義は大きい。電池開発の世界は特許関係が複雑にクロスライセンスされているような状態であり、両社が提携することで、開発リソースの面でも、技術ノウハウの面でも、競争力が高まることが予想される。また、今後需要が拡大することは明らかであり、供給体制という面でも優位に進められるであろう。
この両社の提携を脅威に感じるのは、競合する電池メーカーというよりも、トヨタ以外の自動車メーカーなのかもしれない。他の電池メーカーも、各自動車メーカーから HEV ・ EV 用の電池開発に関する商談を受けているはずだが、両社の提携により、すぐにパナソニック・三洋連合に商談が流れるということも考えにくい。むしろ、トヨタ・パナソニック連合に加わることになる三洋との付き合い方を考える自動車メーカーが出てくるかもしれず、これを商機と捉えるメーカーがいるかもしれない。
一方で、自動車メーカーの立場にたって考えれば、供給力を高められたトヨタは歓迎であろうが、他の自動車メーカーは悩ましいはずである。例えば、これまで三洋の二次電池を調達してきたホンダにとっては、HEV ・ EV の主要部品である二次電池をトヨタと同じメーカーから調達するという大胆な発想に転換できるだろうか。将来的には他の電池メーカーという選択肢を考えていく必要があるかもしれない。
元々、EV ・ HEV 用の二次電池を生産できるメーカーとその能力には限りがある。自動車メーカー間でイス取りゲームをやっているようなものだ、という例えもある。2 つのイスが 1 つになるとしたら、戦略変更を考える必要が出てくるメーカーがあって当然であろう。
【カーナビ事業への影響】
筆者が二次電池同様に注目しているアイテムが、カーナビである。両社のこれまでの展開状況を見ると、ここでもきれいな補完関係が成り立つ可能性があると考えている。
パナソニックは、据置型カーナビ市場全体では 20 %前後と、国内トップシェアを誇っており、全世界でもトップクラスである。自動車メーカー向けでは、トヨタ、マツダが強く、純正装着・ディーラーオプション用のカーナビを供給している。アフター市場でも、HDD ナビ、DVD ナビ等、中~高価格帯の機種に力を入れている。
一方、三洋は、据置型カーナビ市場では日産他一部の車種に供給しているが、あまりシェアは高くない。しかしながら、PND (ポータブル・ナビゲーション・デバイス=持ち運び可能な小型カーナビ)市場に注力しており、国内では 70 %前後の圧倒的なシェアを誇っている。大手電機メーカーでは先駆けてこの分野に商品投入してきたことで、国内市場ではマーケットリーダーとなっている。アフター市場が中心であった PND であるが、昨今は純正・ディーラーオプションの流れも出始めてきており、先月、日産の純正ナビ向けテレマティクスサービスである「カーウィングス」対応 PND も発売している。
カーナビ市場自体、今後も販売台数の拡大は期待されるものの、その伸びもかつてに比べれば緩やかになってきており、販売単価自体の下落傾向や新車自体の販売不振も考慮すれば、楽観できる市場環境にはない。一方で、製品特性上、技術革新のスピードも製品ライフサイクルも、他の自動車部品に比べて早く、開発面での負担も大きい。
両社の提携によって、お互いの得意分野を活かすことができれば、両社の競争力を高められる可能性があることは間違いないだろう。
【その他の事業への影響】
一方で、その他の自動車関連事業では、そこまで大きな提携効果が発揮されないかもしれない。
まず、カーオーディオ事業。パナソニックは、この分野でも業界トップクラスの 20 %前後のシェアを持っており、トヨタ、ホンダ、日産、マツダ、三菱、ダイハツ、富士重等に幅広く供給している。一方、三洋は、マツダ向けに純正装着用の供給しているが、国内シェアでは 1 %に満たないレベル。三洋にとっては、事業の効率化が図れる可能性があるが、パナソニックにとって大きな魅力とは考えにくい。
その他の車載用部品や機器事業についても、パナソニックが幅広く手がけているのに対し、三洋は同様の展開をしているわけではない。例えば、パナソニックは、ECU ・センサ等の電子デバイスや、モータ・ CCD カメラ等の電子モジュール部品、ETC ・無線機等の車載機器など、自動車関連事業を多数抱えているが、これらの分野において、三洋との提携によるシナジーが発揮されるかどうかは疑問である。
営業面という観点で、パナソニックが手がけてきた事業の販路拡大ということはあるかもしれないが、国内市場において、その効果がそこまで大きいとは考えられない。
むしろ、まだ自動車分野に縁がない分野の方が、新しい動きがあるかもしれない。
例えば、太陽電池。今回の両社の提携において、パナソニックが喉から手が出るほど欲しいと言われている三洋の太陽電池事業だが、これが自動車業界にも市場拡大していく可能性もあるはずである。
太陽電池は、現在、自動車自体には搭載されていない。一部アフター市場の用品で、太陽電池をダッシュボードにおいてアクセサリを動かすような商品が売られているぐらいである。しかし、次期プリウスには、ルーフに太陽電池が装着され、燃費向上に寄与させるという話もある。ホンダは、太陽電池事業を積極的に取り組んでおり、将来的に自動車技術への応用というのも可能性はある。太陽電池の価格次第だが、将来、クルマの屋根には太陽電池というのが当たり前になる時代が来るかもしれない。
【最後に】
いずれにしても、まだ具体的な施策が明らかになったわけではないので、今回の両社の提携が業界にもたらすところを予想しても、なかなか難しいものがある。いわゆる「選択と集中」が進むはずだろうが、どういう事業領域をどういうスピードで変えていくことになるだろうか。両社グループの従業員を合わせると、約 40 万人の巨大企業になる。両社の事業再生戦略をスピード感を持って進めるのも、簡単ではないとは思う。
一方で、今回の提携を機に、こうした業界再編の動きが広がる可能性がある、という記事もよく見かける。実際、電機業界も円高、原材料の高騰、製品価格の下落という三重苦に見舞われ、数年ぶりの減収減益や業績下方修正といった記事も散見する。
自動車業界も厳しい局面に突入しているが、厳しいのは自動車業界だけではない。厳しい現状に対し、歯を食いしばって耐え抜くことも重要だとは思うが、同業以外の会社にも目を向ければ、お互いに補完関係があり、提携関係を築いて事業強化・回復を狙える機会があるかもしれない。こうした時こそ、柔軟な視点を持って、冷静に戦略を考えてみるべきなのかもしれない。
<本條 聡>