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くるま産業”次代”への羅針盤 『開発費の透明化(5)』
弊社親会社であるアビームコンサルティングが、自動車業界におけるモノづくりから販売、マーケティングに至るまで、“次代”への示唆をさまざまな角度から提案していく。
アビームコンサルティング ウェブサイト
http://www.abeam.com/jp/
第 1 弾は、アビームコンサルティング製造/流通事業部の川本剛司/樋口穣が開発費の透明化について 5 週に渡って紹介する。今回はその最終回にあたる。
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第 1 弾『開発費の透明化 (5)』
前回まで、車両メーカ/部品サプライヤそれぞれの視点から、「車両開発費を見える化」することの必要性や利点について、具体例を取り上げながら述べてきた。最終回となる今回は、ある車両メーカに対して、弊社が実現した実際のソリューションをご紹介する。
【対象会社の状況】
対象会社は、全社的に業績が低迷しており、あらゆる領域でのコスト削減を模索していた。
特に、車両開発費は、環境対応や運行管理システムの導入などにより、増加傾向にある中で、それを精緻に管理するための仕組み(業務プロセスやシステム)が確立されておらず、経営的な判断を下すために、必要十分な情報を把握できずにいた。
本シリーズの第 2 回で、車両開発費の予実管理面での難しさについては指摘したが、そもそも車両開発費が、長期に渡る費用であること、また、それに関わる組織・人員も複数存在することが難しさの要因である。対象会社が抱えていたのも、まさに車両開発費の予実管理に関する課題であった。
対象会社が抱えていた課題は、大別すると以下の 2 つであり、これらの課題に対し弊社は IT システムも含めたソリューションを提供した。
課題(1):車両開発の対象(車両)別予実比較が行えない
課題(2):車両開発の各フェーズ別予実比較が行えない
では、具体的にどのようなソリューションを提供したのかを見ていきたい。
なお、対象会社は基幹システムとして SAP 社 R/3 を導入しており、弊社のシステム的なソリューションも、R/3 をベースとしたものである。
【具体的なソリューション例】
<課題(1):車両開発の対象(車両)別予実比較が行えない>
対象会社では、開発費の予算を各開発対象(車両)別に策定していたが、ITシステムに実績費用を計上する際に、その予算計上単位とは異なる単位に対しデータを入力していた為に、予算・実績を車両別に正確に分析する事ができない状態にあった。そこで下記順序で課題解決を行った。
1. 予算実績の計上単位の統一化(マスタ整備)
収益管理 /分析に必要な予実単位にマスタを統一
→ IT システム内で利用するマスタの再定義を実施
2.費用・工数計上ルール設定
車両開発対象別に予実比較を可能にする様に、予算・実績の計上ルールを設定
→ IT システムに対して入力する情報・計上ルールを再定義
3.入力システム改修
IT システムに対し、車両情報を利用(入力&分析)できるように改修
→入力画面変更・予実分析用帳票等の改修実施
<課題(2):車両開発の各フェーズ別予実比較が行えない>
対象会社では、車両開発におけるフェーズ(企画・試作等)別の予実比較が行えない状態にあった。その為、当初予定していたスケジュールが遅延したことで、費用発生額が下がっていたにも関わらず、あたかも業務改善によって費用低減された様に分析されている場合もあった。
そこで、本課題についてはフェーズ別に正確な予実比較が行えるように、業務プロセスとシステムを下記のように対応した。
1. フェーズ情報の設定(マスタ整備)
各フェーズ別に予算設定 / 実績分析できる様に各マスタにフェーズ情報を設定
→ IT システム内にフェーズ情報を追加
2. 費用・工数計上ルール設定
フェーズ別に予実比較を可能にする様に、予算・実績の計上ルールを設定
→ IT システムに対して入力する情報・計上ルールを再定義
3. 入力システム改修
IT システムに対し、フェーズ情報を利用(入力・分析)できるように設定/改修
→入力画面変更・予実分析用帳票等の改修実施
上記の記述は、ややテクニカルに感じられたかもしれないが、予実管理で重要なことは、企業の文化や戦略、業務を把握した上で、車両開発費を、どういった切り口で、またどういった粒度で管理すべきかをまず決定することである。
(予算と実績の間で管理のメッシュの整合性を確保することが前提である。)
今回は、あくまで一事例にすぎず、実際は、各社それぞれに課題・問題も異なるため、解決策もそれぞれ異なってくるであろう。また、開発費の透明化はあくまでも最初のステップであり、その後、透明化された開発費を踏まえて、どのように経営の意思決定を行うかがより重要であるのは言うまでもない。
今回、紙面の都合上記載できなかった内容も多々あるが、現在、弊社では本テーマでのセミナーの開催を予定している。具体的な日時は改めて、ご案内させて頂く予定なので、ご参加頂ければ幸いである。
<川本 剛司>