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今更聞けない財務用語シリーズ(7)『フリーキャッシュフロ…
日頃、新聞、雑誌、TV等で見かける財務用語の中でも、自動車業界にも関係が深いものを取り上げ、わかりやすく説明を行っていくコラムです。
第7回の今回は、フリーキャッシュフローについてです。
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今回は企業価値算出の上で使用されるフリーキャッシュフロー(以下 FCF と省略する)の計算式を用いてその意味を解説したい。
FCF とは、その企業が本来の営業活動を行うことによって生み出すキャッシュフローの事を言う。このフリーの意味は、本来の営業活動によって生み出したキャッシュのうち、資金提供者である金融機関や株主に対して当該企業が自由(フリー)に分配できるキャッシュという趣旨である。
これらの資金提供者は、ヒト・モノ・カネという企業の経営資源の内、カネを提供してくれているステークホルダーである。企業のステークホルダーには、この他に顧客や仕入先、代理店等の取引先、従業員や役員、国や地方公共団体等のコミュニティが存在する。
それらを差し置いてカネの出し手である銀行や株主にキャッシュを分配することを「自由(フリー)」な状態と呼ぶことに違和感を持つ人が多いかもしれない。その通りである。それらのステークホルダーには優先的にキャッシュが分配されなければならず、企業にフリーハンドは無いのだ。そのことについては、後程詳しく説明したい。
昨今企業経営において盛んにキャッシュフロー重視が叫ばれている。キャッシュフロー経営とは、キャッシュの流れから事業の価値をとらえようとする経営手法である。会計上の利益は、会計基準や会社毎の会計処理方針次第で何通りもの数字がある上にそれらが国毎に会社毎に異なるから収益性の比較がしづらい為、より会計基準や法制などに左右されないキャッシュフローが重視されているのである。
そこで事業活動から生まれる FCF から企業価値を算定するケースが増加し、株価の分析や企業買収の際の買収価額の決定などに使用されるようになった。
FCF は、「税引後営業利益+減価償却費-設備投資-運転資金増加額」によって算出される。以下で詳細を説明していく。
(1)なぜ、税引き後営業利益なのか?
税引前か税引後かの議論は後回しにして「営業利益」を使うことの意味から考えよう。
ご承知の通り、営業利益とは売上総利益から販管費を差し引いて求められる。また、売上総利益とは、売上高から売上原価を差し引いて得られる。
即ち、営業利益とは売上高から売上原価と販管費を差し引いた結果である。小学生でもあるまいに今更何をとおっしゃるかもしれないが、ここに上述したステークホルダーに対するキャッシュの分配の重大な意味が隠されている。
売上高とは、顧客というステークホルダーに対して製品やサービスを通じて便益や効用を提供・分配することによって得られる対価である。
売上原価の中には、仕入先や外注先、もしくは工場の直接工に対して支払われる材料やサービスの対価が入っている。
販管費は、工場の直接工以外の従業員や代理店がモノやサービスを作り、売るために貢献してくれた対価を含む概念である。
そしてそれを「税引後」で評価するということは、行政やコミュニティーのサービスの対価として税金を支払った後の数字を見るということである。
即ち、これらは全て企業が「本来の営業活動」を行うために必要なヒトやモノを提供してくれたステークホルダーであり、それらのステークホルダーに対価を支払った後の状態且つカネの出し手に対するキャッシュの分配を行う前の状態を「フリー」と呼ぶということは次の二つのことを意味する。
第一に、それらカネの出し手以外の人への分配は企業としてフリーハンドの無い当然の営業活動であるということ、第二に、企業の「本来の営業活動」とは、カネを得ることではなく、ステークホルダーに対して価値を生み出すことだということである。
そして、ステークホルダーに対して生み出す価値がどれだけ大きいかを表すのが FCF なのだ。
とここまで読んできて「やはり営業利益で『本来の営業活動』の能力を議論するのはおかしい。借りた金は金利も含めてきちんと返済するのが『本来の営業活動』であり、金利の出入も含めた経常利益ベースで議論すべきだ。」と思われた方は鋭い。
確かに、FCF の中に金利の収支を含める手法が一般的である。
しかし、ここでは企業価値の評価のための FCF を考えているので、金利の出入は考慮していない。というのも、借入金の大小やコストは、少なくとも一義的にはその企業が「本来の営業活動」から生み出す価値とは関わりなく、株主の意向、戦略や信用によって決まるものだからだ。
(2)減価償却費を足し戻す理由
上記の税引後営業利益には設備や社屋に係る減価償却費が含まれている。しかし、減価償却費は会計上の概念に過ぎず、実際には設備投資をした際にキャッシュとして出て行き、その効果が認められれば営業収入の増加としてキャッシュが戻ってくるに過ぎない。
しかるに「営業利益」として見た場合、この金額が予め差し引かれてしまっているので足し戻すのだ。
減価償却費のような科目には他にも繰延資産償却費や無形固定資産償却費などがある。
(3)設備投資額を減額する理由
減価償却費と同じ考え方に立って逆の処理をするものである。設備投資は会計上は費用にならないが、現実には投資の時点では単なる支出であり、その効果が認められれば将来営業収入の増加という形でキャッシュが戻ってくるに過ぎない。然るに「営業利益」として見た場合、この支出が全く考慮されていないので減額するのだ。
(4)運転資金増加額とは何か?
計算式は、「運転資金の増加=売上債権の増加+棚卸資産の増加 – 仕入債務の増加」であり、その増加はキャッシュの減少、即ち企業価値の減少となる。逆に運転資金が増加していれば、キャッシュの増加、即ち企業価値の上昇となる。
一見すると、「本来の営業活動」とは無関係のただの算数のように見えるが、その意味は次の通り企業が「本来の営業活動」(モノ、サービスを通じて価値を生み出すこと)を評価するものになっている。
第一に、「棚卸資産(在庫)」の増加は、設備投資と同様、その時点では企業価値の減少であるということだ。
企業には成長過程で意識的に在庫、即ち自社製品への投資を増やさなければならない局面がある。
しかし、企業の思いはともかく客観的に見れば投資そのものが価値を生み出すわけではなく、それが将来、顧客に受け入れられ、喜ばれれば営業収入の増加という形でキャッシュの増加、企業価値の上昇になるのだ。従って、投資時点ではただの支出、企業価値の減少でしかないというのが冷徹な事実だ。
これとは別に企業の成長や意思とは無関係に在庫が増加することがある。顧客に支持されていない場合だ。この場合、在庫の増加が企業価値の減少であることは感覚的にも理解できるはずである。
第二に、「売上債権(売掛金、受取手形)」の増加と「仕入債務(買掛金、支払手形)」の増加の差額は、企業価値の減少だということだ。
そもそも売上債権が買掛金よりも多い事態とはどんな場合だろうか。
語弊を恐れずに単純化すると、モノ・サービスの価値が低いか、取引先からの信用が低い会社だということになる。
在庫と同様に、企業の成長過程で売上債権と仕入債務はともに増加するものだが、問題はそのバランスである。
売上債権だけが一方的に増えているとしたら、現金を払ってでもモノやサービスを欲しいと思う顧客が少ないか、掛売りのリスクを負ってまで納入したいと思う仕入先が少ないということを意味し、結局企業の能力や価値が低いということになる。
販売先や仕入先の体力が弱いために企業が支えなければいけないという場合も確かにあるが、取引先の力もまた企業の能力や価値の一部と見れば、やはり売上債権だけが増える形は企業価値のマイナス要因ということができるだろう。
読者の中には、FCF や運転資金増加等財務用語が出てくると毛嫌いする人も多いと思う。その理由として財務は単なる数字の遊びであって企業活動の本質はとは全く無関係であり、そんなことで企業の価値を議論されてはたまらないという理由もあると考える。
実際、財務の実務家の中に浮世離れした考え方を取る人間も少なくないのが残念ながら実態だが、本来はそうではない。企業の活動の本質や価値を数字を通して正しく理解し、支援することは財務の目的であり、本質である。
<篠崎 暁>