今更聞けない財務用語シリーズ(11)『連結会計』

日頃、新聞、雑誌、TV等で見かける財務用語の中でも、自動車業界にも関係が深いものを取り上げ、わかりやすく説明を行っていくコラムです。

第11回の今回は、連結会計についてです。
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前回まで経営指標等について解説してきた。経営指標は各企業の財務諸表の数値を基に算出されるものである。今や財務諸表は全て連結ベースで作成されているので今回はこの連結会計について考えていきたい。

連結とは、資本関係をはじめとしたヒト・モノ・カネで繋いだ個別企業の集団が生み出した価値を数値化することを言う。企業はヒト・モノ・カネの経営資源を別のある企業に投入することで経営を支配したり、経営に影響を及ぼすことができる。この影響力、支配力で企業をつなぐことで一つのグループが形成される。自動車メーカーがサプライヤーやディーラーに資本参加などを通じて自社のグループを形成しているのを想像すれば解り易い。

この「連結会計」という言葉は 1997年頃から新聞の紙面を賑わすようになり、1999年には、連結ベースでの業績や概況を主に開示するようになった。日本では比較的新しいものである。

それまでの日本の会計基準は個別の企業の状況を主に開示し、連結の状況はあくまで補足に過ぎなかった。これは従来は商法や税法などのレギュレーションの問題や配当の支払いが親会社の単体の利益を原資としているなどの環境から、ステークホルダーも親会社の単体の利益を見ていれば十分な情報が得られると思われていたからだ。

しかし、この結果、ステークホルダーの目を欺くようなケース(子会社を親会社の従業員の受け入れに使用したり、子会社が利益操作の犠牲的な位置付けになっているケース)が横行し、あげくの果てには持ち合いを利用した悪質な連結はずしまでが行われるようになっていた。

このことが銀行の不良債権の問題などで発覚し、日本の会計基準に対する世界からの目が厳しいものとなった為、日本の会計基準も国際会計基準に歩調を合わせることとなり、連結を重視するようになったのである。

連結会計は企業グループの範囲をヒト・モノ・カネの関係で明確にし、そのグループが生み出している価値の数値化ができること、企業グループの経営に全体最適を再認識させた点で優れた手法と言える。連結会計を導入したことでグループ内の全体最適を図り、グループ内の各企業の役割等を再構築したことで業績が回復した企業も多いはずだ。

では、連結会計とは具体的にどのような手続きをするのだろうか。

例えば、以下のような取引があったとしよう。サプライヤーとディーラーは完成車メーカーのグループ企業である。

サプライヤー → 完成車メーカー → ディーラー
売上高    80        110        120
仕入高    60         80        110
利益     20         30         10

この場合、連結上の利益はサプライヤーの仕入高60とディーラーの販売高120の差額 60 である。途中のサプライヤーの売上高やディラーの仕入高は完成車メーカーの仕入高、売上高と消去される。

従来は、親会社である完成車メーカーの利益がステークホルダーの注目を集めてきたが、連結会計が導入されることによって全体の利益である 60 の最大化を図るようになったのである。

系列の時代は、上記の例の様にサプライヤー、ディーラーと自動車メーカーとの間にヒト・モノ・カネの関係が有り、連結会計から導きだした企業グループの価値とサプライヤーからディーラーまで自動車を生産・販売しているバリューチェーンが生み出した価値の合計が近い数値になっていただろう。

しかし、系列という資本関係をはじめとしたヒト・モノ・カネの関係が崩れてきてしまっている今日では、現在の連結会計制度では、系列から外れた企業を捕捉することはできない。

例えば、上記の例からサプライヤーが系列から外れたとすると連結上の売上高は 120 のままだが、仕入高は 80 となってしまい、グループの利益は 40 になってしまう。仮に自動車メーカーが持つバリューチェーンが生み出した価値が本来上記の60の利益だとすると連結会計からではバリューチェーンの価値が導き出せなくなってしまっているのだ。

では、どのようにすべきだろうか。

これからの連結会計は今の連結会計を一歩進めた自動車メーカーが持つバリューチェーンに参加している企業を連結するような手法にすべきである。親会社を中心とした単体重視の会計ではなく連結会計になったように、会計制度はビジネスの仕組みに追いついていく必要がある。

系列から外れ、資本関係がなくなったが技術提携をしているような会社もグループの範囲に含めた会計制度、連結会計ならぬ、バリューチェーン会計を導入すればそのバリューチェーンの価値を正しく会計数値に反映することができるのではないだろうか。連結会計の更なる深化に期待したい。

<篠崎 暁>