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今更聞けない財務用語シリーズ(15)『ポイズンピル』
日頃、新聞、雑誌、TV等で見かける財務用語の中でも、自動車業界にも関係が深いものを取り上げ、わかりやすく説明を行っていくコラムです。
第15回の今回は、ポイズンピルについてです。
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ライブドアとフジテレビのニッポン放送を巡る買収劇が過熱している一方、敵対的買収の防衛策について法案化の動きが進んでいる。
ライブドアとフジテレビの例をとりながら今回はこの敵対的買収の一つの手法である、「ポイズンピル」について解説することにする。
フジテレビとライブドアの件をもう一度ここで整理する。
1.フジテレビがニッポン放送に対してTOB(公開買付)を行った。
2.ところが、ライブドアがTOB期間中に東証の時間外取引等で経営権の 37.85 %を取得した。
3.フジテレビとニッポン放送はこのライブドアの経営権取得を阻止すべく、ニッポン放送がフジテレビに新株予約権を割当てた。
4.ライブドアはこの新株予約権の発行が資金調達の目的ではなく、支配の維持を目的としてものだとして仮処分の申請を行った。
この一連の流れの中で「ポイズンピル」が登場する。上記3の新株予約権の発行がそれだ。
では、「ポイズンピル」とは何か?言葉の通り「毒薬」という意味である。買収をする企業が、標的とした会社の株式を標的会社の取締役会の承認を得ないで一定比率以上取得した場合に、予め自動的に株式に転換される等の条項を組み込んだ新株引受権証書や転換型優先株、転換社債を発行できるようにしておく等の方法の事を言う。
買収者が敵対的買収を行おうとした場合に新株が発行され、増えた株式を買収する必要が発生するので買収に係わるコストなどを飛躍的に引き上げることを目的としたものなのだ。
つまり、買収したはいいもののコストが非常に掛かるという毒が買収企業に回るという仕組みで敵対的なM&Aを防ぐというものである。
今回のフジテレビとニッポン放送はこのポイズンピルを用いて買収を防衛しようとしたのである。買収コストが上がるというよりも、新株予約権の引受先がフジテレビとなっており、コストを掛けても買収できないような防止策となっていた。
そもそも買収についての防衛策はアメリカでは進んでおり、このような防衛策の大部分はアメリカの企業では導入されていることが多い。
アメリカでは、ポイズンピルは対象会社の取締役に対して経営者の立場ではなく、株主の立場に立って敵対的買収者と交渉を可能とする手法であり、株主から取締役への権限の委譲という形で行うものである。
しかし、アメリカではこのポイズンピルを最近見直し始めていると言う。
取締役に権限を委譲したものの取締役の保身(買収された時点で取締役などの経営陣は退任に追い込まれるリスクが高い)を目的としたものであり、株主の利益を損なうケースが多いからである。
このライブドアとフジテレビの買収劇でライブドアがこの防衛策に対して仮処分を申請したことにもこの問題を垣間見ることができる。
商法は、正当な資金調達の理由なく、不公正な株式発行が行われる場合に、株主にそれを差し止める権利を認めている。
今回の新株予約権の発行で一般株主の一株当りの価値は下がる。なぜなら、企業の時価総額は変わらずに株数だけが増加するからだ。この時価総額が上昇するような(企業の価値をあげるような)資金の使途が明確にならなければ、不公正な株式発行として認識されてしまうのだ。
つまり、企業は全ての株主を満足させなければならないはずであるが、支配権の維持など一部の株主や経営陣の利益の為に株主の満足が得られなくなるのは企業の価値を結果として下落させる行為である。
一方でライブドアの行った時間外取引についても全ての株主を満足させる手法ではなかった。通常、経営権の取得などのために市場外で上場企業の株式を 3分の 1 超まで買い進める場合は、原則として買い付け株数や価格などの条件を事前に公表するTOB方式を義務づけている。しかし、ライブドアは、時間外取引については市場内取引のためにTOBの対象とならない事を承知で敢えて透明性の低い手法を選んでいるのである。
一般の株主は透明性の高い TOB を選択していれば、他の株主も TOB に備えることが出来たかもしれない。投資家保護の観点から言えば、株主を満足させる手法ではなかったと言えるだろう。
今後、外資による株式交換制度の導入なども議論されている中でこのような所謂「敵対的買収」は、今後ますます活発になることは間違いない。
一方で西武の問題や今回の件など上場をしているという意義について考えさせられる出来事が起きている。
上場するという事はただ、資金調達ができる会社として信用が得られるだけではない。リスクも当然つきまとうのである。
リスクが顕在化している中でこれから買収を防衛できる企業は何社あるのだろうか。上場会社の買収リスクを軽減する為に株主の本音を聞いてみたらどうだろうか。
「あなたはその株式をどうしたいですか?」
答え次第では、経営方針を再検討すべきであろう。
<篠崎 暁>