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今更聞けない財務用語シリーズ(19)『自己株式』
日頃、新聞、雑誌、TV等で見かける財務用語の中でも、自動車業界にも関係が深いものを取り上げ、わかりやすく説明を行っていくコラムです。
第19回の今回は、自己株式についてです。
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自己株式とは、発行法人である企業からみた自己の株式のことを指し、金庫株とも言われる。日本では、2001年の商法改正によって企業が自己株式を保有することを原則自由となった。
企業は市場や既存の株主から相対で自己の株式を買い取ることで自己株式を保有し、株式交換の際に使用する為に保有したり、ストックオプションの原資にしたり、消却(発行した株式を消してしまう)をしたりする。
では、何故自己株式を企業が市場から買い取ったり、消却する必要があるのだろうか?
自己株式を企業が取得するメリットは大きくわけて以下の 3 つがある。
1.持ち合い解消の推進
商法改正当時には、株式の持ち合いを解消する動きが活発であった。自分の企業の株式が市場で大量に売られてしまうと、株価が下落する恐れがある為、自社で株式を購入することで株価の下落を防ぐ効果があった。
2.希薄化防止
株式交換を行う際に相手に株式を発行すると、既存株主が保有する株式が希薄化してしまい、株価が下落する恐れがある為、既存株主から反発がある可能性があったが、自己株式を用いて株式交換を行えば、希薄化の恐れがなくなること。
同様にストックオプションを実行する際に新株を発行した場合も希薄化の恐れがある為、ストックオプション実行に備え、自己株式を保有しておく場合も多い。
3.資本コストの削減、柔軟な資本政策の策定
株数が多いが為に配当金額を増額できないなど、現在の資本コストが割高になっている場合、自己株式を活用して柔軟な資本政策を策定することが可能だ。これは、通常、投資家が株価を保有していれば、配当を支払う必要があるが、自己株式にすることで配当を支払う必要がなくなる。
もしくは、投資家がそれぞれの思惑で株式の売買を行ってしまう市場リスクに晒されている結果、資本コストが上がってしまっていることが多い。
そこで流動株を自己株式に一部することで CAPM(リスクフリーレート(10年物国債の利回り等)と市場のリスクプレミアムに個別企業の関連性率を乗じる形で算出する指標) の変動を抑える、もしくは資本の部を圧縮することでWACC(株主資本コストと負債資本コストを加重平均した所謂資本コスト) を下げるなどで資本コストを下げることが可能になるのだ。
自動車業界においても、ホンダやトヨタは自己株式の買取を頻繁に行っている。両社とも資本効率の向上と経営環境に応じた機動的な資本政策の遂行を可能にする為に自己株式を取得しており、巨額の資金を自己株式の取得に投じている。以下は両社の自己株式の取得状況である。
ホンダは、2005年 4月 6日付け提出の「自己株券買付状況報告書」によれば、平成 17年 1月 28日に決議した 5,750,000 株、230億円の自己株式取得枠に対し、4月 6日時点で進捗状況として、55.64 %、金額にして 76.81%を取得している。3月31日時点で自己株式数は発行株式総数の 0.37 %に達している。
トヨタは、2005年 4月 15日付け提出の「自己株券買付状況報告書」によれば、平成 16年 6月 23日に決議した 65,000,000 株、2,500億円の自己株式取得枠に対し、4月 6日時点で進捗状況として、66.9 %、金額にして 73.91%を取得している。3月31日時点で自己株式数は発行株式総数の 1.8 %に達している。
当然両社も上記のメリットを追求する、もしくは経営指標(ROIC、EVA、ROEEPS など)の数値を上昇させる目的があるだろう。実際に資本効率と言う場合にはこれらの指標が用いられることが多い。
しかし、これらの資本効率の向上はあくまで会社が一義的に享受するメリットにすぎない。より本質的なメリットは株主が享受することになる。
両社にとって自己株式の取得は「株主への還元」という言葉を良く使っている通り、株主への利益の還元こそが真のメリットであり、目的なのだ。
株主への還元というと配当を思い起こす人が多いだろう。しかし、自己株式の取得も、配当と同様、場合によってはそれ以上に効果を既存株主に対してもたらすことになる。(もちろん、市場を通じてではあるが)既存株主から株式を買い取る受け皿を用意することで、既存株主に利益確定(キャピタルゲイン)の機会を提供することに他ならないからだ。
トヨタが還元率((配当総額+自己株式取得額)÷当期利益))という指標を用いているのもこの表れだろう。
また、保有し続けている株主にとっても意味がある。それは単に自己株式を取得していれば自己株式に対して配当をする必要がなくなるため、配当原資をより既存株主に割り振ることが可能になるというだけの話ではない。トヨタを例に取れば、トヨタの将来性の見通しを最も的確に立てられるのはインサイダーであるトヨタ自身である。
その見通しに対して現在の株価が割安だというときに自社株式の取得が行なわれることが普通だから、トヨタ株主はトヨタを通じて将来性有望な株式に割安な価格で投資できることになるのである。これも一つの株主還元である。
株主重視の経営が叫ばれている中で必要な戦略を立案して遂行する為には、経営基盤がしっかりしていることははもちろんの事、株主のニーズを把握し、そのニーズに答える為に、企業と株主の双方が喜ぶ仕組みを作る必要があるのだろう。
<篠崎 暁>