今更聞けない財務用語シリーズ(21)『転換社債』

日頃、新聞、雑誌、TV等で見かける財務用語の中でも、自動車業界にも関係が深いものを取り上げ、わかりやすく説明を行っていくコラムです。

第 21 回の今回は、転換社債についてです。

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転換社債(以下、CB、Convertible Bond の略)とは、社債を保有している人が一定期間内に社債を発行した企業に対して株式の転換を請求すれば、あらかじめ定められた条件でその社債を発行した企業の株式に転換することができる社債のことである。

CBは平成14年4月の商法改正により「転換社債型新株予約権付社債」と呼ばれるようになった。名前の通り転換社債とは新株予約権としての側面と社債としての側面を持っている。

CB は発行に際して以下の事を決める必要がある。
1.発行価格 : 割引発行型と額面発行型がある。
2.利率   : 会社の信用状況に応じて決定される。
3.利払日  : 社債の利息支払日。年 1 回または年 2 回が一般的である。
4.期間   : 2年から 15年が多い。
5.償還   : 満期に一括で償還をする場合と途中で償還できる場合とがある。
6.転換価格 : CB を株式に転換する際の交換価格のこと。
7.転換請求期間 : 株式に転換する請求ができる期間

転換社債は、社債のまま保有し続け、定期的に利子を受け取り、償還日に元本を回収することも出来、また株式に転換後は、配当と株価の値上がりによるキャピタルゲインによって元本又はそれ以上の金額を回収することができるものなのだ。

転換社債は、株価上昇時には株式に転換し、売却することでキャピタルゲインが得られる為、株価に連動し、株価が上昇すれば CB も上昇する。

一方、株価が下落した場合、社債は元本を償還日には回収することができるので、株式投資のような元本割れの心配をしなくてもよく、株価の下落幅ほど価格は下落しない。但し、信用リスクが高くなれば、元本の回収が危ぶまれる為、価格の下落に歯止めがきかなくなる恐れもある。

このように CB は株価の値動きに連動する株式としての側面と、社債として利払いがされ、償還日には元本が回収できる債券としての側面の双方の顔を持っており、保有する側にとってはメリットがあるように見える。

では、発行者となる企業ではどうだろうか。CB を発行する側のメリットとすると、資金を集めやすい手法であるということが挙げられる。

しかし、一方で CB は将来株式に転換できる、つまり潜在株主がいるということは既存の株主の利益を損なう可能性がある為、株価を下落させる、投資家が離れていってしまうというデメリットも存在する。

潜在株主が存在する場合、潜在株主が株主となれば当然株数が増える。企業の時価総額を一定とすれば、株数が増えることで株価が下落してしまう為、投資家や株主は潜在株主の存在を敬遠するのだ。

自動車業界において CB を発行し、上記のデメリットを回避する為にCBの繰り上げ償還を行った企業がある。いすゞ自動車である。

いすゞ自動車は 2004年 8月に資本政策の一環として 設備投資と研究開発費に充当するため、CB を 1,000 億円発行した。しかし、1,000 億円調達できたものの株価は下落した。

その対応策として、今般、シンジケートローンによって総額 3,000 億円調達し、中期経営計画を実行するのに必要な資金を調達し、社債の未償還残高 520億円を繰り上げで償還した。

これによって5月30日には株価は256円から278円まで22円も上昇した。結果として資金調達と投資家の信頼の回復の双方を満たしたことになったのだ。

シンジケートローンを組成したことで、金利を社債時より多く支払うことになったが、金利という目先のコストより長期的な視点から投資家の信頼確保を目的としたものだろう。

勿論、金利上昇分をカバーするだけの営業収益の向上が必須なのは間違い無い。
しかし、ステークホルダーの利益の確保という本質を考えた今回の資本政策を評価したい。いすゞ自動車は優先株式や転換社債等で資金調達を行っている為多数のステークホルダーが存在している。その全てのステークホルダーの利益を尊重しながらの経営の舵取りは非常に難しいだろう。しかし、今回の経営方針は多くのステークホルダーを満足させたのではないか。今後の事業に少なからず良い影響を与えるに違いない。

<篠崎 暁>