自動車業界ライブラリ > コラム > 米S&P、三菱自動車の長期会社格付けを格上げ。見通しは…
米S&P、三菱自動車の長期会社格付けを格上げ。見通しは…
◆米S&P、三菱自動車の長期会社格付けを格上げ。見通しはネガティブ「SD(選択的債務不履行)」から「CCCプラス」に。ムーディーズは据え置き
<2004年7月29日掲載記事>
——————————————————————————–
米国の格付け会社 S&P 社が三菱自動車の格付けを「SD」から「CCC+」に引き上げた。読者には「この時期になぜ三菱自動車の格付けが上がるのか?」と思われる方も多いだろう。
三菱自動車の格付けの上昇は、格付けが三菱グループの支援によって従前より財務内容が安定したことが評価された為に上昇したものだ。極めて財務的な状況の変化によって格付けが変化しただけのものである。
そもそも格付けとは、当該企業が発行する社債の元本、利息(発行体格付けの場合は仕入債務や未払金等の営業上の債務も)が約束どおり支払われる確実性、財務的安全性をランク付けしたものである。
簡単に言えば、貸したお金をその企業がきちんと返してくれるのかどうかのリスクを評価しただけのものだから、今回のように、不払いや支払遅延の危険性が少し遠のいたということだけでも格付けが変更されることがありうる。 決して企業そのものを評価することを目的にしたものではないし、その結果出てくる格付けも企業そのものの評価ではない。
しかし、実際には格付けによって、企業そのものが大きく左右されることは間違いない。格付けの低い企業は、資金調達源が限定され、資金調達のコストも高くなる。
例えば日産自動車のムーディーズの格付けは、2001年当時は長期債券格付けが「Ba1」(投機的な要素を含むと判断されていた)となっていたが、2001年に「Baa3」に 1 段階上昇し、今年になって更に 2 段階上昇して「Baa1」(現時点での財務状況は安定的)の格付けを得た。
この上昇を受けて、日産は7年ぶりに CP を発行することが可能になった。CPとは「Commercial Paper」の略である。企業が短期資金調達の為に発行する短期・無担保の約束手形のことで、銀行や株主からではなく、CP 投資家にCP を買ってもらうことによる資金調達の方法のことである。
通常、銀行借入や増資よりも調達の機動性があり、コストも安いというメリ
ットがある。
しかし、CP を買い取る投資家の立場からすれば、取引銀行や株主と違って、会社内部の細かい情報にアクセスできるわけではないから、信頼できる機関が専門的情報に基づいて審査した結果をベースに投資判断を行なうことになる。
その判断基準が格付けなのである。従って、CP 投資家が安心して投資できる水準の格付けを取ること(※)が、結果として企業の資金調達の多様性の確保や資金調達コストの削減に直結することになる。
格付け取得は、そのための特権であり、アセットなのである。
(※)因みに今回の三菱自工の格付けでは、CP 投資家が安心して投資できる水準からは 程遠く、CP 発行のメリットは享受できない。
では、格付けを上昇させる為には何をすれば良いのだろうか。
格付けは格付会社(ムーディーズや S&P 等)が財務内容だけでなく、マネジメントに対して行うインタビューや業界分析を通じて将来の財務内容に影響を与える「業界の動向」や「経営方針」なども考慮した上で決定される。
よって一時的な高収益や事業拡大は、それだけでは格付けを上昇させる要素には成り得ず、長期的な経営の安定性が評価される。
現在、各自動車メーカーのムーディーズの格付けは、トヨタが Aaa、ホンダが A1、日産が Baa1 マツダが Ba3、三菱自動車が↓ Ba3 である。
昨今の動きでは、トヨタは昨年に Aa1 から Aaa に上昇しており、上記の通り日産も今年に入ってから 2 段階上昇している。
ムーディーズはトヨタの格付け引上げの理由として新車の投入計画にも言及しており、単に財務的な内容だけでなく、トヨタの戦略と着実な履行について評価している事がうかがえる。
また、日産についても財務内容の回復以外にも NRP、N180 等で打ち出したコミットメントの着実な履行が評価した上での引き上げだといわれている。
つまり、格付けを引き上げる為には、経営理念や企業文化、明確な戦略とコミットメント、それを着実に履行し、タイムリーに進捗状況を開示していく姿勢(ディスクロージャー)等、経営の本質が問われることになってくる。
一時的な財務的改善からだけでも一定の格付け改善は可能ではあるが、市場から本質的な評価を得ようとするならば、リーダーシップや顧客価値をうむ製品やサービスの提供、社会貢献など極めて地道で当たり前の企業姿勢や企業活動に立ち返ることになる。今後も格付けの動向に着目してきたい。
<篠崎 暁>