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新たな原価低減手法を創造するために何をすべきか
◆富士重工、シートや空調など15品目を選定し、2年間で20%の原価低減を実施する
<2005年 6月 14日号掲載記事>
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富士重工はこの度TSR(トータルコスト・ストラクチャー・レボリューション)という原価低減活動を立ち上げた。コスト低減効果が大きいと予想される重点15品目について部品の共通化などの具体的な原価低減方策を協議し、最終的には2年間で20%コストを削減するそうである。
この原価低減活動の特徴は「重点 15 品目に絞り込む」ことと「部品の共通化を中心とした原価低減」を推進することであるが、これらの方法は過去において頻繁に使われてきた原価低減手法であり、特に目新しさを感じるところはないように思われる。しかしながら、実際にメディアを通じて公表された企業活動というのは表面的な内容に留められることが多いのも事実だろう。「従来どおり」の原価低減手法に依存しながも、「新しい」やり方を試行錯誤取り入れてきたからこそ、これまで原価低減において一定の成果を積み上げることができたのだと筆者は予想している。
これとほぼ同時期に、各自動車メーカーから今後の原価低減活動への取り組みについて発表されているが、各社が発表した活動の内容を見渡してみると、これまで繰り返し実行されてきた「従来どおり」のやり方に多くを依存しながらも、これまでにはなかった「新しい」試みにも挑戦している様子がうかがえる。今回のコラムでは、何が「従来通り」の原価低減手法で、何が「新しい」試みであるのか整理してみたい。加えて、これら新旧の要素をどんなふうに使い分けたら原価低減活動が効率良く進むのか筆者の見解を述べてみたい。
まず、「従来通り」の原価低減手法として最も効果的と認識されているものが「規模の経済を利用した原価低減」である。特に自動車産業で使用される部品は開発費や設備などの初期投資が非常に大きい為、自動車を安価なものにするには、これらの固定費を軽減させられるだけのまとまった生産数量が必要になる。例えば、この度各自動車メーカーが発表した原価低減活動のなかにも、前述の「部品の共通化」を通して固定費を薄める努力が見られるものがあるし、最近各自動車メーカーが少数のサプライヤーに発注を集中させようとしているのもこの規模の経済を最大限に利用しようとしているからである。
「従来通り」のものとして、二つめに「クロスファンクショナル」な組織の中で原価低減を推進するやり方が挙げられる。トヨタは従来から車を数十の部品群毎に分け、生産や開発・調達などあらゆる部署の専門家を総動員してコスト低減案の創出を効率化しようとするようなことを行っていたし、本田にしろ、日産もまた同様、現在においては、原価低減を機能横断的な組織に頼らずに実施しようとする企業を探すほうが難しいだろう。
三つめの「従来どおり」の手法として、「ベンチマークを活用した原価低減」が挙げられる。例えば、現在、各自動車メーカーが原価低減活動を発表する際には、必ずその時々で最もインパクトのある「ベンチマーク(原価低減目標)」に対して割高であることを強調することによって原価低減を行う必要性を説く。例えば、90年代半ばに極度の円高ドル安になった際には、「米国から輸入される自動車部品価格」がベンチマークとして使用されたし、現在でも、日産自動車は「リーディング・コンペティティブカントリー(LCCs)」という現時点での最安国の原価をベンチマークとして使用している。インパクトの大きな目標を常に掲げることによって原価低減活動の参加者に危機意識を持たせ、結果としコスト低減活動を促進しようとしている。
これら「従来通り」のやり方に今もなお多くを依存しながらも、ここ一ヶ月の間に各自動車メーカーから発表された原価低減活動の内容を一覧するといくつか「新たな」傾向や試みを発見することができる。
「新たな」傾向のひとつとしては、「海外拠点の改善力を利用した原価低減」に取り組む自動車メーカーが増えていることが挙げられる。例えば、本田は「アクション 1 ・ 2 ・ 3」のなかで「地域毎の独自の改善」を奨励しているし、日産も「インターナルベンチマーキング」といった政策のなかで、従来は日本の事例を海外展開することが多かったトレンドとは逆行して、海外拠点のベストプラクティス(最優良事例)を日本に輸入する試みにも挑戦するようである。ゆえに今後も「海外拠点」が原価低減の牽引役になる頻度が高くなるだろう。
二つめの変化としては、原価低減の検討が「部品単体」での検討からより大きな「システム単位」での検討にその範囲を徐々に拡大している傾向が見られる。この理由は、検討範囲をより拡大したほうが、ある部位を変更することによる他の部位への影響を 1 つのメーカーが単独で判断することができることになる。変更後の影響を協業メーカーに確認をしなくて良くなった分、原価検討に要する時間を短縮できる。また、大きなシステムを一つの「機能」として捉え、その「機能」を満たすようなシステムの構造を考える手法のほうが、小さな「機能」を積み上げてひとつのシステムを構築することに比べてシステム構造的にたくさんのバリエーションを持たせることができる。バリエーションが増えればそれだけ原価の最も安いシステム構造を探し当てる確率も増えることになる。それゆえに原価低減の検討範囲が少しずつ拡大しているのだろう。
三つめに見られる「新たな」変化としては、原価低減の対象がより先行開発に近い分野でも行われるところである。例えば、トヨタは新原価低減活動「バリュー・イノベーション」のなかで要素技術開発を含む新車開発のあらゆるステージで設計・開発・調達手法を見直している。
ここまで自動車メーカーの原価低減活動における「従来通り」のやり方に頼っている部分と「新たな」原価低減手法に見られる傾向ついてそれぞれ 3 つずつ概観してきた。それでは、最後にこれらをどんなふうに使い分けたら原価低減活動が効率良く進むのか筆者の見解を述べてみたい。
結論から言うと、「従来通り」の部分は作業の標準化を推進し、より機械的かつ迅速に処理できるようにもっていき、その活動によって創り出された時間を画期的な原価低減アイデアの創造、即ち「変化をもたらすような活動」の為に充てていくような試みが必要になってくるように思われる。
それではどのように標準化を推進することができるのだろうか。従来から行われてきた原価低減活動に「クロスファンクショナル」なメンバーを総動員した原価検討会などがある。原価低減のアイデア出しをする際にもできるだけシステマッティックに作業を進めることによって時間的な効率化が計れるだろう。例えば、漠然と「原価低減のアイデアを出しましょう」と言っても考えが散漫になったり、アイデアが偏ったりすることがある。そこで、アイデア産出のきっかけとなり得るような特定のキーワードを頼りにアイデア出しをするとアイデアが漏れなく、数多く出てくる。例えば、設計的な原価低減アイデアを考え出す際には、「廃止」・「変更」・「置換」といったような原価低減手段となり得るキーワードをまず準備する。そして、製品を眺めながらまず「廃止できるもの」に集中して原価低減アイデアを出す。そうするとボルトが「廃止」できたり、表面処理が「廃止」にできたり、加工が「廃止」できることに次々と気が付くだろう。そしてアイデアが出尽くしたところで次のキーワードである「変更」に限定してアイデアを出し尽くす。そしてさらに次のキーワードを使ってアイデアを出す。ひとつのキーワードに集中することで「強制力」が生まれ、雑念を排除した形でアイデア出しに注力できるからアイデアの数が多くなる。順序立ててアイデア出しをする為、アイデアの偏りも少なくなる。機械的に作業を行うのでアイデア出しに使う時間を最小化できる。そしてこのようなシステマッティックな活動によって節約した時間を「新たな試み」にチャレンジする為の時間に充てたい。
そして機械的な作業を終えたところで、初めて静かに、時間を取って、時には仲間とブレーンストーミングしたりして画期的な原価低減のアイデア作りに精を出してみたい。その為には「従来通り」の原価低減活動をできるだけ自動化し、「新たな試み」に使う時間を最大化する必要があるのではないか。
<カズノリ (加藤千典)>