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現代自動車から、製造品質を確立する方法を学ぶ
◆トヨタの渡辺社長、
「韓国・現代自動車は本当に凄いです。高く評価しています。」
<2005年 7月28日号掲載記事>
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以前は「安かろう、悪かろう」の代名詞と言われたことのある現代自動車が近年自動車生産と販売において日本の自動車メーカーを脅かすまでに全世界規模で躍進を続けている。実際、傘下の起亜自動車を合わせた 2004年の世界の販売は 318 万台に到達し、世界 8 位となった。
この原動力は何だろうか。新興国における低価格戦略もさることながら、車の品質を大幅に改善してきたことが最も大きな要因だと業界関係者の間では考えられている。
事実、住商アビーム自動車総研代表の
加藤の 6月 24日付けコラム『企画品質の時代』でも触れられているとおり、2004年の JD Power & Asso ciates 社の初期品質調査では会社別ランキングで 2 位となり、「品質が日本の自動車メーカーの競争力の源泉とはなりえなくなってきている」と言えるところまで現代自動車の品質は改善してきている。
これまで筆者は、製造現場での実務経験等を通して「なぜ海外の自動車メーカーは日本の自動車メーカーの品質を再現することができないのか」、「何が両社の違いなのか」ということを常に疑問に感じつつも、明確な回答を出せずにきた。
この状況は今でもさほど変わっていないのだが、今回は特に製造品質(すなわち、設計仕様に対してどれだけ一致したものを継続的に生産できるのか)という点に限定して、「1.日本の自動車メーカーと海外メーカーの製造品質における差とは何なのか」、「2.現代自動車はどのような活動によって日本の自動車メーカーとの品質格差を縮めたのか」、「3.現代自動車の品質改善活動から学べることは何か」、「4.現代自動車メーカーにとって残された課題とは何なのか」という点について私見を述べてみたい。
1.日本の自動車メーカーと海外メーカーの製造品質における差とは何なのか。
製造ラインにおける製品不良(設計仕様に対して一致したものが作れない状態)は、以下の条件が満たされなかった時に発生すると筆者は考える。
(1)品質を維持する為に必要なルールが存在している
(2)ルール通りに作業が実施されている
(3)発生した不良を人や機械によって摘出できる
これまで 1~ 3 の条件を日本の自動車メーカーと海外メーカーが過去どの程度満たしてきたのかを考えてみたい。
【条件 1. 品質を維持する為に必要なルールが存在している】
日本においては1950年、日本の科学者および技術者の組合がデミング博士を日本に招聘したのをきっかけに、日本のメーカーが統計的な品質管理法を海外のメーカーに先駆けて使用し始めた。このように、日本の自動車メーカーは標準化されたルール(手順)に基づいて生産することで誰が作っても品質レベルを均一化することに成功した。一方、海外の自動車関連会社もQS9000等の取得を通して決められたルールに基づいて生産を始めている。現時点では、日本の自動車メーカーも海外の自動車メーカーも決められたルール(手 順)に乗っ取った形で製造を行っていると考えられる為、今後、この部分における品質格差は年々なくなっていくものと予想している。
【条件 2.ルール通りに作業が実施されている】
人間は初心の時には、自分の知識を総動員して事態に一生懸命対応しようとするが、習熟するにしたがって作業の特徴を捉えて、作業を自動化しようとする傾向がある。このような自動化が進むとこれまで作業要領に忠実に仕事を進めていたにも関わらず、自分勝手な判断を加えて標準作業の先回りをするようになる。これが最終的には品質不良に繋がっていく。このような状況を打波する為には指差確認や声だし確認を行うことによって自分の一つ一つの行動を意識するようなことを日本の自動車メーカーの現場では実施してい るが、個人主義が強い欧米のメーカーでは、このような集団訓練的な教育は馴染みにくいし、欧米人中心の文化では、個人が自立的に判断をすることを過度に抑制することは難しいと考えられる。ゆえに、決められたことを継続的に繰り返すという観点からは日本のメーカーにアドバンテージがあるように思われる。
【条件 3.不良を人や機械の力によって摘出できる】
人間の能力には乗り越えられない限界があり、生産設備の中にも様々な角度から人間の能力を助けるような工夫が見られる。間違った行動をさせない為に、作業者に注意を喚起したりする「ポカよけ」や間違った行動を取った後に自動的に停止するような「フェイルセーフ」機能を搭載させている。これらの工夫は日本のメーカーが長い年月をかけて現場レベルで日々の改善を通して蓄積してきたものである。よってこの分野において日本の自動車メーカーは優位性を確保しているし、海外の自動車メーカーが模倣しにくい部分だと考えられる。
このように「継続的に決められたことを繰り返す」という点と日々の改善によって培った「不良を工程で摘み取る」という2点においてはこれまで日本の企業にアドバンテージがあったように思われるが、品質面における日本の自動車メーカーの地位が確固たるものになっている状況のなかで現代自動車はどのような活動によって日本の自動車メーカーとの品質格差を縮めていったのだろうか。
2.現代自動車はどのような活動によって日本の自動車メーカーとの品質格差を縮めたのか。
現代自動車は1998年以降、鄭夢九会長自ら品質の向上を通して顧客を開拓をする政策に転換をした。そして以下5つの施策によって全世界の自動車メーカー中第二位の品質レベルを実現した。
【1.10年 10 万マイル保証の宣言】
日経Automotive Technology 6月号によると、現代自動車の鄭夢九会長自らトヨタ自動車の品質に勝つための布石として「10年10万マイル」の品質保証を宣言した。これによって顧客に安心感を与えるとともに、顧客に宣言したことによって全社的にも目標達成を必達とする意識を植え付けることに成功した。
【2.日本市場への参入】
品質基準が世界一厳しい日本市場に参入することによって現代自動車が今後踏襲すべきと品質目標を手に入れることができた。この目標に合わせて社内の品質保証体制を見直すことによって全社に高品質を実現するための社風を根付かせることができた
【3.最終工程における検査員と修理員の増員】
日本の品質基準に合わせるべく、即効性のある措置として実施したのが最終工程に検査要因と修理要因を増やしたことである。これによって外部不良率を短期間で大幅に抑えることができた。
【4.検査項目の増強】
日本向けは他の輸入車よりも品質検査項目を10%以上増やして対応しており、日本の基準に合わせるよう努力を積み重ねることによって品質レベルを日々向上させている。
【5.Tier2 / 3 サプライヤーとの協力関係構築】
Tier2/3サプライヤーに専門のコンサルティング会社を派遣して現代自動車の品質標準を末端のサプライヤーまで浸透させる為の努力を行った。
このように上記の5つの施策を通じて、現代自動車はかつてどの自動車メーカーも成し得なかったほど急速な勢いで品質における国際競争力を高めていった。われわれ日本人も現代自動車の今回の試みから何か学ぶことができないだろうか
3.現代自動車の品質改善活動から学べることは何か
【1.形からはいる】
・最初に現代自動車の会長が「トヨタ自動車の品質に勝つ」と報道陣に宣言した時、それを信じた者は何人いただろうか。ところが鄭夢九会長がこのスローガンを繰り返す内に違和感が徐々になくなっていた。
・10年10万マイル保証も根拠のない夢想から始まった。まず宣言してしまえば後は何とかなるものだと。実際、社員は10年10万マイルを次第に必達目標として感じるようになっていった。
・品質向上も最終工程に検査要員を投入することによって、まず、外部に流出する不良を抑えるから入った。すなわち外向けに格好を取り繕うところから入っている。
【2.ナンバーワンをベンチマークする】
かつてGMの会長だったジャック・ウェルチが業界のベスト・プラクティスだけを模倣しようと試みたように、現代自動車も業界最高品質水準を維持している日本市場や日本の自動車メーカーを徹底的にベンチマークした。
このように現代自動車の活動を通じてわれわれは、短期間に世界の中堅企業からトップになる為のエッセンスを学ぶことができたわけだが、現代自動車は本当にトヨタを抜いて世界一の品質を手に入れることができるのだろうか。
4.現代自動車メーカーにとって残された課題とは何なのか。
現在、現代自動車が高品質を維持している理由は、最終工程において検査員と修理員を増員しているからだが、これらの増員は純粋にコストアップを意味する。現時点においては、韓国ウォン安の影響を受けて原価の上昇分が表面化していないものの、今後、ウォン高が進行した時に人手を増やさずに品質レベルを向上することができなければ日本の自動車メーカーとの品質レベルの競争に敗れるもしくは収益性を悪化させることになる。それまでに工程の中で品質を改善していけるような措置が取られるべきであろう。
<カズノリ (加藤千典)>