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日本と海外拠点の経験差を埋めるためにいかに取り組むべきか
◆自動車各社、外国人従業員にものづくりの技能を伝承する施設を相次ぎ設置
<2006年5月5日号掲載記事>
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近年、日本の自動車メーカーは、海外拠点の従業員にものづくりの技術を伝承するための施設を相次いで設置しはじめている。日産の「海外研修センター」やダイハツの「技能研修センター」、または、筆者が 2006年 3月 28日付け配信版にて取り上げているトヨタ自動車の「グローバル生産推進センター」もその一例である。
『世界的な規模でものづくりの一貫性を保つためには』
これらの施設が、世界の生産拠点で同一品質のクルマを製造する為の教育の場であることは周知の事実だと思われるが、そこでは、言わば、ものづくりにおいて「経験をもつ人々」が「経験をもたない人々」にいかに効率的に技術を伝承することができるかを自動車メーカー同士が日々競い合っている。
そこで、今回のコラムでは、「経験をもつ人々」と「経験をもたない人々」の差は何なのかを考察するとともに、自動車メーカーが両者の差を縮めるためにどのような仕組みを構築しようとしているのか、また、仕組みが存在しない状況下において「経験をもたない人々」が「経験をもつ人々」との品質差を最小限に抑えるためにどのような努力の仕方が考えられるか私見を述べてみたい。
【経験をもつ人々と経験をもたない人々の差は?】
経験をもつ人とそうでない人との差はいったいなんだろう。当然のことではあるが、「疑問や問題に対する答えを瞬時に提供できるか否か」だと考える。我々は日々の生活において、ある特定の問題を解決しようとすると、その副作用としてまた別の問題を抱えてしまうということをしばしば体験する。例えば、自動車部品製造において、部品の剛性を上げようと努力した結果、重量が増え、軽量化ニーズに反してしまうことなどが一例だ。通常このような場合、試行錯誤を繰り返しながら、徐々に求められるニーズ全てを満足させられるような解に近づけていこうとするものだ。しかし、「経験をもつ人々」は過去の試行錯誤の経験全てを考慮した現時点で最善の解を迷いなく言い放つことができる人、または実践できる人ではないだろうか(例:作業標準が身についている工場の作業者)。それでは、自動車メーカーは、このような優秀な作業者を効率的に育て上げるため(もしくは、期待通り作業をさせるために)にどのような仕組みを構築しようとしているのだろうか。
【現状の自動車メーカーが構築しようとしている仕組みとは?】
主な取り組みは以下の3つである。
1.生産設備や作業の標準化
まず、自動車メーカーでは、同一グループ内の生産設備を全世界的に標準化することで、各生産拠点間で相互指導(ノウハウ共有含む)ができるよう環境を整えたり、最終的に世界のどんな文化的・教育的背景をもった従業員でも同一の品質が出せるようにしたりしている。
2. 指導員のグローバル化
’80~ 90年代の日本の自動車メーカーは日本からの応援者を海外拠点に派遣することで品質の安定に努めていたが、’00年代の急激な生産拠点の海外進出に伴い応援人材不足が深刻化した為、今や世界に散在する高度な技術を兼ね備えた外国人の指導者を育成する動きが高まっている。例えば、日産自動車では「ロンチング・エキスパート」と呼ばれる新型車の立ち上げに精通した工長クラスの外国人を新拠点に派遣することで、生産拠点立ち上げ時の安定化を計ろうとしている(4月 16日付け日刊自動車参照)。
3.教育施設のネットワーク化
トヨタ自動車や日産自動車では、日本、北米、欧州、アジア各一箇所にそれぞれの地域のハブ(ネットワークの中心)となるものづくり専門のトレーニングセンターを設け、ハブの周辺にある生産拠点の指導をそれぞれハブに一任している。権限を各地域に委譲することで技能伝承の効率化をはかっているのだ。
このように、道具や人、インフラ等の仕組みを整備しながら、作業者があたかも「経験をもつ人々」のように行動できるできるよう各自動車メーカーは工夫してきたわけであるが、自動車の生産活動には上述のような仕組みの保護を受けず自立的に活動することを余儀なくされている従業員も多々存在する。このような人々が仕組みの助けを借りずに「経験をもつ人々」との最小限に保つ、もしくは追いつくためにどのような努力の仕方が考えられるだろうか。
【経験をもつ人々との品質差を最小限に抑える為には?】
私見ではあるが、経験を補うのはもの作りの現場における「知識(知ること)」と「思考(考えること)」 、「意思疎通(思いを取り交わすこと)」ではないかと感じる。これらを利用することが得意な読者はたくさんいるはずなのではないだろうか。
まず、「知識(知ること)」はあればあるほど問題や課題に対する解決策の正確性を高めてくれるだろう。先日自分が参加した会議でも自動車のタイヤの品質管理をいかにして行うかを話し合った時、タイヤのことを知り尽くした人がタイヤ特有のバランス取りやトレーサビリティーの要求の厳しさについて説明してくれた。出てくる情報が多ければ多いほど判断が容易になることが感じ取れた気がする。
また、「思考(考えること)」は、経験がものを言う領域においては「経験をもった人」に敗北する可能性が多くなるが、時には斬新なアイデアを考案することで勝利することがあるかもしれない。一方、経験が関係ない新領域であれば、経験をもつ人との差は相殺され、「経験をもった人」と同じ土俵で勝負することができる。
更に、「意思疎通(思いを取り交わすこと)」で技術伝承の際、より正確に理解し合えるのではないかと考える。経験をもたない人々は、自分が抱える問題を具体的にかつ明らかにしていく努力が必要であろう。そうすれば経験をもつ人々が経験をもたない人々に対して手を差し伸べやすくなるだろう。
もちろん、ここで述べていることは「経験をもっていること」に追いつくための一手段であって、これらのことが当てはまらないケースもあるのであろう。
自動車業界においては、日本人が日本で培ってきた経験が海外のそれに対し優位な状況にあるというのが通説であるが、海外拠点に対するものづくりの技能伝承においても、仕組みで品質を作りこむことと同時にシステムの中に組み込まれている当事者も「知り」、「考え」、「意思疎通」をしながら変化を遂げていく必要があると思う。
<カズノリ (加藤千典)>