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電気自動車について
2007年 10月から自動車業界に関連するあらゆる傾向をアンケート調査してきた「住商アビーム 1 クリックアンケート」が 2011年 2月からリニューアル致しました。自動車業界で関心が高いテーマを毎月一つ設定し、このテーマに関して計 4 つの質問をさせて頂きます。ご回答頂いた皆様の声をもとに、翌月、このテーマに関するレポートを発表致します。
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今回は、「国内の電気自動車市場」をテーマとした以下 4 問のアンケート結果を踏まえてレポートを配信致します。
2月 1日配信分の 2 問
- 「2020年の国内新車販売における EV の販売比率はどの位の割合を占めているか?」
- 「EV の普及を加速させていくために、最も重要となる対策は何か?」
2月 15日配信分の 2 問
- 「2020年の EV の利用者はどの層が中心となっているか?」
- 「2020年の国内における EV の販売チャネルはどのようになっているか?」
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【EV の普及について】
経済産業省では、2010年 4月に公表した「次世代自動車戦略 2010」において、2020年の新車販売に占める電気自動車(EV)/プラグイン・ハイブリッド自動車(PHEV)の割合を 15~ 20 %とすることを政府目標としている。
また、環境省では、2009年 5月に公表した「次世代自動車普及戦略」において、2020年の新車販売に占める EV の割合が 9.3 %となる見通しを発表している。
経済産業省の発表には PHEV も含まれていることを考慮すると、行政機関では、 2020年における新車販売に占める EV の割合は、10 %程度を目標としているのものと想像する。
一方で、自動車業界ではどの程度普及すると考えているのであろうか。自動車業界に携わる方で構成される弊社のメールマガジンの読者に「2020年の国内新車販売における EV の販売比率はどの位の割合を占めているか?)」についてお聞きした。結果は以下の通りである。
●「20%以上」 | :21% |
●「10%以上20%未満」 | :25% |
●「5%以上10%未満」 | :26% |
●「5%未満」 | :28% |
アンケート結果から簡便的に算出した期待値(平均値)は 11.3 %となり、業界からは行政機関の目標はアグレッシブであるという声も聞かれるが、実際には、行政機関と業界が考える EV の普及度合いは近しいものであると言えるのではないだろうか。
この度の東北地方太平洋沖地震は EV の普及にも影響を与えるものと思われるが、行政及び業界の目標を達成するため、あるいは上回らせるためにどのようなことが必要になってくるのか、その他のアンケート結果も踏まえて考察していきたい。
【EVのユーザー像】
まず、EV のユーザー像を確認したい。以下は、「2020年における EV を利用しているユーザー像」に関するアンケート結果である。
- 「法人ユーザー」 :28%
- 「電気自動車だけを保有する個人ユーザー」 :21%
- 「2台以上保有する中の1台として電気自動車を保有する個人ユーザー」
:28% - 「(電気自動車は保有せず)レンタカー、カーシェアリング等のサービスを通じて適宜利用するユーザー」
:22% - 「その他」 : 1%
「法人ユーザー」と 「2台以上保有する中の 1台として電気自動車を保有する個人ユーザー」が同率で 1 位となり、次に「レンタカ―、カーシェアリングを利用するユーザー」、「電気自動車だけを保有する個人ユーザー」となった。
「法人ユーザー」を選択された方からは、「走行距離やルートがある程度決まっている、または予測される業者向けの販売が伸びる」、「CSR の観点から環境意識をアピールしたい企業が購入する」という意見を頂いた。
また、「2台以上保有する中の 1台として電気自動車を保有する個人ユーザー」を選択された方からは、「近距離専用のセカンドカーとしての普及が多数を占める」という意見を頂いた。
上記の結果は、従来から業界で想定されている EV のターゲットユーザー像と一致する。
【EV 普及の課題】
この背景には、EV が走行距離の制約を受けるということが挙げられるだろう。実際に、「EV を普及させる上で最も重要となる対策は?」との問いに対する結果は、以下のとおり「航続距離の向上」が 1 位である。
- 「新車販売価格の値下げ」 :26%
- 「充電インフラの整備拡大」 :28%
- 「車種の多様化」 : 4%
- 「航続距離の向上」 :35%
- 「その他」 : 7%
弊社では、クリーンエネルギー車の普及形態として、特定のクリーンエネルギー車が普及をするのではなく、各市場や地域、用途によって、多様化していくと考えている。
EV については、現在のところ、走行距離が相対的に短いという特徴から、狭域・都市部向きと言われている。一方で、用途としては、事業用・一般用の双方での活用が見込まれている。
そうした中で、周知の通り、難易度は高いがバッテリー性能を向上させることにより、航続距離が少しでも伸びれば、EV の市場、用途として狙える領域が拡大することも考えられる。
【EV に関連する新たな取り組み】
バッテリー性能に関しては、現在、トヨタや日産など 12 社と京都大学等 10研究機関が参加する産学連携の「ライジング」プロジェクトなどを通じて、リチウムイオン電池の理論限界を超える性能を持つ「革新電池」の開発がなされている。
これが実現できれば、理論的には電気容量を既存のリチウムイオン電池の 3倍以上に増やすことが可能で、EV の航続距離が約 500 Km まで伸びるとの報道もあり、EV が狙える領域の拡大に繋がるであろう。
また、バッテリー性能の革新を始めとした、いわゆる川上領域の取り組みだけでなく、川下領域(販売・流通領域)においても新たな取り組みが始まっている。
販売チャネルにおいては、三菱自動車とビックカメラの提携のように、家電量販店を活用する取り組みが見られる。以下は、「2020年の国内における EV の販売チャネルはどのようになっているか?」のアンケート結果である。
- 「家電量販店などリアルな店舗で販売チャネルの多様化が進む」
:19% - 「自動車メーカーの直販サイト(現在の車両情報の提供などに留まらない車両購入契約に踏み込んだ形でのインターネット販売)などバーチャルな販売チャネルの多様化が進む」
:11% - 「リアルでもバーチャルでも販売チャネルの多様化が進む」
:29% - 「新車ディーラー以外の活用は進まない」 :36%
- 「その他」 : 5%
リアルな販売チャネルの多様化が進む、バーチャルな販売チャネルの多様化が進む、リアル・バーチャルの双方で販売チャネルの多様化が進むという回答を合算すると、約 6 割の方が販売チャネルの多様化が進むと考えられている。
更に、アフターサービスにおいても新たな取り組みが始まっている。日産が、リーフの発売に合わせて、車両の点検や修理の効率化と迅速化を図ることを目的に、「リモート・テクニカル・アシスタンス」と呼ばれるシステムを導入した。
これまで EV の点検・修理を行うには販売店にいる通常の整備士の知識や設備だけでは対応しきれなかったが、この新システムを活用すれば、販売店から離れた場所に位置する研究所の専門技術者が、ウェブカメラを介して現場の整備士の検査の様子を監視しており、必要に応じて助言を得られるので、販売店でアフターサービスにおける一定の対応が可能となっている。
上記のような川下領域での取り組みも、EV が狙える領域の拡大に繋がるのではないだろうか。
市場が飽和しクルマ離れも言われる国内市場の中で、新たな付加価値を持った EV への期待は大きい。仮に、2020年に新車販売の 10 %を EV が占めるとすれば、2010年の「プリウス」の販売台数 32 万台を上回ることになるであろう。その実現に向けて、まずは市場における EV のポジションを確立した上で、製品、販売・流通の両面で既存の枠組みに捉われず、EV が狙える領域を拡大しくことが肝要と考える。
<横山 満久>