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think drive (1) 『クルマに関わる環境負荷低減技術/性能』
新進気鋭のモータージャーナリストで第一線の研究者として自動車業界に携わる長沼要氏が、クルマ社会の技術革新について感じること、考えることを熱い思いで書くコーナーです。
【筆者紹介】
環境負荷低減と走りの両立するクルマを理想とする根っからのクルマ好き。国内カーメーカーで排ガス低減技術の研究開発に従事した後、低公害自動車開発を行う会社の立ち上げに参画した後、独立。現在は水素自動車開発プロジェクトやバイオマス発電プロジェクトに技術コンサルタントとして関与する、モータージャーナリスト兼研究者。
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第1回 『クルマに関わる環境負荷低減技術/性能』
初めまして。今回からメルマガ執筆者の一人に加えて頂く事になった長沼と申します。研究者とジャーナリストという二つの視点から日々クルマに関わりつつあるなかで、感じる事、想う事を、脈絡なく(スイマセン)書かせて頂こうと思っておりますので、よろしくお願いします。ちなみに、ジャーナリストとはまだまだ勉強中の身であり名乗れる段階ではありませんが・・・。なお、本メルマガ読者の皆様は各分野での専門家が多いでしょうから、もし内容に解釈や記述に関する間違いがありましたら、どんどんご指摘頂ければ幸いです。
第一回の今回は、クルマに関わる環境負荷低減技術/性能について、書いてみます。
【クルマを作るための必要条件と十分条件】
モノを作り、商品とする段階にはどんなモノにも規制、規格が関連するというのは皆さんの常識としてあると思う。クルマに限らず、我々が購入できる商品には何かしらの規制があるものだ。モノに限らず、サービス、情報にも、規制、規格というものが数多く存在する。
では、クルマに関する規制はどのようなものだろうか? 国土交通省の省令である、道路運送車両法がその主たるものだろう。
この道路運送車両法は昭和 26年 6月に出されており、その目的を第 1 条で、以下のように定義されている。
<抜粋>
第1条 この法律は、道路運送車両に関し、所有権についての公証等を行い、並びに安全性の確保及び公害の防止その他の環境の保全並びに整備についての技術の向上を図り、併せて自動車の整備事業の健全な発達に資することにより、公共の福祉を増進することを目的とする。
日本で本格的なモータリゼーションが始まったのが 1966年(昭和 41年)、トヨタカローラの誕生した年と言われているから、その十数年前から自動車を設計するには、何らかの規制があったのだ。
さて、この法律の定める項目は非常に多岐にわたり、クルマ設計に携わるエンジニアの苦労が窺える。今回のテーマに関する所は、第 1 条のなかの「並びに安全性の確保及び公害の防止その他の環境の保全並びに整備についての技術の向上を図り」の部分がまさに、環境負荷低減に関する部分であろう。そして、第 3 章(第 40 条~)、道路運送車両の保安基準で具体的に定められている。
つまり、クルマを設計する上での「必要条件」はこの道路運送車両法/道路運送車両の保安基準であり、それさえ(もちろんその他関係法令等は多々あるだろうが、ここでは記述を省かせて頂く)満足すれば商品として世に送れると考えてもいいだろう。そこでこれを、クルマを作るための必要条件としてみる。
それでは、十分条件はどのようなものだろう。先の必要条件は一般ユーザーがおそらく気にすることのない条件であるが、十分条件とはまさにユーザーが意識する条件といえるだろう。加速性能、デザイン、ブランド性、信頼性、その他、つまりは商品性と言い換えられる部分ではないかと思う。カーメーカーの機能として考えられるものの中において、グローバル化が進むなかで、近年特に重要視されている部分でもある。
【必要条件から十分条件へ】
勝手に定義した必要条件と十分条件、その前提で話を進めさせて頂くと、環境負荷低減技術というのは、最近現れた条件を満たすためのものでもなんでもなく、ずーと昔から”必要条件”として存在し、カーメーカーのエンジニアを悩ましていたものだった。しかし逆の見方をすれば、それは基準を満たしさえすれば、まさに必要最小限でよかった項目。もっとも、北米のマスキー法に代表されるように、日本でも昭和 51年規制頃からどんどん厳しくなって、開発項目の常に重点項目におかれる困難な課題ではあるものの、クルマを購入するユーザの視点からは外れていた性能と言えよう。では、その必要条件が十分条件へ変わっていったのはいつ頃、そして、どうしてなのだろうか?という点について考えてみたい。
個人的な感覚で申し訳ないが、日本においてはここ 5~ 6年くらいではないかと感じている。それは排ガスレベルを段階的に認定する制度(いわゆる★~★★★)が導入され、税制優遇が計られた時期(2000年 4月~)とラップするだろう。また、石原東京都知事の例のパフォーマンス(すすの入ったペットボトル、1999年 11月)も大きなトリガーになっただろう。
【商品性としての環境負荷低減】
カーメーカーの中でいち早く環境負荷低減を商品性に組み込んだ例は、なんといってもトヨタのハイブリッドだろう。初代プリウスは 1997年に市販(しかも量販)開始である事を考えても、他のメーカーがまだ、排ガス等の性能を必要条件として捉えていた頃、虎視眈々と商品性という視点からハイブリッドを開発していたと推測できる。量販体制ではなくとも同時期に出てきたいくつかのメーカーのハイブリッド車は既存車種への適応という形だったが、プリウス(ホンダのインサイトも)の専用車種という展開手法もハイブリッドというものを商品性として捉えていたという事を裏付ける要素だと思う。
さてもうお気づきの方もいらっしゃると思うが、排ガス性能はそうだが、同じ環境負荷低減性能でも燃費はもともとは商品性=十分条件であったものが規制=必要条件(厳密には規制)に変化したものだ。燃費については、過去のオイルショック、そして COP3 に代表される CO2 問題やここ数年の原油高高騰~ガソリン・軽油代高騰で商品性としての地位を上げてきた。しかし、ハイブリッドが商品性となるまでは環境負荷低減技術/性能は「地味」だった。他の商品性、例えば最高速度、最高出力(馬力)、ゼロヨン加速、等々の「派手」な性能に比べ、燃費、排ガス性能、は「地味」だった。燃費こそ知られていたが、排ガス性能などは、ユーザの視点からは「性能/商品性」という捉え方はなく、ただ「悪者」としてみられていたにすぎない。しかし、「ハイブリッド」という技術は、環境負荷低減分野から初めて表舞台にでた技術アイコンではないかと思う。「高出力」をもたらす、「ターボ」、「DOHC」という華々しいアイコンや、「4WD」「4WS」のようになんか凄そうなアイコンと同様にハイブリッドという技術がユーザーに訴えられる記号として昇格した点もプリウスの功績なのだろう。
そして最後に、環境負荷低減を商品性にする事は、商品開発の効率化と言えるのではないかと言う点を上げておきたい。なぜなら、クルマを開発する上で、ある意味、必要条件を十分条件として利用できているからだ。必要条件+十分条件、ではなく、必要条件=十分条件というのは、トータルでの開発コストを事実上低減しているのではないだろうか。もっとも推定や仮定の域を越えないが。
商品性というものは、規制/規格のように、検討~施行という流れも決まっていない、「世間のきまぐれ」と「時代の流れ」に左右されるもの。個人的には、ようやく日の目をみた環境負荷低減商品性が一過性のものではなく、永続する事を望みたい。そして、「燃料電池車」という超大型新人?の活躍や、水素エンジンやディーゼルというベテラン?も表舞台にきてもらいたい。もちろん、派手なアイコンとの共存で!!!。
<長沼 要>