think drive (16)  『モディファイ』

新進気鋭のモータージャーナリストで第一線の研究者として自動車業界に携わる長沼要氏が、クルマ社会の技術革新について感じること、考えることを熱い思いで書くコーナーです。

【筆者紹介】

環境負荷低減と走りの両立するクルマを理想とする根っからのクルマ好き。国内カーメーカーで排ガス低減技術の研究開発に従事した後、低公害自動車開発を行う会社の立ち上げに参画した後、独立。現在は水素自動車開発プロジェクトやバイオマス発電プロジェクトに技術コンサルタントとして関与する、モータージャーナリスト兼研究者。

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第16回 『モディファイ』

クルマを実用としての道具と割り切っている人にはあまり関係のない話かもしれないが、クルマを趣味としていて自分だけの仕様にこだわったり、個性的なクルマに乗りたいと思う人には興味のあるテーマを今月は取り上げたい。

チューニング、カスタマイズ、ドレスアップ、等々呼び方は色々あり、それぞれ方向性が異なるが全て共通しているのが純正状態だけでは満足できないという事である。

まずはチューニング。チューニングとは楽器のチューニングから来ている。
つまり、色々な理由で作り手が考える状態からズレているものを、あるべき状態に戻すこと。この本来の意味をクルマへ適応すると、走り等へ影響を与えるサスペンションアライメントを適正にすることや、エンジン部品の回転バランスなど、静的/動的バランスを完璧にするなど、があげられる。しかし、現状では、ターボによるパワーアップや、サスペンションキット交換などを指すようだ。

次にカスタマイズ。カスタマイズで判りやすいのは、パソコンではないだろうか。パソコンを購入した直後の状態で使っている人は皆無だろう。デスクトップの壁紙から、アイコンなど、自分好みに変えて使っているひとがほとんどだと思う。これはそのままクルマにも当てはまり、色んな部品を替えたり、ペイントをしたりして、自分好みに仕立てることをカスタマイズと呼んでいる。ドレスアップとは、そのカスタマイズのなかで機能部品ではなく、格好やセンスに関する部分だけ行うことをいう。

さて、これらを総称してモディファイと呼ばせてもらうとするが、個人的にもモディファイは大好きで、逆に市販されている状態のままでは、なかなか愛着が湧かない場合も多い。自分の嗜好でいえば、走りの機能に関する方向性だと思っている。過去手にした車のほとんど全ては、何かしら買えている。サスペンション、タイア、ホイール、オーディオ、シート、が主な交換部品だ。もちろん純正で不満のないものに手をつける事はない。そして、一番気を使っているのが、改悪とならないようにしている点。メーカーが多くの技術者と時間と費用をかけて開発してきたものに悪いものはないと信じているし、事実そう感じている。しかしコストからくるしがらみや、平均点を狙う設計に不満を覚える点も少なくない。そういう点を自分なりに改良したくなるが、決して改悪にならないように気をつけなければならない。

純正部品を交換する際、多くの場合は改悪になることを理解してほしい。その改悪になる部分を十分理解した上でこだわりの部分だけを特化させることは良いだろう。しかし、決してしてはいけない点は以下の2 点に影響する部分。安全性と環境面。強度計算もしっかりされていない、シートやシートレールは、いざというときに身体を守ってくれない。また、安易なECU内のデータ書き換えも無用な排ガスをだしてしまうことになる。この安全と環境という 2点に関しては、最大の注意を払って欲しい。今は皆無だと願いたいが、触媒を外す等はもってのほか。

このような経緯もあり、古い中古車をモディファイすることは多いが、最新のクルマをモディファイすることはほとんどない。しかし、どうしても普通の状態では満足できない人(私も含む)が居るということもメーカーは知っていて、多くのカーメーカーが量産車に対してモディファイを行うブランドが存在する。M.Benz/AMG, BMW/M, Audi/S, RSシリーズ, Toyota/TRD, Nissan/NISMO,HONDA/MUGEN, Subaru/STI, Mazda/Mazdaspeed, 等々まだまだあるがきりがないのでこの辺で例をあげるのはやめておく。これらのクルマは法規はもちろん、ある程度の耐久性まで考慮して開発されているので改悪となる部分はほとんどない。そして、なによりも十分満足のいく仕上がりだ。

量販車を買って、好みの部品を選びコツコツ仕上げるのもとても楽しいが、メーカー系ブランドでモディファイされたクルマを購入するのも楽しい。これらモディファイに興味のある方は、色んな選択枝のなかから自分に見合った仕様を探して、カーライフを楽しんでみてはいかがだろう。

<長沼 要>