think drive (17)  『自動車の小型化』

新進気鋭のモータージャーナリストで第一線の研究者として自動車業界に携わる長沼要氏が、クルマ社会の技術革新について感じること、考えることを熱い思いで書くコーナーです。

【筆者紹介】

環境負荷低減と走りの両立するクルマを理想とする根っからのクルマ好き。国内カーメーカーで排ガス低減技術の研究開発に従事した後、低公害自動車開発を行う会社の立ち上げに参画した後、独立。現在は水素自動車開発プロジェクトやバイオマス発電プロジェクトに技術コンサルタントとして関与する、モータージャーナリスト兼研究者。

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第17回 『自動車の小型化』

今年の 1月、インドでのモーターショーでタタ社が『ナノ』という低価格車を発表して話題を独占したが、今度は日産・ルノー連合が、インドのバジャージ・オート社と合弁会社を作り、 2,500ドルの低価格車を開発、販売するという情報が入ってきた。

これらのクルマは低価格車という位置づけであるが、結果的に小型化へ向かっている。そこで、今月はクルマのサイズについて。自動車という乗り物が誕生してから約120年。この1世紀を越える歴史のなかでクルマは一貫して大きくなってきている。高速かつ安全な移動空間となるにつれ大きくなってきている。

ある一車種を追っていくとよくわかるが、VW『ゴルフ』はいまは 5代目となるが、初代『ゴルフ』からみるとひとまわりどころかふたまわりほど大きくなっている。現在の『ポロ』でさえ初代『ゴルフ』より大きい。同じくトヨタ『カローラ』を例にとってみても1960年代の初代『カローラ』はとてもコンパクトで現在の『カローラ』からは想像もつかない。

さて、このクルマの肥大化は高速安定性や衝突安全性の面において有利に働くが、燃費性能などの環境負荷性能についてはマイナス面に働く。クルマの使われ方によっては無駄となる場合が多いからだ。

クルマの使われ方として、乗車人数がある。おそらく平均乗車人数は二人弱だ。通勤などに用途を限定すればほとんどが一人だろう。つまり、60kg程度のたった人一人を運ぶのに、1.5tもの重さのものが動いているのだ。それだけでもっともっと軽くていいと、直感的に感じていただけるだろう。

そんなコンセプトから生まれたのが、スマート。メルセデスベンツが時計会社のスウォッチとコラボレートして作ったMCCという会社とともに誕生した『smart for two』 はその斬新なコンセプトとデザインから大きな話題となった。そして、その小さいながらも最大限の安全設計がなされている点等が評価されセカンドカー/サードカーとして一部の層に愛され続けている。

その『smart for two』を核として 4人乗りの『smart for four』 や『ロードスター』など車種展開を続けてきたが、残念ながら商業的には成功とはいえず、現在はスウォッチ社は手を引いて、メルセデスベンツの一ブランドとなり、『smart for two』は2 代目になっている。初代からあったディーゼル『smartfor two cdi』 は 2代目にも引き続きラインナップされ、その88g/kWhという高性能をもってCO2 championとステッカーをはった姿が誇らしげだ。

また、昨年のフランクフルトモーターショーではVWから『up』、トヨタから『IQ』といったように smartを追いかけるコンセプトのクルマが矢継ぎ早に発表されている。

いま世界的にCO2 削減を目標としているのはクルマ業界でも同じだが、どうも燃料/パワートレイン系だけが注目されている感じがする。ディーゼル、ハイブリッド、代替燃料、電気自動車、、、どれもが効果的でその最適な使われ方が期待されるが、ダウンサイジングはどのパワートレインにも有効な環境負荷低減アイテムなのだ。

しかしながら、ダウンサイジングは”百害あって一利なし”かといえばそうではない。やはり衝突安全性には多少不利になる。私はスマートを普段の足に使っているが、まわりにはこのような衝突時の安全性を不安視する友人もいる。つまり、ダウンサイジングの障害になっているこの安全性、事実よりそのイメージが先行しているのも残念、を払拭するのが急がれる。

それには、衝突安全装置等の標準装備が急がれる。トラック、バスなど万が一の衝突時には被害(加害)が大きい車種には一刻も早い装着を期待したい。技術的にはかなりのところまできているので、あとは経営陣の判断、あるいは行政の判断だけだろう。クルマの装備だけでなく、プローブ車構想など、ITS ( Intelligent Transport System ) を使った安全性確保も可能だろう。

人間の大きさがこの 1世紀で大きくなったかといえば、そう変わりはなく、クルマも安全性の確保がなされれば必要以上の大きさはいらないと思われる。これからは、環境負荷低減に効果的となる、最適なダウンサイジングされたクルマが主流となってほしいと思う。

<長沼 要>