think drive (20)  『 EV試乗レポート 』

新進気鋭のモータージャーナリストで第一線の研究者として自動車業界に携わる長沼要氏が、クルマ社会の技術革新について感じること、考えることを熱い思いで書くコーナーです。

【筆者紹介】

環境負荷低減と走りの両立するクルマを理想とする根っからのクルマ好き。国内カーメーカーで排ガス低減技術の研究開発に従事した後、低公害自動車開発を行う会社の立ち上げに参画した後、独立。現在は水素自動車開発プロジェクトやバイオマス発電プロジェクトに技術コンサルタントとして関与する、モータージャーナリスト兼研究者。

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第20回 『EV試乗レポート』

来年ついに市場へ試験導入されるスバル「プラグインステラコンセプト」と三菱「iMiEV 」に乗れたので、レポートしよう。画像は、以下サイトで動画配信されているので、ご興味あるかたは是非アクセスしてみて下さい。

http://www.startyourengines.jp/mobility-tribune/2008/07/001001.php

スバル「プラグインステラコンセプト」はそのパワートレインを2006年から東京電力と先行開発してきた R1eから移植したものだ。従って、40kWのモーター出力、9.2kWhのバッテリー容量、一充填(充電?)での航続距離80kmというスペックは R1eと同一。先の洞爺湖サミットでは郵政事業株式会社に提供されるなど、R1e では少し不足がちだったユーティリティー性能に気を配った車種選択だという。外観はガソリン仕様のステラとほぼ同一。かなりお金のかかっているパールホワイトの塗色と電球(もちろん白熱球ではなく高効率の蛍光灯タイプとのこと)をイメージした写真のステッカー、フロントに常時点灯するLEDライト等の違いしかない。スタイル的には先進なR1eではなくなったのが少し残念ではあるが、大人4人+荷物が搭載できるメリットは大きい。

さて、実際にのってみる。試乗したのは新宿~三鷹という都内の一般道。平日昼間の一般的な混み具合で発進停止の多い平均20~30km/hくらいの走行パターンだ。ズバリ、このような走行パターンではガソリン仕様より圧倒的に乗りやすい。発進時など回転と同時にトルクを発生する電気モーターの特性はとてもクルマを流れにのせやすい。音はヒュイーンと回転と同期する音が新しい感覚。当然ギアチェンジの必要がないのでギアボックスはなく、電気モーター音は連続的だ。エンジン駆動のクルマのように、身体に伝わるわずかな振動もない事と、ギア変速に伴う断続的な加速フィーリングとは対照的な感覚。私が行司ならば、都市内の移動を目的とするクルマとしては電気モーターに軍配が上がる。

バッテリーはもちろんリチウムイオンタイプ。NEC と富士重工が共同で開発を進めてきたラミネートタイプを採用する。供給元は日産自動車が51% の資本を持つ合弁会社、AESC(オートモーティブエネジーサプライ株式会社)だ。ちなみに車両用リチウムイオンバッテリーを供給できる会社は現状日本の会社が多く、AESC以外には、パナソニックEVエナジー、リチウムエナジージャパン(GSユアサ、三菱商事、三菱自動車の合弁会社)、三洋などがある。

次に、三菱の iMiEV。こちらも東京電力と共同開発を進めてきており、ツートーンのカラフルなボディカラーで見た事ある人も多いと思うが、最近のEVの盛り上がりを牽引してきた感がある。目標スペックは最高47kWのモーター出力、16kWhのバッテリー容量、一充填(充電?)での航続距離160kmとなっている。こちらもガソリンエンジン搭載のベース車 「i」をEVに改造しているのだが、もともとリアエンジンリア駆動というパッケージを活かし、EVも電気モータをリアに搭載し後輪を駆動するRRタイプとなっている。上記のリチウムエナジージャパン製のリチウムイオンバッテリーを床下に搭載する事で、前輪のシッカリ感が増し全体的に質感向上した感覚だ。もちろんガソリン仕様の 「i」に劣らないパッケージングを実現している。

プラグインステラコンセプト同様に電気モーターの特性により、都市内移動は素晴らしい。また軽いワインディングにおいてもガソリン車ならキックダウンをするような場面でも、アクセルペダルの動きにトルクが瞬時に反応しクルマの動きをコントロールできるところは、とても気持ちがよい。それでもエンジン車に慣れた人間の感覚に合わせ、少しだけ力の発生を穏やかにしているというのだから、電気モーターの特性は恐るべしである。電気モータの特性をフルに使ったクルマなどは、なれないと発進加速の凄まじさにホイールスピンは当たり前、狭い試乗コースだとコースアウトする事も多く、実際、私も一度、ある人がある試乗会でコースアウトする現場を目撃している。

このように、電気モーターの特性をフルに使えば、今まで経験したことのない加速が得られるのだが、ガソリン車になれたドライバーにはあまりに強烈なので、アクセルペダルの動きに応じて最適なトルク発生がなされるように出力制御されているのが現状だ。電気なので制御は簡単。ガソリン、ディーゼル車は、トルク制御を行おうとすると吸気制御や燃料制御を統合的に行わなければならなく、その応答性に物理的限界があるが、電気では狙うトルクを一瞬で制御できる。そのため、先のような出力制御はいうに及ばず、横滑り防止装置など、非常に高精度な制御が可能となる点もEVの魅力と言えよう。

このように、都市内モビリティとしてはさほど欠点の見当たらないEVだが、やはり充電性能が大事になるだろう。この点は両車において確認できなかったが、いずれ長期間のテストをして、その辺の使い勝手などをみてみたいところだ。さらに長期使用によるバッテリー寿命なども興味の的だ。バッテリー性能の進化(鉛電池→ニッケル水素→リチウムイオン)に伴い見えてきた実用化を背景に、来年から試験的導入だがカーメーカーが本格的に動き出す。これから必須となる低炭素社会に求められるクルマとして、エネルギーの多様性と需要の平準化をもたらすEVは一つの解となることだろう。

<長沼 要>