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勝手にホームページ診断 (1) 『レクサスLS600h/LS600hL』
自動車の販売・マーケティング活動におけるホームページの重要性は今後、更に高まっていくことが予想されます。
SE のキャリアを経て、現在は自動車好きの中小企業診断士、Web コンサルタントとして活躍する遠藤康浩が、その商品の持つ特徴や魅力が適切に消費者にコミュニケーションされているか、という視点から車種別のホームページを診断していくコーナーです。
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第1回「レクサスLS600h/LS600hL」
住商アビームAuto Business Insight読者の皆様、初めまして。
今回から連載がスタートします『勝手にホームページ診断』を執筆する遠藤です。このコラムでは、中小企業向け Web コンサルティングを生業にしている筆者が、各社が作成している車種別のホームページを勝手気ままに診断するというコラムです。
Web コンサルタントとしての視点に一消費者の視点を交えて、ホームページを、軽めのタッチで解説していきたいと思います。
よろしくお願いいたします。
【今回の診断ホームページ:レクサスLS600h/LS600hL】
(http://lexus.jp/models/ls600h/index.html)
概要:レクサス待望のフラッグシップモデル。ハイブリッドシステムを搭載し「環境」「安全」「快適」「快楽」といった性能を高次元で実現した、技術の粋を集めたクルマ
ターゲット層:中高年齢の経営者・高所得者層
診断のポイント:発表の1年近く前からティーザー的にマスコミ、展示会等で情報を公開し、発売前から大きな期待と注目を集めてきたLS600h/LS600hL。ベンツやBMWの 購買層のブランド意識に訴えかけ、高級車市場を奪うことができるか。
【高級感はあるが、素っ気なさも】
初回のお題が、トヨタが社運を賭けている高級ブランド「レクサス」ということで、大きな期待を持ってホームページにアクセスしてみると。
第一印象としては、無彩色を中心とした色遣いと、すっきりしたデザインで、高級感の演出という意味では狙い通りのイメージを醸し出すことができているという印象だ。
ただ、すっきりしているのはいいのだが、すっきりし過ぎていて、見る人によっては逆に素っ気ないなという印象を抱くかも知れない。
レクサスという高級ブランドのイメージを保つためには、あまり下品なセールスワードをちりばめることは御法度だが、クルマ (しかも 1,000 万円を超える) のホームページにしては、エモーショナルな部分が少し足りないような印象を受けた。
クルマのような高級品を買う時の消費者の心理状態は、物欲と理性との間で葛藤したり、財布とにらめっこしながら思い悩んでいる人が多いはずである。そんな時に背中を一押しするような、エモーショナルなスパイスが利いていると、決断しやすくなるはずである。そのようなもう一押しがホームページ上でも表現されていると、さらに効果のあるホームページになるのではなかろうか。
もっとも、「1,000 万円の買い物に躊躇しない人がターゲットです。」ということであれば、これで正解なのかも知れないが・・・
【ゴールデンゾーンのフラッシュの使い方】
ホームページを表示して、スクロールしないで見える画面の上半分を、俗に「ゴールデンゾーン」と言う。このエリアに、一番訴えかけたいものを表示するのが、商用ホームページの鉄則である。
今回のホームページのケースでは、フラッシュの画面が表示されている。1枚目に「ヘッドライトのアップ」が表示され 2枚目に「背景のない全体像」が表示され「高級の本質を追求する、これからのプレミアム」というコピーが表示されている。
競合モデル(メルセデスベンツ S クラス、BMW7 シリーズ)のホームページと比較すると、フラッシュの画像も大きく、目を引く構成になっている。顧客へのインパクトという意味では評価できる。
メルセデスベンツSクラス
(http://www.mercedes-benz.co.jp/passenger/car_lineup/s-class/index.html)
BMW7シリーズ
(http://www.bmw.co.jp/jp/ja/index_highend.html)
しかし、現在のフラッシュでは「ハイブリッド」というこのクルマの最大のウリが表示されない点が気になる。レクサスのトップページ (http://lexus.jp/)
ではきちんと表示されているだけに、なぜ商品個別のページにないのかが、余計に気になった。
ゴールデンゾーンのセオリーとしては、やはり「ハイブリッド」というキーワードは表示させた方がよいだろう。
また、フラッシュの枚数ももう少し増やしてもいいと思う。
現在のフラッシュでは、特徴の一つである「LED ヘッドライト」だけをアピールしているが、これではもったいない。
「ハイブリッドシステム」「後席セパレートシート」などアピールポイントはたくさんあるのだから、枚数を増やしてそれらをアピールした方が、伝わりやすいと思う。
また、このクルマを所有する喜びやベネフィットのイメージ画像を加えてもよいのではないかと思う。常套手段ではあるが、これを入れるだけで、素っ気ないという印象はかなり払拭できると思う。
【「ハイブリッドシステム」をアピールできないジレンマ】
「ハイブリッドシステム」を前面に出せないのには、きっと 10 ・ 15 モード走行燃料消費率が 12.2km/l と、エコロジーを強調するには燃費が悪いと考えたからだろう。
世の中のイメージは「ハイブリッド=省燃費で環境に優しい」である。LS600h/LS600hL に搭載されたハイブリッドシステムは、環境にも配慮したパフォーマンス向上のためのものであるということを、どう説明するのか、きっとホームページ制作者は、この点で苦労したのではないかと思う。
だが顧客の立場から考えると、燃費そのものよりも「環境に気を使っているインテリジェンスなクルマに乗っている」というステータスが大事なのではないだろうか。
そう考えると、このクルマの個性をしっかりアピールするためにも、やはり「ハイブリッドシステム」や「環境」というキーワードは前面に出すべきなのではないだろうか。ちなみに Performance のページには、「高い環境性能」という言葉でしっかりとアピールされている。
もうちょっと前に・・・と個人的には思ってしまう。
Performanceのページ
(http://lexus.jp/models/ls600h/performance/index.html)
【「日本のレクサス」をアピールしてほしい】
LS600h/LS600hL に限った話ではないのだが、レクサスのトップページ
(http://lexus.jp/) から画面上方の車種の欄にポインタをもっていくと、車種の紹介画像とともに、車両本体価格が表示される。
これにより、高価格帯の高級車を扱うブランドであることをアピールできる。
また、競合他社のホームページでは車両本体価格がわかりにくく表示されているケースもあるなかで、消費者に必要な情報を明確に伝えている点は評価したい。
しかし、である。
敢えて言わせていただくが、これはちょっと「粋」じゃない。高級寿司店には価格表はない。値段を聞くと「野暮なやつ」と言われる。これが日本人 (江戸っ子だけかもしれないが) の根底に流れる「高級」という感覚ではないだろうか。
レクサスはアメリカ中心に育ったブランドであるが、出自は日本である。レクサスのホームページを見ていると、欧米ブランドの高級ブティックを日本人好みにアレンジしようとしている気がしてならない。
ちょっと醤油っぽい匂いがしても、日本人向けの粋な演出をすることが、結局は日本市場で高級ブランドを確立し、ライバルとの差別化にもつながっていくのではないだろうか。
つまり、銀座や祇園の風景に馴染むクルマ「日本のレクサス」でいいじゃないか、ということである。
初回からかなり辛口に書いてしまいましたが、レクサスにはぜひとも頑張っていただいて、ベンツ・ BMW の牙城を崩してほしいというエールの意味も込められています。
「ところでおめぇさん、車は何乗ってるんだい?」
「きまってんだろう、レクサスよ。」
「そりゃまた粋だねぇ」
お後がよろしいようで。
<プロフィール>
中小企業診断士。住商アビーム自動車総合研究所アドバイザー。(株)NTT-ATテクノコミュニケーションズでSEとして勤務後、経営コンサルタントとして独立開業。現在、中小企業向けホームページのコンサルティングを中心に活動。
<遠藤 康浩>