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脇道ナビ (4) 『冬物はいつ買うの?』
自動車業界を始め、複数の業界にわたり経験豊富なコンセプトデザイナーの岸田能和氏が、日常生活のトピックから商品企画のヒントを綴るコーナーです。
【筆者紹介】
コンセプト・デザイナー。1953年生まれ。多摩美大卒。カメラ、住宅メーカーを経て、1982年に自動車メーカーに入社。デザイン実務、部門戦略、商品企画などを担当。2001年に同社を希望退職。現在は複数の業界や職種の経験で得た発想や視点を生かし、メーカー各社のものづくりに黒子として関わっている。著書に「ものづくりのヒント」(かんき出版)がある
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第4回 『冬物はいつ買うの?』
最近は真冬でもコートを脱ぐと半そでの服を着ている人が多くなった。それでも、日本では四季がハッキリしているので、それぞれの四季に合わせた服がある。そんなシーズンものの衣料を扱うスーパー、デパート、専門店ではシーズンの半ばになると、次のシーズンの商品を並べ始める。例えば、年末商戦を終え、年が明けると早いお店では一月の後半には春ものが並び始める。そんな寒さが厳しいときに、店頭に並んだカラフルで軽快なファッションは待ち遠しいい春を感じさせてくれ、どこかキモチを暖かくしてくれる。同じように春の半ばになれば夏もの、夏の盛りには秋もの、秋風が冷たくなれば、冬ものが並ぶ。そんなシーズンを先取りした店頭の風景を見るのは楽しいと思っていた。
しかし、真冬のある日、普段は温厚な妻がプリプリしながら近所のスーパーから帰ってきた。寒さがぶり返してきたので、冬ものの衣料を買いに行ったが、売り場には春ものしか並んでなく、お目当ての商品がなかったという。いや、正確に言えば、全くなかったのではなく、少し小柄な妻に合うサイズが一切なかったのだ。それが、冬が終わる時期であれば仕方がないと思うが、スーパーの外に出れば、冷たい風が吹いている真冬だったから妻もキモチが収まらなかったようだ。
確かに、スーパーなどお店にしてみれば、「季節もの」の商売はたいへんだろう。冬ものであれば、少しでも暖かくなれば、お客さまは目もくれなくなり商売にならない。しかも、シーズンは蓋を開けてみるまで分からない。「冷夏」と予想されていたのが、「猛暑」となるようにだ。かといって、在庫にして来シーズンまで保管しておいても、流行遅れになるし、何しろ莫大な保管料が必要になるので、ヘタをすると赤字になってしまう。そのため、シーズンの早い段階で売り切ることばかりを考えるようになる。だからこそ、どの店も少しでも早くから売りたいと考え、それが季節を先取りした店頭の風景になっている。
そんな季節ものを扱うたいへんさは十分に理解できる。しかし、真冬に真夏用の衣料が欲しいといったことを言っているのではない。シーズンの中で、あるべきものが手に入らないのであれば、いかに値段が安かろうと、機能が優れていようが、デザインが美しかろうが、意味がない。これは、衣料に限らず、家電や食品などの「季節もの」も同じだ。それが、送り手に課せられた責任であるはずだ。
<岸田 能和>