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脇道ナビ (8) 『おばあちゃんのリモコン』
自動車業界を始め、複数の業界にわたり経験豊富なコンセプトデザイナーの岸田能和氏が、日常生活のトピックから商品企画のヒントを綴るコーナーです。
【筆者紹介】
コンセプト・デザイナー。1953年生まれ。多摩美大卒。カメラ、住宅メーカーを経て、1982年に自動車メーカーに入社。デザイン実務、部門戦略、商品企画などを担当。2001年に同社を希望退職。現在は複数の業界や職種の経験で得た発想や視点を生かし、メーカー各社のものづくりに黒子として関わっている。著書に「ものづくりのヒント」(かんき出版)がある
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第8回 『おばあちゃんのリモコン』
ある夜、夕食の時間になったので、おばあちゃんの部屋に行って声をかけた。
すると、おばあちゃんは見ていたテレビを消そうと、リモコンを手に取った。しかし、おばあちゃんが手にしたリモコンは照明器具用だった。テレビのリモコンは黒色、ボタンもたくさんついている。一方、照明器具のリモコンの色はクリーム色、ボタンの数も一つだ。それを見て、ついに、そのときが来たのかと、思った。そう、そんなにも違うリモコンの見分けがつかないというのは、「ボケ」が始まったに違いない、と。しかし、すぐに、おばあちゃんがボケてはいないと分かった。おばあちゃんは手を一杯に延ばして照明器具のリモコンをテレビ本体のスイッチに押し当て、テレビを消したからだ。妻にその話をすると、リモコンがないときはハサミやモノサシを使ってテレビのスイッチを操
作することもあるとのことだ。恐るべし、おばあちゃん。
我が家のおばあちゃんに限らず、子ども、初心者、あわて者・・・は、モノを設計したり、デザインしたりした人たちが思いもよらなかったような使い方をすることは多い。「想定外使用」というムツカシイ言葉もあるそうだ。私自身もアメリカ出張で泊まったモーテルで洗濯したパンツを部屋に備え付けの電子レンジで乾かしたことがあるが、これも想定外使用だろう。そのため、取り扱い説明書を見ると、「危険!」「警告!」「注意!」のマークと説明であふれかえっている。それでも、とんでもない使われ方によって、壊れたり、事故を起こしたりするケースは少なくないはずであり、設計者やデザイナーは常にハラハラ、ドキドキしているのではないだろうか?何かあれば、人を傷つけ、使う人、作った人の一生を大きく変える危険性もあるからだ。ただ、そのことで、開発者の視点が狭まったり、発想が後向きになったりしないように気をつけるべきだ。思いもよらなかった使い方には、多くのヒントがあるはずだからだ。あわてているとき、筋力がなくなったとき、面倒なとき、熟練していないとき、…そんなとき、人が自然にどんな行動をするかを教えてくれるからだ。商品企画や商品企画に携わる人は、そんな人の素直な姿やキモチを冷静に観察する眼や余裕をもつべきだと思う。
<岸田 能和>