脇道ナビ (14)  『ひねる』

自動車業界を始め、複数の業界にわたり経験豊富なコンセプトデザイナーの岸田能和氏が、日常生活のトピックから商品企画のヒントを綴るコーナーです。

【筆者紹介】
コンセプト・デザイナー。1953年生まれ。多摩美大卒。カメラ、住宅メーカーを経て、1982年に自動車メーカーに入社。デザイン実務、部門戦略、商品企画などを担当。2001年に同社を希望退職。現在は複数の業界や職種の経験で得た発想や視点を生かし、メーカー各社のものづくりに黒子として関わっている。著書に「ものづくりのヒント」(かんき出版)がある

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第14回 『ひねる』

子どもの頃に聞いた漫才の話だ。漫才師の一人が「今日は、英語の勉強をしよう。犬が寝るところだから『ケンネル』。それでは、水道の蛇口は何?」と聞く。すると、相方(あいかた)が「そりゃあ、カンタンだよ。『ヒネルトジャー』だろ。」と言う。最近は、オフィスビルや駅にある洗面所では蛇口の前に手を出すだけで水が出る「テヲダストジャー」が増えているので、この手のダジャレは使えなくなりつつある。

ところで、私は根が貧乏症なので、使い終わると、水道栓を力任せにひねってしまう。そのため、妻や娘たちに「”馬鹿力”のお父さんが使ったあとは、水道栓は開けづらい。」と評判が悪い。ただ、言い訳をすれば、水道栓のハンドルのカタチが良くないことも、開けづらくしている原因だと思っている。つまり、水道栓のハンドルが円筒形となっているために、石鹸などを手につけていると、力が入らず、実に開けにくい。ところどころに、申し訳程度の溝があって指がかかるようにはなっているが、あまり効果はない。

そんなことを考えながら、建物の歴史を紹介する写真集を見ていて気がついた。昔の水道栓のハンドルは真上から見ると、一文字型や十字型、あるいは少し時代が進むと三角形などのカタチになっている。そのため、しっかりとハンドルをつかんで、ひねることができる。そうしたハンドルがいつの頃からか、プラスチックでできた円筒形のハンドルに変わっていった。一昔前のハンドルは金属にピカピカのめっきが施されており、冬の朝に触るのは少し気が重い。その点、プラスチックであれば、冷たくはない。しかも、透明なものやカラフルな色使いもでき、洗面所を明るい雰囲気にすることに一役買ったことは認めるべきだろう。しかし、そうした効果を認めたとしても、水道の栓を開け閉めするという大切な機能が後退しているとしたら、問題のはずだ。

近頃は、一昔前の家具、家電製品、インテリアなどが若い人たちに人気があるという。その秘密の一つには、一目見ただけで、使い方や使い勝手が分かるような素直なデザインもあるようだ。たまには、そうした目で先人達のデザインしたモノを見てみるのも大事だ。

ところで、エッセイはネタにひねりがなければ、「ツマンナイ」と言われるし、ひねりすぎると「ワカンナイ」と言われてしまう。どうやら「ひねる」のはむつかしいようだ。

<岸田 能和>