脇道ナビ (15)  『ポーカーフェイス』

自動車業界を始め、複数の業界にわたり経験豊富なコンセプトデザイナーの岸田能和氏が、日常生活のトピックから商品企画のヒントを綴るコーナーです。

【筆者紹介】
コンセプト・デザイナー。1953年生まれ。多摩美大卒。カメラ、住宅メーカーを経て、1982年に自動車メーカーに入社。デザイン実務、部門戦略、商品企画などを担当。2001年に同社を希望退職。現在は複数の業界や職種の経験で得た発想や視点を生かし、メーカー各社のものづくりに黒子として関わっている。著書に「ものづくりのヒント」(かんき出版)がある

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第15回 『ポーカーフェイス』

アルバムを整理していたら、飛行機の中でブスっとした顔をして写っている私の写真があった。これは、行きたくもない海外出張に出かけた直後に機内で同僚が撮った写真だった。妻に言わせると、私は好き嫌いや機嫌がはっきりと顔に出るという。はなはだしいときは、相手に対して体が逃げているらしい。私自身はポーカーフェイスのクールな性格だと思っているので、納得がいかない。ただ、アルバムから出てきた写真を見る限りは、耳なし法市のように「行きたくない!」という文字で顔中が埋め尽くされたような顔をしていた。

商品企画やマーケティング企画などでは、よく「グループインタビュー」が行われる。これは、お互いに面識のない 5、6 人に集まってもらい、商品やサービスの狙いやデザインに対する意見を聞き、企画のヒントを探るものだ。当然ながら、ある人の発言に対し、引っ張られる付和雷同型の人、自分の意見を押し付ける独裁者型の人などいろいろな人がいるので、様々な意見をうまく引き出せるかは、司会者の腕にかかっている。そうしたやりとりは、メモをとる人やビデオカメラによって記録され、あとで、とんでもなく詳細な発言録が作られる。

こうしたインタビューが行われる部屋にはたいがい、特別な仕掛けがある。それは、壁面がマジックミラーとなっていることだ。そのため、鏡の裏側には、調査会社の人や企画の担当者たちが、ずらーっと並んで発言者たちを観察(?)している。これは、いくら詳細な発言記録やビデオがあっても、そこには限界があるからだ。つまり、誰かが発言すると、他の人は、「うんうん、そうそう!」とか「ちがうんだなー」などと反応し、微妙に表情が変わったり、腕を組んだり、前に乗り出すなど態度や仕草に声の記録には現れない変化があるからだ。よくあるのは場の雰囲気に流されて「そうですね」と同意しておきながら、気のない表情をしているケースなどもある。こうしたときは、本気で同意していないことが分かり、その人の発言記録を用心深く解釈すべきであることがわかる。反対にはっきりとした発言をしていなくても、目をキラキラさせながらうなずいている人は、強い興味を持っていることが分かり、あとで、その人の発言やプロフィールを分析してみると、発言内容の中にヒントが見つかることも多い。

データや資料はいろいろなことを教えてくれる。それは、詳細で膨大であればなおさらだ。しかし、それ以上に生身の人を注意深く観察していると、さらに多くのこと、違ったことを教えてくれる。

<岸田 能和>