脇道ナビ (18)  『迷い道案内』

自動車業界を始め、複数の業界にわたり経験豊富なコンセプトデザイナーの岸田能和氏が、日常生活のトピックから商品企画のヒントを綴るコーナーです。

【筆者紹介】
コンセプト・デザイナー。1953年生まれ。多摩美大卒。カメラ、住宅メーカーを経て、1982年に自動車メーカーに入社。デザイン実務、部門戦略、商品企画などを担当。2001年に同社を希望退職。現在は複数の業界や職種の経験で得た発想や視点を生かし、メーカー各社のものづくりに黒子として関わっている。著書に「ものづくりのヒント」(かんき出版)がある

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第18回 『迷い道案内』

小学生の頃、私の自慢は頭が大きかったことだ。帽子屋さんで、「坊ちゃん(私のこと)はずいぶんと頭が大きいんだねエ」と言われ、誉められたような気になっていた。取り柄のない私としては他の子どもより、大きいと言われたことがうれしかった。そのため、いくつか見せられた帽子の中から値段の高いほうを選んだ記憶がある。別に頭が大きいからと言って、頭が良いというわけでもないし、何の自慢にもならないことに気がついたのはずいぶんと大きくなってからのことだ。ただ、今でも顔だけは大きいので、交渉の時などは「押し」がきくので助かっている。

そんなサイズだけは大きいが、固い頭を持つ私がデザインや商品企画のような仕事をしてきたのだから、「これが私の手がけた商品だ」と自慢できるモノはない。逆にボツになったアイデアや企画は多い。たとえば、カーナビの企画で「迷ナビ」というアイデアを出したことがある。普通のナビは目的地に最短の時間や距離で行くことが出来るように案内してくれるが、「迷ナビ」はわざと間違えた経路や魅力的な寄り道に誘ってくれる迷品である。急ぐときは、ナビが教えてくれたルートの裏を読んで最短のルートを見つけ出す面白さがある。また、時間の余裕があるときは、ナビの指示に身を任せ、迷い道に入り込んでにっちもさっちもいかなくなることを楽しむこともできる。もしかすると、その日のうちに目的地につかないこともあるかも知れない。そんなナビがあっても良いじゃないかと主張したが、賛成してくれる人はいなかった。

同じように、「故障するクルマ」という企画を出したこともある。これまでは多くの人が、いかに故障しないかを考えてきたが、これは、その逆だ。コンピュータで故障することをプログラムしておき、それをどう乗り越えるかを楽しもうというものだ。たとえば、デートでドライブしていると、突然、エンコ(エンジンが止まることだが、今どきのクルマでは死語?)してしまう。そこで、カレシはボンネットを開け、いろいろと調整し、何とか動かす。そんなカレシを見つめている彼女は「スゴーイ!」とうっとり。

さすがに「迷ナビ」も「故障するクルマ」もボツだった。しかし、効率が良い、無駄がない、間違いがない、壊れないというのだけがスバラシイのだろうか。たまには目的地に着かずオロオロしながら、道端を歩いている見ず知らずの人に道を聞く。突然ボンネットから白い煙が出て、ハラハラしながらも、大汗を流して何とか乗り越えることもオモシロイ。そんな機械との付き合い方の中でこそ自分や周りにいる人たちを見つけることができるからだ。

<岸田 能和>