米カーマックス社(大規模中古車小売事業者)2005年2月期・・・」

◆米カーマックス社(大規模中古車小売事業者)2005年2月期の決算発表

全米 59 拠点における販売台数 27.4 万台(内、中古車小売25.3 万台)、
売上高 52.6 億ドル(5,628 億円)、当期利益1.13 億ドル(121 億円)

<2005年04月04日Automotive News記事>

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米オートモーティブニュース誌に、米国の大手中古車小売事業者であるカーマックス社の決算速報が開示されている。

総小売台数 273,804台(内、中古車 253,168台・新車 20,636台)は前年度比で 11.4 % 増で(前年度総小売台数は 245,740台。内、中古車 224,099台・新車 21,641台)、中古車小売台数は 13.0 %増。

業績面では、第一四半期の売上減少が響いたことから通年での当期純利益が若干の減少(▲3.0%) を見せたものの、売上高は顕著な伸びを示しており(+14.4%)、第四四半期における当期利益の前年同期比の伸びは +31.8 % となっている。

【米カーマックス社(CarMax Inc.)とは】

カーマックス社は 1993年 9月に家電量販店の Circuit City の子会社として設立された中古車小売事業者で、平均 7 万 m2、最大 14 万 m2 (因みに東京ドームは約 4.7 万 m2)という広大な店舗を全米に 59 箇所抱え、拠点当り 300~ 400台の中古車を並べてワンプライスで販売している。同社は規模の経済を追求しながら価格の透明性を高めることで消費者の信用を獲得しつつあり、同株式はニューヨーク証券取引所(NYSE) へ上場している。

【企業規模のイメージ・ケーユーとの比較】

カーマックス社の企業規模をイメージする際の手法として適切なのは、日本の中古車専業者と比較することであろうとの考えの元、ケーユーとの比較を米ドル 107 円換算で行ってみた。

.             カーマックス  ケーユー
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販売台数        273,804     22,021
中古車小売    253,168     19,164
新車小売       20,636      2,857
拠点数           68         30
中古車販売拠点  59         18
新車販売拠点    9         12
拠点当り販売台数     4,027       734
中古車小売      4,291      1,065
新車小売        2,293       238
拠点当り面積(平均)   70,000m2    3,140m2

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売上高(百万円)     562,848     35,817
中古車売上高   427,702     20,373
新車売上高    52,650     10,075
卸売車売上高   63,098
その他売上高   19,398     5,369
売上原価        493,277     28,878
売上総利益       69,571     6,939
営業利益        19,744     1,886
当期利益        12,083     1,058

カーマックス社は販売台数、売上規模、営業利益レベルなどでケーユーの約10~ 12 倍程度の企業でありながら、拠点数は僅か 2.3 倍に抑えており、拠点当りのパフォーマンスが高いことが分かる。因みにケーユーの町田にある最大の本社営業所が 12.5 千 m2 に対して、カーマックスは前述の通り 140 千 m2と 10 倍以上の規模(平均拠点当り面積で比較すると、実に 22 倍)となっていることからも、拠点当りの規模の差が大きいことが分かる。

.           カーマックス  ケーユー
.            (百万円)   (百万円)
.            ————  ———
流動資産        92,550     14,220
現預金      3,114      882
売掛金      8,150      1,200
オートローン債権 18,202     7,160
在庫       61,693     4,210
その他      1,392      768
固定資産        45,802     12,646
土地・建物    43,474     9,945
その他      2,328      2,701
総資産         138,352     26,866

一方、バランスシート全体の大きさで言うと、カーマックスはケーユーの僅か 5 倍の規模。これは土地価格がそもそも安いことと、カーマックスがセールス&リースバックを積極的に活用していることによる。

こうしたセールス&リースバックに類似した手法として不動産投資信託(REIT)という手法も米国では発達している。

例えば Capital Automotive 社という会社は、全米 313 の自動車小売拠点(不動産)に 17 億ドルを投資しており、保有資産は全米 30 州にまたがり、43のブランドをおよそ 436 のフランチャイズでオペレーションしている。(同社ホームページより。)仕組みの概要は簡単で、既存のディーラーオーナーから土地建物を買い上げ、同時に同ディーラーに同じ土地建物を貸し付ける。買い上げのキャッシュは信託を通じて一般の投資家から徴収。投資家は賃料を裏づけにした証券を購入。ディーラーから見ると、自社の土地建物を流動化し相対的に低い割引率で現金化しながら(即ち有利子負債の返済に充てられる)オペレーションが可能。

また、リスクマネーは市場を通じて一般の投資家が供給してくれる為、不動産相場やディーラーオペレーション巧緻による業績変動に基づく賃料不払いリスクも、結果的には薄く広く投資家にダイルートされる。

【日米中古車市場の概況】

米国の中古車市場は、日本に増して巨大であり、年間販売台数は約 44 百万台(日本の中古車新規+移転+名義変更を経た登録台数は年間 8.2 百万台・乗用車のみの小売台数は一説では 3 百万台とも 4 百万台とも言う)。市場規模は 3,660 億ドル(39 兆円)と米国最大の小売セグメントとなっている。

新車販売台数に対して中古車販売台数が何倍か、という新中比率で見ると米国は 2.6 倍(新車販売台数は 17 百万台規模)。日本の場合、同新中比率は中古車登録台数をベースにしても 1.4 倍、軽自動車を含む乗用車の新車販売台数 4.5 百万台に対して中古車小売の実需を 4 百万台と仮定したとすると、同比率は 1 を切るレベルとなることから、今後も中古車市場の増加の余地があると見られているのは周知の事実である(但し、日本の場合自動車を単なる移動手段の汎用品として購入するケースは依然少ないこと、継続的な移民の流入や健全な人口ピラミッドが形成されている米国と比して、中低所得層の増加が見込まれないこと、中古車輸出が年間 90 万台に迫る勢いで、国内ストックの国内におけるフローとしての回転ではなく海外への流出が顕著であることなどを考慮すると、現在の 1 を切るレベルは妥当ではないものの必ずしも米国と同比率が妥当であるとは考えない。

【日米の中古車業界再編度】

米国には独立系ディーラー(専業店)が 5.4 万社、新車ディーラーは 2.2 万社存在する。

一方日本の中古車業界における特に小売領域を俯瞰すると、JU (日本中古車販売協会連合会)加盟事業者数で 1.1 万社、その他事業者も含めると 2 万社とも言われ、新車ディーラーは全国 3,000 社、3.5 万拠点に上るとされる。

即ち、日米共に中古車小売業界の市場規模は巨大でありながら、参画プレーヤー数も膨大であり、業界企業数の再編は進んでいるとは言えない。

このような状況下、カーマックス社の中古車販売台数は全米新車ディーラーも含めた全事業者中、オートネーション社に次いで業界第 2 位となっており、2000年に 11.1 万台、2001年に 13.3 万台、2002年に 16.4 万台、2003年に 19万台、2004年に 22.4 万台、2005年は前述通り 25.3 万台と、 5年で台数を倍増させる成長を遂げている。

【カーマックス社に対する株式市場の評価】

カーマックス社の成長に、現時点で米国の株式市場はプレミアムの評価を与えている。以下、各種指標をケーユーと比較してみよう。

カーマックス    ケーユー
時価総額     3,157億円   157億円
PBR*        3.7 倍       0.66倍
PER**      26.5 倍      13.4倍

*純資産倍率:時価総額÷簿価純資産
**株価収益率:株価÷一株当り利益

これは、同社がここ数年中古車販売台数を大幅に増加してきたことに加え、中古車市場に更なる再編の余地があることに対する株式市場の期待値と言えよう。

【日本で同様の期待を高めながら、大規模中古車小売事業を営むには】

それでは、日本で大規模中古車小売事業を営みながら積極的な成長を実現するにはどうしたら良いだろうか?

当然、米国並みの広大な土地の確保はコスト面のみならずスペースそのものの物理的な確保という面からも難しいことから、新規に起業する新興企業が新たに土地を確保する方法よりも、既存の土地・建物を活用する形での事業者同士の再編ということに先ずは注目が集まるであろう。

こうした連合体の形成の過程で、店舗ブランドの統一化と商品選択の幅拡大、更には高品質車両の選別といったカーマックス方式の定石を着実に展開しながら、必要に応じて、重たい不動産の証券化や在庫のオフバランス実現といった代替金融手法も検討していくことで、日本でも自動車流通・中古車流通の革新が実現されていくのではないか。

そして、その結果として株式市場での評価も期待出来るはずである。

<長谷川 博史>