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新・業界ニュース温故知新 『新たな超低コスト車(ULCC)の脅威』
過去の自動車業界のニュースを振り返り、新たな気づきの機会として紹介していたこのコーナーですが、新たな形態にリニューアルします。
過去の記事で取り上げた内容を振り返り、現在の自動車業界と照らし合わせ新たな視点で見直していきます。
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『新たな超低コスト車(ULCC)の脅威』
【参照記事】
『超低コスト車(ULCC)がもたらす構造変革への備え』
◆Cheap thrills: Parts for low-cost cars
B 級ホラー「低コスト車用部品」
<Automotive News Europe 2007年09月17日号掲載記事>
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【参照記事の概要】
2000年代半ばぐらいから、グローバル展開を進める先進国自動車メーカーにとって、低コスト車(LCC)や超低コスト車(ULCC)に対してどう取り組むべきか、ということが最も重要なテーマの一つとなってきた。特に、今後販売台数拡大が期待される新興国市場でのシェア拡大を目指すためには、低価格モデルの投入が不可欠である。
かつて、低価格を武器にグローバル市場に参入した日本車が高品質・高価格路線に移行し、現在では韓国製や新興国製が低価格を武器に市場を席巻しつつある。いわゆる「小売の輪」が一巡した状態とも言える。
先進国メーカー各社も、20 万円台というタタのナノはともかく、最低限の環境・安全性能を有した 5 千米ドルを超えるレベルの価格帯の車両を投入せざるを得ないであろう。こうしたレベルの ULCC が普及拡大することで、自動車業界全体にも以下のような影響を及ぼす可能性がある。
・小型車メーカーにとっての戦略岐路(撤退か大幅な戦略変更か?)
・ファブレス自動車メーカーの登場
・メガサプライヤとティア1神話の復活
・自動車メーカーとサプライヤの力学の逆転
・半導体・素材メーカーの新規参入機会
・すり合わせ型ものづくりの相対化
こうした状態が生まれることも想定し、コスト削減や高価格領域へのシフト等、戦略の方向性を定めて取り組むことが重要である。
【各社のULCCへの取り組み】
低価格車という概念自体は目新しいものではない。グローバル展開を進める先進国自動車メーカーの取り組みとして注目を集めたのは、2004年のルノー「ロガン」の登場からであろう。ルノーは、旧ルーマニア国営工場の生産設備、既存車種のプラットフォーム、東欧の安い人件費により、低コストを実現した。
一方、中国、インドを中心とした新興国市場が急速に拡大する中で、その中心を占める「初めてクルマを購入する顧客層」への対応が不可欠となってきていた。これらの市場でのエントリーカーは、地場系メーカーが担ってきていたが、こうした地場系メーカーも着実に力をつけてきた。先進国自動車メーカーも、グローバル市場で投入してきた既存モデルだけではなく、新興国市場でのエントリーカーとなる低価格車を投入していくことが求められた。
こうした中、20 万円台というタタの「ナノ」のようなモデルも登場したが、主戦場としては、50~ 100 万円、特に 70 万円前後ぐらいが一つの目安となってきている。GM、VW、現代等、欧州勢や韓国勢が投入して市場シェアを確保してきたが、日系メーカーは対応が遅れ気味であった。
ここにきて、日系メーカーも取り組みを本格化させてきた。トヨタ、ホンダは新興国市場向け専用車種の投入という戦略を取った。トヨタは昨年 12月にインドで「エティオス」(約 90 万円~)を発売した。ホンダも今年中に専用車種を発売するという。一方、日産は、昨年、新型「マーチ」の生産をタイに移管し、日本に逆輸入するという戦略を取った。タイの税制優遇も得ながら、先進国向け小型車と新興国向け低価格車の両立を狙っている。「マーチ」はインドでも生産・販売(「マイクラ」約 80 万円~)している。
今後も、新興国市場でのこのセグメントでの競争が、グローバル規模でのシェアにも大きく影響を及ぼすと考えられる。
【新たなULCCの脅威】
タタの「ナノ」が発表されてから、様々な意見や憶測も飛び交ったが、こうしたものの中には、自動車業界に劇的な変化が起こるといったことに関する意見も少なくなかった。ここにきて、改めて振り返ると、「新興国市場の急拡大」と「電気自動車の登場」という二つの要素が重なるところで、業界構造の変化が始まりつつあるように思える。
前述の通り、新興国市場において低価格車の車種は増加しており、競争は厳しくなってきているが、タタのナノのように 20 万円台のクルマが次々に投入されるという事態には至っていない。一方で、電気自動車が登場して市場を賑わせているが、主要自動車メーカーが投入している電気自動車はまだまだ高額だし、台数も限定的である。
しかしながら、新興国市場において、低価格の小型電気自動車、いわゆる LEV(Light EV)に取り組むメーカーが増え始めている。機能・性能で比較すれば主要自動車メーカーに及ぶものではないが、その市場で必要最低限の機能・性能を満たす新たな乗り物と考えた方が良いかもしれない。こうしたメーカーの中には、ファブレス生産のような形態を考えている会社もある。この新たな領域がどこまで市場に広がるかによっては、自動車業界全体に与える影響も拡大する可能性がある。こうした動向を考えると、数年後の ULCC としての最大の脅威は、ガソリン車ではなく LEV に思えてくる。
各国政府による環境技術に対する手厚い施策が継続する中、こうした流れは予想以上に加速するかもしれない。改めて、次の一手を考える必要があろう。
<本條 聡>