縮小均衡だけではなく、ビジネスモデルの変革も進める

◆自工会の志賀会長 (日産・ COO)、国内市場「底打ちしたというのにはまだ早い」

「もう少し行方を見守る必要はあるが、底打ちの兆しが出てきている」、「エコカー減税の終了をとらえて、自動車税の軽減や簡素化などについてしっかりと政府に対して要望していきたい」との考えを示した。

<2011年02月08日号掲載記事>

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【直近の国内市場動向】

かねてから懸念されていたように、国内の新車販売台数が、エコカー補助金終了の反動により、大幅に減少している。

前年同月比で、10年 10月は▲27 %、10年 11月は▲31 %、10年 12月は▲28%、11年 1月は ▲21 %という状況である。

エコカー補助金が終了した直後に比べ、減少の幅は縮小傾向に見られる。しかし、今年は、後半にトヨタからコンパクト HV 専用車の発売など予定されているものの、市場全体に大きなインパクトを与えそうなニューモデルの発売やフルモデルチェンジも少なく、冒頭のニュースにあるように「もう少し行方を見守る必要がある」だろう。

ちなみに、日本より一足早く、スクラップインセンティブが終了したドイツでは、10年 2月~ 7月までの半年間は前年同月比で▲30 %程度の水準が続いた後で、10年 12月には前年同月比を上回る水準に回復している。

【進む販売会社の再編とビジネスモデルの変革】

国内市場は、エコカー補助金終了の反動だけでなく、人口減少やクルマ離れといった構造的な問題を抱えており、ドイツと同じように回復していくとは限らない。寧ろ、中長期的に見れば、国内新車販売台数は減少していくと見る業界関係者の方も多いのではないだろうか。

そうした事態に対応していくため、弊社でも取材対応した 2月 28日発刊の日経ビジネスにあるように、自動車メーカーと販売会社が共同して再編を進めている。

実際に、自販連の統計によれば、販売会社の数は 05年 1,580 社から 09年には 1,355 社と 15 %減少、販売拠点の数も 05年 16,605 拠点から 09年 15,587拠点と 7 %減少している。

また上記のような、いわゆる縮小均衡を進めるだけでなく、販売会社のビジネスモデルの変革も進んでいる。例えば、新車販売ビジネスに頼らない収益構造をどれだけ確立しているかを示す固定費カバー率((車検・点検整備や中古車販売など新車販売以外のビジネス収益)÷(施設費や人件費など固定費))は乗用車店平均で、00年の 66 %から 09年には 80 %に上昇している。

ただ、ビジネスモデルの変革は、販売会社レベルでの変革だけでなく、販売網・販売チャネルのレベルでも変革をしていく余地があるのではないだろうか。

【家電業界の販売チャネル】

異業種ではあるが家電業界を例に考えていきたい。かつて、家電業界の主な販売チャネルは、いわゆる系列販売店、町の電気屋さんであった。最盛期の 1970年代にはパナソニックの系列販売店だけでも 2.7 万店に達した。

しかし、90年代に入り大型量販店の台頭などにより、系列販売店の数は減少していく。現在、パナソニックの系列販売店は 1.8 万店と最盛期の 70 %程度の規模となった。

そうした環境の下で、パナソニック系列販売店の約 1/3 が、収益を伸ばしているという。収益を伸ばしている系列販売店の中には、大型量販店の約 2 倍に相当する粗利率 40 %を確保している店もあるという。

仕入れ値は大型量販店の方が安価であろうから、系列販売店は、大型量販店よりも高い価格で販売できていることになる。顧客が高い販売価格でも納得し購入する理由は、付帯サービスにあるようだ。

例えば、購入時には取り付け作業に加え周辺の清掃も行う、購入から 1 週間後・ 1年後・そしてメーカー保証が切れる直前に不具合がないか点検に訪れる、「パソコンにソフトをインストールしてほしい」などの要望があれば駆けつける、時には「牛乳を買ってきて欲しい」、「怪我をしてしまったから代わりに料理をして欲しい」などにも応じるという。

つまり、家電業界は、販売している商品は同じであるが、低価格志向の大型量販店とサービスにおける高付加価値志向の系列販売店の二つのチャネルが存在している(他にネットやテレビ通販などバーチャルなチャネルもある)。

【自動車業界の販売チャネル】

一方、自動車業界では、過去、商品をベースにチャネルを分けてきた。しかし、現在は、トヨタ以外は基本的に全車種併売となったし、トヨタも「プリウス」は 4 チャネルで併売している。

また、今後、トヨタがダイハツから OEM 供給を受けて軽自動車を販売することや、日産が「フーガ」を三菱に OEM 供給することなどを考えると、異なるメーカー間・ブランド間であったとしても、商品で差別化できる要素が少なくなっていくかもしれない。また、顧客の側も、クルマは単なる移動手段という価値観が広まり、商品に拘らない層が拡大していくかもしれない。

そうした中で、家電業界に見るような価格やサービスによりチャネルを分けていくことも検討する余地があるのではないだろうか。

例えば、低価格志向のチャネルの構築にあたっては、複数ブランドを取り扱うオートモールなど規模を拡大することによる合理化や、逆に、店舗設備や人員数を最小限に留めたり、対象とするビジネスを新車販売に特化したり、規模を縮小しコスト削減を進めていくことなどが考えられる。

また、サービスにおける高付加価値志向のチャネルの構築にあたっては、レクサスで見られるように店舗設備や人員の「おもてなし」度を高めることや、業界内で非効率と言われる訪問型のスタイルをあえて進めることなどが考えられる。

【販売店の役割の再定義】

販売網・販売チャネルを変革していくのは自動車メーカーが主体となるであろう。しかし、既存の販売会社との兼ね合いもあるから、一度、築いた販売網・販売チャネルを変えていくことは容易ではない。

ただ、販社や販売拠点を再編していくだけではなく、差別化の重点を商品から価格やサービスに変えた新たなチャネルを構築することで、国内市場で勝ち残っていく方策もあるのではないだろうか。

そのためには、まず、新車販売や、中古車販売、車検・点検整備といった各ビジネスの切り口や、都会や地方といったエリアの切り口などから、将来の販売店の役割を再定義し、販売店を取り纏めるチャネルの在り方を構想することが重要と考える。

<宝来(加藤) 啓>