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復興に向けて
◆震災の日本経済への被害、最大16兆円。民間シンクタンク・証券5社が試算
阪神大震災(兵庫県集計で約9.9兆円)を大幅に上回り、計画停電が夏場まで長期化すればさらに拡大する見通し。世界銀行は被害額19兆円と推計。
<2011年03月21日号掲載記事>
◆自動車メーカー、生産活動の休止を延長
自動車メーカー各社は、東日本大地震による複合的な状況を加味し、生産活動の停止期間の延長を決定している。ホンダは、今回の震災に対する社会全体の復旧へ向けた取り組みや取引先からの部品供給の現状を考慮し、埼玉製作所 狭山工場(埼玉県狭山市)、鈴鹿 … <2011年03月23日号掲載記事>
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【東日本大震災で被災された皆様へ】
まず、この度の東日本大震災により被災された皆様に、謹んでお見舞いを申し上げたい。観測史上最大級の地震、想定外の大津波に加え、予断を許さない原発事故状況と長期化する電力供給不足問題。その壊滅的な状況はご承知の通りである。そして、今尚、被災地の皆様のご辛労は、筆舌に尽くしがたいものがあることも言うまでもない。被災地の皆様が、一日も早く現状復帰できることを心から願っている。
経済界、そして自動車業界も大きな打撃を受けている。こうした中、自動車業界各社は、自社の被災状況を確認した上で、大量の電力消費を伴う自社の生産体制復旧よりも、まず、義捐金の拠出や車両提供等の被災地への救援活動に取り組んできた。自動車業界に限らず、日本経済に携わる全ての企業が、今、日本の復興という同じ方向に向かって、自らが考える貢献に取り組んでいる。
【自動車業界への影響】
ご承知の通り、国内自動車産業は、事実上、活動停止状態にある。
自動車メーカー各社は、生産停止状態にあり、本格的な再開の目途は立っていない。トヨタのプリウス派生車やホンダのフィット派生車など、今月予定されていた新車発売も延期となった。被災して生産停止しているサプライヤや材料メーカーの工場・事業所は数百ヶ所とも言われており、国内生産だけでなく、海外工場での生産や海外メーカーの生産にも影響を及ぼし始めている。特に電子部品等の供給については、海外メーカーにも広く影響を及ぼす見込みである。被害状況が軽微であった工場、事業所でも、電力・ガソリン不足の影響で稼働できないところも少なくない。被災地域での自動車販売・流通体制については、言うまでもない状況にある。
自動車の生産面で考えれば、既に約半月の生産停止状況にあるが、今後復旧が進むとしても、二つの問題からフル稼働は難しいと考えられる。
一つはサプライヤ・原材料メーカーの被災状況である。ご承知の通り、自動車の生産は多数のサプライヤが生産する部品・材料の供給があって成り立っているが、今回の震災に伴い、数百カ所のサプライヤの工場・事業所が被災しているという。中には代替が困難な部品も多数あるとみられ、被災地域に限らず、日本全国の自動車生産に影響を及ぼしており、今後海外生産工場や海外メーカーにも影響が及ぶとみられている。
もう一つは、長期化が免れなくなってきた電力供給不足問題である。この問題は、自動車業界に限らず、日本経済そのものにも大きな打撃を与えることは間違いない。日本の実質 GDP のうち、被害が深刻な岩手、宮城、福島の三県が占める割合は 4 %程度、首都圏を中心とした東京電力管轄エリアが占める割合は約 4 割に相当すると言われている。現在、東京電力管轄エリアでの電力供給は 38 百万 kW まで回復してきているが、60 百万 kW を超えるという夏場のピーク需要に対応することは不可能な状況にあり、仮に 45 百万 kW まで確保できたとしても、1/4 程度の節電を強いられることとなり、工場操業においてもその影響は避けられないであろう。こうした電力問題の影響から、実質 GDP が 10~ 20 %程度下落するとみるアナリストも多い。
国内生産台数を年間 10 百万台、月間 80 万台と考えると、半月経った現時点で、既に約 40 万台分の生産が停止している状態にある。被災したサプライヤの復興状況や電力供給不足問題、海外工場への影響も考えれば、問題の長期化は避けられず、生産台数の下落は数百万台規模となる可能性も高い。
【復興に向けて】
こうした状況の中、日本、そして世界の多くの方々が、日本の復興支援に動き始めている。
自動車業界においても、自動車工業会メンバー各社が連携してサプライヤ復興支援に取り組み始めている。こうした状況だからこそ、各社が一丸となってサプライヤの早期稼働に取り組むことが、生産台数回復に向けての最重要課題であることは間違いない。
ご記憶の方も多いと思うが、2007年 7月 16日に起こった新潟県中越沖地震の時にも、自動車業界が一つになって、被災したリケンの柏崎工場復旧に取り組んだ。国内のピストンリングの 5 割のシェアを誇るリケンの主力工場が被災したことで、国内の全自動車メーカーが生産停止を余儀なくされた。自動車メーカー各社は、数百人単位の人員を新潟に派遣し、現場の方々や機械メーカー、その他サプライヤと連携して、この工場の復旧のために一丸となって取り組んだ。その結果、翌週の 7月 23日には生産再開、更にその翌週には全生産ラインが復旧した。その後、休日返上でフル生産を続け、9月には自動車メーカーの生産も以前同様に回復できたという。
被害総額 20 兆円とも 30 兆円ともいわれる過去に類をみない今回の惨状を鑑みれば、本格的な回復に至るまでの道のりが長く険しいことは誰もが想像するところであろう。自動車業界においても、リケンのような被災状況が、数百カ所で同時に起こっているようなものであろう。中には、リケン以上に大きな被害を受けている工場もあるはずである。被災したサプライヤが全て復興するには、1、2年では済まないかもしれない。これが複数の産業で起こっているのが現状である。
だからこそ、一歩ずつ、各社が力を合わせて進むことが重要であろう。そして、サプライヤの工場復旧だけでなく、インフラも含めた地域復興そのものにも貢献が求められよう。戦後の復興から始まり、これまでも幾度となく困難な壁を乗り越えてきたこの国は、必ず復興できると信じている。当社としても、微力ながら、復興に向けて立ちあがる業界関係各社に貢献したい。
<本條 聡>