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中国で輸入車価格引下げ、価格競争により2006年には国産…
◆中国で輸入車価格引下げ、価格競争により2006年には国産車の活況が終焉か中国輸入自動車貿易センターによれば中国の乗用車価格は今後数年間毎年10%ずつ低下するという見通し。
<2004年3月29日号掲載記事>
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今後数年間、乗用車価格が年率10%ずつ低下するという同センターの潘祖順・総経理の見通しは、こぞって中国進出、現地生産を検討している
日本の自動車業界にとって未曾有の事業環境を生じ、事業計画の根本的な見直しを必要とする可能性がある。そのような事態が本当に起きるのかどうか、今後業界各社とともに注視するとともに、一緒に対策を検討していきたいテーマである。
おそらく日本の自動車産業の歴史の中で、現地事業開始後に販売価格がこれ程までに低下することを前提にして現地生産に踏み切った事例はまずないのではないかと思われる。
半導体や家電などの他産業等と異なり、自動車産業では生産を始めた後に価格急落を経験したことはない。北米・欧州での現地生産にしろ、途上国での組立事業にしろ、事業開始後数年間の販売価格は維持または緩やかな上昇を前提に事業計画が組まれていた。
現地生産開始後に価格が暴落することが予想されているのであれば、現地生産自体を見合わせ、完成車輸出で対応してきたはずである。
中国輸入自動車貿易センターの潘総経理の言う「今後数年間」が、いつまでを指すのか明らかにされていないが、4年後に迫った北京五輪、6年後に行われる上海万博までを当面一つの区切りと考えるのが中国ビジネスに関わる人たちの共通した認識だろうと思われる。
そこで仮に2010年上海万博まで年率10%ずつ価格が下がるとしたら、昨年300万円で販売されていた乗用車は北京五輪の年には約6割の177万円、上海万博の年には半分以下の143万円で販売されていることになる。(そんなことは起こりえないという予想屋的な議論はこの際横に置こう。)
次のように考える人も多いのではないか。
「販売価格が年率10%ずつ下がるのであれば、コストも10%ずつ下げていけば単位利益は減らない。寧ろ、価格が下がった分だけ販売台数が伸びるはずだから面積では大幅に利益総額が増えるはずだ。だから中国生産への投資計画には何の問題もない。」と。
だが、ことはそう単純ではない。
グローバルにマーケットシェア5%を必ず取れる自動車メーカーA社を想定する。A社は2003年も中国乗用車市場200万台の5%に当たる10万台を平均販売価格300万円、限界利益率50%、即ち一台あたりの変動費150万円、限界利益1500億円、固定費1000億円で生産販売して、営業利益総額500億円を得ていたと仮定する。
簡便化のため、この固定費は2010年まで不変と置くことにしよう。
上記のとおり年率10%ずつ下がると2010年の販売価格は143万円となる。一方、これに合わせて変動費も年率10%ずつ切り詰めると、2010年の変動費は台あたり72万円となり、確かに限界利益率50%は維持される。
しかし、限界利益を率ではなく額で見るとどうか。台あたり72万円と半分以下に減少してしまっている。限界利益率が0%でない限り、台あたりの限界利益の減少は避けらないのだ。
では、台あたりではなく面積で2003年の限界利益総額1500億円(従って営業利益500億円も)を2010年にも維持しているためにはその時点で何台を生産販売していればよいのか。2倍強の21万台である。 A社のシェアは5%であるから2010年の中国乗用車市場が418万台以上、全需は大体それに商用車200万台を加えたものとして618万台以上になっていればA社の営業利益は2003年並を維持できる。
本田技研の宗国会長によると、今年の中国全需は450-500万台、2008年には600万台で日本に並ぶということだから、2010年に618万台はありえない数字ではないということになる。
従って、「利益総額が大幅に増える」という見通しは楽観的過ぎるとはいえ、横這い程度の見通しは可能ということになる。
しかし、そこには少なくとも3つ現実面で落とし穴がある。
第一に、年率10%の販売価格低下が各車種に均等に起きると考えることの現実性。第二に、変動費を販売価格低下と同率で切り下げる前提の現実性。第三に、固定費を据え置いて考えることの現実性である。
第一の問題についてだが、昨年市場全体の販売価格が300万円だったものが今年270万円に下がるというとき、旧式化したモデルも今年投入された最新型も同じく270万円ということは考えにくいのではないか。 A社の競合B社がA社と同等の新製品を280万円で投入するのに対してA社は260万円で対抗せざるを得ない、という形で市場平均価格270万円
が形成されるというのが自然な形ではないだろうか。
だとすると、A社の販売価格の低下率は年率10%ではすまなくなる。上記のケースでは13%低下しており、その場合は2010年にA社が2003年並みの営業利益を維持するために必要な販売台数は39万台。中国の乗用車市場781万台、全需981万台が実現されていなければならない。 その数字の現実性を本田技研宗国会長の予測と比較して判断する必要
がある。
第二の問題についてだが、変動費とは直接労務費、直接材料費、製造経費から成る。中国の発展自身が招いている素材やエネルギーの高騰を考えると、その中国の発展の区切りである2010年までにそれらの市況には下方硬直性があると見るのが普通だ。少なくとも経営努力の及ばない部分が大きい。労務費も品質・納期・生産性を向上させながら継続的に内陸の低賃金労働力への切り替えを進める必要がある。簡単ではない。
仮に変動費の削減が年率5%にとどまった場合に、2010年にA社が2003年並みの営業利益達成に必要な販売台数は38.7万台、中国乗用車市場は774万台、全需は974万台に達していることが条件になる。
因みに変動費の削減が全くできなかった場合、2010年には限界利益段階で赤字に転落することになり、市場規模に拘らず事業継続は困難に陥ることになる。
第三の問題についてだが、そもそも生産販売台数を2倍以上(上記のように利益維持のためや市場が予想以上に拡大した場合はそれ以上)に生産能力をあげていかなければならないときに設備投資は必要ないのか、競争が激化するときに広告宣伝費やディーラー開発費やインセンティブは据え置きでいいのかという問題が残る。
仮に2010年時点では2003年の1.5倍の1500億円が必要だとすると、営業利益500億円を維持するために必要な販売台数は28万台、乗用車市場558万台、全需758万台が求められる。
乗用車市場の販売価格が本当に年率10%ずつ下がっていくとしたら、以上のとおり相当に楽観的な市場成長の見通しに立った上で、かなり意欲的なマーケティング諸施策とコスト削減、生産性改善・合理化を迅速に徹底的に進めていかなければならない。
各社の中国事業担当者にとっては本当に胃の痛くなるような状況が上海万博までずっと続くということになる。
これらの問題点を踏まえて具体的にはどのように対応していけばいいのかという点については紙面が足りないので十分に書けないが、脅すだけで何も触れないのでは申し訳ないなのでいくつかヒントを提示したい。
一つは、能力増強や新型車投入が必要になったときでも極力新たな設備投資なしに作れる柔軟で汎用性の高い生産設備と工程設計で、固定費の上昇を抑えることである。
二つ目は、そのような生産システムを活用して非価格的要素で売ることのできる新型車を次々に投入するとともに、チャネルやブランドを鍛えて販売価格の下落から少しでも逃れることである。(新型車は同じ生産設備や部品を活用しながら市場に十分な新奇
性を感じさせる派生車の投入ができれば最高である。)
三つ目は、サプライヤーとともに素材や資源の入手可能性を考慮した立地や物流を検討し、一緒に国産部品開発を行って変動費の削減を進めることである。
最後に、新車だけでは収益性のピークアウトは避けがたい。部品・用品や中古車・サービス・金融・保険・物流などを含めたバリューチェーン全体での収益拡大に目を向けることが必要である。
<加藤 真一>