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米 Chrysler グループ、一部サプライヤーを開発初期段階か…
◆米 Chrysler グループ、一部サプライヤーを開発初期段階から参画させるパイロット・プログラムを始動
<Automotive News 2005年1月24日号掲載記事>
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Chrysler グループは、入札プロセス自体は残すものの、Johnson Controls、Intier、Dana 等、一部のサプライヤーをいわば「シード選手」として入札プロセスを迂回させ、製品開発の初期段階から参画させる方式を試験的に導入することとした、というのが今回の記事である。
【サプライヤー・リレーションズ改善の動き】
昨今、ビッグ 3 はサプライヤー・リレーションズ(普遍的な用語ではないが文中繰り返し出てくるので SR と呼ぶことにする。)の改善に躍起だと言う。
GM が開いたサプライヤーズ・ミーティングは昨年だけで 8 回にのぼり、そこで GM の戦略やプランをサプライヤーに説明し、理解を求めている。
Ford もグローバル購買副社長自らがサプライヤーを訪ねて回っているし、DaimlerChrysler は 240 に及ぶ「コンポーネント・ボード」を設立して、部品の価格と品質に関する相互理解を深めようとしてきた。
裏を返せばそれだけビッグ 3 の SR が険悪化していることの現われで、実際、どのサーベイ結果を見ても、ビッグ 3 はサプライヤーからの評判が悪い。批判されているのは主に次のような点である。
●製品開発計画が固まっても、どのサプライヤーをセレクトするかはなかなか決定されず、サプライヤー側での開発や生産準備が遅れる一方である。
●サプライヤー決定が遅れる理由は、入札に時間を費やすためで、しかも入札の焦点において機能・性能や品質、技術、車両全体への統合に関する議論は少なく、殆どが価格マターに費やされる。
●準備期間や議論の不足にも拘らず、機能・性能や品質面での問題が起きた場合には、サプライヤーと一丸となって対応策を取るという動きよりも、サプライヤーの責任と負担を要求することの方を優先しがちである。
●価格引下げ要求が一方的かつ無計画で、サプライヤー自らの VA や VE に対する評価や配慮も小さい。
さらに拍車を賭けたのが昨年 8月に本誌でも取り上げた Ford のサプライヤー基本契約( https://www.sc-abeam.com/sc/library_s/column/3740.html)改訂の動きである。そこではサプライヤーの知的所有権は否定され、Ford が取り上げる内容になっている上に、この契約に調印しない限り Ford と取引できなくなるいという一方的な内容に批判が相次いだ。
また、Ford は増大するワランティコスト(製品保証費用)の一部をサプライヤーから徴収する計画を持っているとされ、これに対する評判も頗る悪い。
この結果、多くのサーベイでビッグ 3 は、サプライヤー側での満足度と信頼性が他の OEM に比べて低く、今後取引を拡大したくない相手だという結果が出ている。
【トヨタ、ホンダをベンチマーク】
サプライヤーの間でビッグ 3 の人気ランキングが下がる一方で、好感度を高めているのがトヨタとホンダである。
ビッグ 3 の SR が「どちらが悪い、誰が負担すべきか」という対立構造での議論を延々と続けるものになりがちなのに対して、日本の OEM では「どうしたら目指す製品が作れるのか、お互いに何が持ち寄れるか」という協調構造での議論を出来るだけ早く始め、万一問題が起きたときにもこの協調構造のもとで迅速な対応が促されることに違いが見られる。
北米でも多くのサプライヤーがこうした協調的な SR こそが業界の持続的な革新と収益拡大に貢献すると評価しており、トヨタやホンダとの取引拡大を望む声が高い。
今回の記事でも早速 Metaldyne が、「早期の(サプライヤーの)関与はサプライヤーと OEM の双方でのトータルコストの削減と利益マージンの改善を助けるものである」と歓迎の意向を表明している。
サプライヤーの側での利益はともかくとして、OEM の側でも協調的な SR が利益になるとはどういうことか。
Automotive News 2004年 12月 27日号が興味深い調査結果をトップ記事で掲載している。リサーチャーの John Henke 氏の調査結果によると、ビッグ 3 の部品調達コストは日系のトランスプラントのそれよりも 8% 高いという内容である。ビッグ 3 各社は一様に「部品の調達コストはしっかりベンチマークしており、万一そんな乖離があれば放置されているはずがない」と調査と数字の信頼性に疑問を発しているが、同時にサプライヤー側の「寧ろ 8% のギャップは実感より少ないくらいだ」という声もある。
筆者の見解では、協調的な SR を取る日系 OEM の方が部品の調達コストそのものが安上がりで済んでいるとまでは考えにくいが、協調的な SR の結果、市場投入が早まり、その時点での製品の完成度が高まる効果や、不具合の検知やその対応策の検討・実施のスピードが上昇する効果はあるとは思う。
その結果、競争力や顧客の満足度・信頼度は向上し、リコールやワランティに関わるコストの削減も見込まれるから、それらも全て勘案したトータルの経済的価値を言うのであれば 8% 程度では収まらない可能性もある。
今回の Chrysler のパイロット・プラグラムは、その詳しい内容や導入の背景が明らかにされていないので断定は出来ない。だが、今日の自動車業界において圧倒的な競争力と収益力を持つトヨタ・ホンダ等、日系 OEM をベスト・プラクティスとしてベンチマークした結果、それらハイパフォーマー共通の行動特性として協調型 SR の存在にあらためて着目し、その部分的導入をテストしてみたいという動機付けが沸いたとしても不自然ではない。
寧ろ、日本型経営の模倣に Chrysler が先鞭を付けたというのが業界の自然な見方である。
【ベンチマーキングの危うさ】
一見自然な流れのようではあるが、何かしっくりこないものを感じる読者もあるのではないか。
ビッグ 3 は 日米逆転現象が生じた 80年代に資本提携先や合弁パートナーを通じて徹底的に日本型経営を学んだはずである。90年代には「カイゼン」を「ISO」に、「カンバン」を 「SCM」に翻訳して日本に逆輸入させてきたくらいである。
二つの疑問が生じる。
第一に、そのビッグ 3 がなぜ今更 日本型経営のベンチマーキングなのか。
第二に、なぜ 80年代には協調型 SR、サプライヤーの早期関与が導入されなかったのか。
第一の疑問に対する答は、おそらく「いまは再び日本の自動車メーカーが儲かっているから」である。
第二の疑問に対する答は、「当時は重要性を感じなかったから」であろう。
筆者はここにベンチマーキングの危うさを感じる。
【儲かっている企業をベンチマークすることの危うさ】
「いまは再び日本企業が儲かっている」から「日本企業の行動様式をベンチマークする」というが、「儲け」の源泉は「行動様式」だけではないから、「行動様式」をベンチマークしても「儲け」に繋がらないことも多い。その時はまたベンチマーキングをやめてしまうのだろうか。
例えば、80年代に日本企業の収益力が高まった理由には、低金利・円高による資金調達力や投資余力の増大等のマクロ経済環境、二度の石油ショックや公害問題への関心の高まりを受けた省資源・環境対策等の行政指導・法規制、冷戦構造の継続と FTA 等の地域経済統合の気運前という国際政治環境などいくつもの要因が海外を主戦場とする日本企業に追い風として吹いていた。
日本企業の「行動様式」だけが「儲け」の源泉ではなかったのである。
だからこそ 90年代になると、日本企業は「行動様式」を大きく変えたわけでもないのに、「儲け」の面では米国企業の後塵を拝することが多くなった。自動車業界においても、制約された資金力の中でも自国市場が小さいゆえに世界基準で細かい品質と技術革新にこだわり、燃費がよい小型乗用車を粛々と開発・生産していくしかない日本車メーカーよりも、世界唯一最大の小型トラックとその派生車市場を持つビッグ 3 が、それを生み出す伝統的な産業経済インフラの生産力と自国市場という地の利を活かして豪快に製品投入してくる製品の競争力、更には生産利潤以上に金融やサービスで稼ぎ出すというビジネスモデルの収益力の前には歯が立たなくなったのである。
21 世紀に入って競争力、収益力の面で日米再逆転が生じているのは事実だが、こと「儲け」に限った場合、その最大の理由が日本企業の「行動特性」にあると考えるのは行き過ぎで、そのベンチマーキングによってビッグ 3 の収益力が復活するとは考えにくい。そこにベンチマークの危うさが潜んでいる。
【成果を明確にしないままでベンチマークすることの危うさ】
また、「成果を上げている日本企業の行動様式をベストプラクティスとしてベンチマークする」という考え方は、成果主義人事におけるコンピテンシーモデルの考え方に近い。コンピテンシーとは、高い成果を上げている人の思考方法や行動様式を持つ人間を採用または育成していけば企業全体の成果が向上するという考え方である。
だとすれば、コンピテンシーモデル導入にあたっての留意点として人事コンサルタントがよく指摘する点をここでも念頭に置かなければいけない。
最大の留意点は、「コンピテンシー導入の目的を明確にすること」、違う言い方をすれば「コンピテンシー導入で向上させたい成果とは何かを明確にすること」である。それによって、求められるコンピテンシーも全く異なるものになるからである。
自動車メーカーに求められる「成果」とは、自社のクルマが沢山、高く売れて、儲かること以外にない、それ以外、それ以上に何があるのか、と疑問に思う人もあるかもしれないが、事はそう単純ではない。日米メーカー間で、内外作比率、労働分配率、役員報酬比率、配当性向、金融事業の利益貢献度、自国市場の利益貢献度は全く異なる。
多少乱暴に言えば、日本車メーカーは顧客から受け取ったお金をサプライヤー、従業員に高めに分配する一方、役員や株主への分配は少な目だし、お金を稼ぐ舞台も自国市場よりは海外市場、金融などの付帯事業ではなく自動車のモノ作りそのものからの収益を中心にしている。
他方、ビッグ 3 ではクルマという製品をプラットフォームにして、金融等のアプリケーションで稼ぎ出すビジネスモデルを主として自国市場で展開し、そこで得た利益を経営陣と株主に厚く配当する仕組みを取っている。
道徳的に、あるいは経営学的にどちらが正しいとか優れているということではない。両者の違いは、単に何のために誰のために企業経営をするのかという企業のビジョン、ミッションの違いと、そのためにどこでどのように儲けるかという戦略、ビジネスモデルの違いである。
ビジョン、ミッションや戦略、ビジネスモデルが異なれば、求める「成果」も自ずと異なってくる。
ビッグ 3 の場合は、金融と自国市場で稼いで役員と株主の利益を最大化することこそが「成果」であるし、日本車メーカーの場合はサプライヤーと従業員の利益を最大化することが「成果」だから、「協調的な SR」 はある意味でそれ自体が「成果」だという考え方も出来る。
そうだとしたら、ビッグ 3 が「役員と株主の利益の最大化」という「成果」を求めて、日本車的な「協調的な SR」をベンチマークすることは殆ど無意味で論理矛盾ということにもなりかねない。
ビッグ 3 が 80年代に日本型経営を学習した際に「協調的な SR」に気付かなかったはずはない。寧ろ、「ケイレツ」の強みの本質として最初に学んだものに違いない。だが、それをそのままの形で導入しなかったのは、他の日本型経営の強みとされるもの(例えば、終身雇用、年功序列、企業別組合のいわゆる三種の神器)と同様、米国社会や米国企業の価値観にそぐわなかったから(米魂和才?)であろう。
もし、ビッグ 3 が「協調的な SR」を今あらためて導入しようとするなら、企業のあり方・目指すものそのものから作り変える気構えが必要となるが、そこまでの思い入れがあるのか疑問である。
【まとめ:ベンチマーキングの本質】
成果を上げている他者を尊び、学ぼうとする謙虚な姿勢は重要である。だが、それを取り入れようとするとき、達成しようとする成果とは何かを見極めなければならない。そして、それは必ずしも儲けではない。
<加藤 真一>