ディーラーの行方(3)

弊社親会社であるアビームコンサルティング(旧デロイトトーマツコンサルティング)が、自動車業界におけるモノづくりから実際のチャネル戦略に至るまで、さまざまな角度から提案していく。

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第 4 弾は、弊社副社長の長谷川博史が、ディーラーの現状、今後について 5 週に渡って紹介する。今回はその第 3 回にあたる。

第4弾『ディーラーの行方(3)』

(日刊工業新聞 2004年08月18日掲載記事)
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前回はディーラービジネスにおけるプラットフォームである「新車販売ビジネス」の収益向上策の提言を行った。具体的には、CRM エンジンの導入と顧客 DB更新を可能にする個人リース・ファイナンスの活用、加えて効率的な訪問販売の実践と店頭販売への移行によりお客様に心地よく継続的に自社で買い換えを行ってもらう=「顧客防衛率」を維持・増加させるという施策である。

今回は、これら 3 つの施策を含む一連の事業活動に基づき確立する「新車販売のプラットフォーム」の上に積み上げる、所謂周辺ビジネス(アプリケーション領域)の「収益向上の為の施策」を幾つか提示してみたい。

【メンテナンスリースによる定期サービス】
収益ディーラーにとって「サービス収益(車検、整備、点検など)」は、新車以外の収益(売上総利益+手数料収入)の 55 %を占める最大構成要素である *。このサービス収益は、新車販売以降も如何にお客様へ利便性を継続的に提供するかによって変わってくるが、実際にはそれ以前に、お客様に継続的に自社を利用してもらえるかが一番のポイントになる。事実、日本には一般の整備工場が 70,000 箇所以上存在し、新車販売後の車検、整備、点検などの一部はこうした街の整備工場に流出する(12 ヶ月点検、初回車検、継続車検をディーラーで受ける比率はそれぞれ、32.7 %、58.7 %、49.3 % *) * 出典:社団法人日本自動車販売協会連合会「自動車ディーラー経営状況調査報告書」、平成 15年版自動車整備白書等)。
流出を防ぐには、新車販売後も顧客との「接点」を維持することが肝要だが、メーカーやリース会社との提携に基づくメンテナンスリースプログラムの導入は、この「接点」を「接線化」する。具体的にはメンテナンスリースでは車検費用や整備・点検費がリース料の中に予め織り込まれる形になる為、必然的にユーザーは車両購入時以降のサービスをディーラーに頼むようになる。

【リースアップ車を利用した、中古車販売ビジネス】
上述の通り新車販売をリース化すれば定期的なメンテナンス需要を取り込むことが可能になるが、これに加えて「接線の終わりの点」であるリース期間満了時に、今度は同車両を優先的に下取りすることが可能になる。現在、中古車業界における最大の課題は「小売に向く優良な玉の仕入れ」であり、業者はオートオークションなどをフルに活用しながら優良な玉の仕入れに注力している。即ち、ユーザーから如何に新鮮で程度の良い車両を仕入れることが出来るかが中古車ビジネスにおける KFS(成功の鍵) であるが、リース商品の導入は比較的走行距離の短い優良な車両を、中間マージンを最小限に抑えながら安価に直接消費者から仕入れることを可能とする。
結果、同車両を中古車として販売する際には、競合他社(専業店など)と比して有利な条件での販売が可能となる。
現在の個人向けリース商品や残価設定型ローンの残価清算はユーザーにリスクを負担させるケースが多いが、メーカーやリース会社との間で何らかの形で残価保証分のリスクを分け合う方式が取れれば、リースアップ車の確保はより確実になろう。

【バーチャルな中古車取引所の設置】
中古車小売を行う際に、ディーラーが通常新車として取り扱うブランドの中古車については信用力を背景に(理論上は)お客様向けの価格を専業店のそれよりも高くポジションさせることが可能なはずである。新車販売ディーラーとしての競争優位性をフル活用する為には、自社ブランド車両の下取り・買取にオークション相場プラス自社系列での小売価格実績を勘案することが打ち手として有効であると考える。

これにより、自社ブランド車両に関しては買取競争力を構築することが可能になるが、一方で他社ブランドについては買取専門店や他社ディーラーに対する競争優位性を保つことは難しくなってしまうことも考えられる。
よって例えば別ブランドを有するディーラーとの間で査定システムの相互乗り入れなどを行い、自社で買い取った他社ブランドは他社店頭で先ずは小売にまわる形を構築する(逆も然り)ことで、新車ディーラー同士のブランド力を相互にレバレッジしながら価格競争力を維持し、買取専門店や専業店への下取り・買取車両の流出を抑制することも検討に価するだろう。

【終わりに】
サービスや中古車といったアフターマーケットの領域に新車ディーラーが進出していく際には、既存の競合先が存在する。これらの競合先は一般的にそれぞれ細分化されたセグメントに自社の経営資源の全てを投入していることが多く、単なる新規参入では競争優位を構築することは出来ない。したがって上記のような新車ディーラーとしての強みをフルに活かしながら新規参入を試みることが重要である。

<長谷川 博史>