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残価率を KPI にしたブランド・マネジメントと中国への展開の重要性
(日産、中国で「インフィニティ」ブランドを展開へ)
現在、現地連結子会社である日産投資有限公司で販売店選定を行っており、2007年末までに北京、上海、広州を含む大都市圏に専売店を配置する予定。2007年内に 5~ 10 店舗を、2009年までに 20 店舗に増加する計画。
(米国市場で最も人気が高いのは「下取り価格の高い車」)
オートモーティブ・リース・ガイド (ALG) が発表した 2006年モデルの 3年後の下取り評価額予想で、高級車ではBMWの 53.6 %が 1 位で、2 位にレクサス。最下位はジャガーの 38.1 %だった。大衆車ではホンダの 53 %が 1 位で、2 位にトヨタ。最下位はビュイックの 37.9 %だった。
<2005年12月19日号掲載記事>
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【自動車業界におけるブランド戦略】
既に中国進出済みのレクサス(トヨタ)、2006年立ち上げ予定のアキュラ(ホンダ)に続き、ついに日産も高級車チャネルの投入を決定した。
高級車チャネルを別ブランド展開する手法は、レンジ・ブランド(一定範囲の商品群・事業群にコーポレート・ブランドとは別の商標を付けること)というブランド戦略の一つである。
既存ブランドの延長(ブランド拡張)の限界(既存ブランドのイメージが強すぎて新たな顧客層が開拓しきれない)や問題点(新規の商品や事業のイメージが強く出すぎて既存ブランドのイメージが混乱または希薄化して、既存顧客が離れていってしまう)を回避したい場合に取られる戦略である。
消費財の一種である自動車の世界では化粧品やファッション等と同様に従来あらゆるブランド戦略が実行されてきた。「カローラ・スパシオ」や「ゴルフ・カブリオレ」は既存ブランドのスコープを拡大するライン拡張戦略である。
「スカイライン・クーペ(実はフェアレディ Z でスカイライン・セダンとは別物)」や「クラウン・アリスト(現レクサス GS でクラウンとは別物)」は成功した既存ブランドを利用して新製品の成功率を高めるブランド拡張戦略である。
かつての「マークII、チェイサー、クレスタ」や「セドリック、グロリア」は実質的に同一の製品に複数のブランドを冠して複数チャネルに流して合計数量の拡大や、販売チャネルのラインナップ補完を意図したマルチ・ブランド(リバッジ)戦略であった。
【ブランド戦略の果実】
戦略というからにはその実行を通じて実現しようとする目的、成功した暁に獲得できる効用という果実がなければならない。
言い古されたことだが、ブランド戦略の果実を今一度整理しておきたい。
ブランド信奉者(ここでは必ずしも固定客・常連客だけを意味しない。固定客並みの期待・憧憬をもって入ってきたニューカマーを含む概念。)が増えてくると、新車購入プロセスが「早い・安い・うまい」の状態になる。
つまり、ブランド信奉者は、成約までのリードタイムが短く、工数も掛からないので事業の回転が早まり、販促費用も安くて済む(販促費用が 3分の 1 から 5分の 1 で済み、ついでに事業回転率効率向上の効果で在庫・設備・人件費など全てのバリューチェーンでコストが下がる)。更に、新車購入や部用品の追加買上げの確率やサービス入庫率が高まり、競争や環境変化にも強くなるので安定性や収益性の高い、正にうまいビジネス構造になるのである。
自動車事業が「早い・安い・うまい」の状態になれば、ブランド戦略が成果を上げたということになるが、ではブランド戦略が成功しているかどうかを「早い・安い・うまい」で計ることにしようと言ったら経営者のみならず自動車業界関係者全員から驚きと怒りを浴びることになろう。
第一に、「逆もまた真なり」が成立しない。事業経営の効率やコスト競争力や収益性・安定性が高いからといってそれは必ずしもブランド戦略の成果とは限らない。徹底したムダ取りやサプライヤーと一体となったコスト削減努力、財務政策など他の無数の経営戦略の賜物である可能性が十分にある。
第二に、商品ごとの指標や組織別のアクションに分解しにくい。上記にあげたような成約リードタイム、成約率、入庫率、台あたり収益性、台あたりマーケティング費用等は商品別の指標に分解することが可能だという反論があるかもしれないが、第一に指標が多すぎて追跡しきれないし、第二に指標が沢山ある割に殆どが販売現場の指標のため、ものづくり現場が当事者意識を持ってアクションを起こす動機付けに欠けるきらいがある。
第三に、バリューチェーン全体や顧客との全タッチポイントをカバーしていない。顧客のブランド評価には、宣伝広告で知った商品企画そのものに対するもの、ディーラー来店時に感じた設計品質や製造品質に対するもの、経年劣化後の使用品質に対するもの、保有期間中のディーラーのサービス・メカニックとの対話を通じて得たサービス品質に関するもの、代替時に体験した値落ちの大きさに関するもの等、様々な要素が含まれる。だが、「早い・安い・うまい」を指標化しようとするとどうしても新車購入時の指標に偏りがちである。
こうしたことから、ブランド戦略の果実たる「早い・安い・うまい」とは別に、ブランド戦略の進捗や効果を計る何らかの指標が必要になってくる。こうした代替指標のことを KPI (キー・パフォーマンス・インディケータ)と呼ぶ。
【ブランド戦略の KPI】
ブランド戦略の KPI として従来から次のようなものが候補に挙げられることが多いが、そのどれが最適なのかについて意見は統一していない。
超過収益力、株価純資産倍率(PBR)、付加価値率、実売価格、顧客満足度・顧客防衛率、残価(残存価額)率。
ここからブランド戦略の KPI としての適性を順番に評価していくことにしよう。この中で特に留意すべきは、上記に挙げた、(A)「逆もまた真なり」が成り立つかどうか、(B)商品別の数値・組織別のアクションに分解できるかどうか、(C)バリュー・チェーン全体や全顧客タッチ・ポイントをカバーしているかどうか、の 3 点と、当然ではあるが、(D)他社分も含めて信頼できる定量的数値が入手・測定・比較可能かどうかである。
(1)超過収益力
超過収益力とは、A 社の利益またはキャッシュフローの額が、自動車メーカーとして一般的に得られる(正確には全社の平均投下資本利益率を A 社の投下資本額に乗じて得られる)金額よりも多いという場合に、その超過部分はブランド価値がもたらしたものだと仮定して、当該部分を KPI とする考え方である。
確かに、他社と同一の部材を使って同一の製法で同一の生産性・品質・リードタイムで完成品に仕上げたにも拘わらず A 社の商品の方が収益力が高いとしたら、顧客が A 社の商品にブランド価値を認めて余分にお金を払ってくれた結果だと考えられなくもない。
だが、問題が 3 つあり、KPI には不適切だと筆者は考える。
(A)「逆もまた真なり」→X
利益は企業が認識した概念に過ぎないし、キャッシュフローも投資抑制や在庫・債権債務コントロール等、顧客の評価とは無関係な企業側の事情で変化する。
(B)商品別の数値・組織別のアクションへの分解可能性→X
共通項目も多く自他問わず企業全体の数値しか取れない。
(C)バリュー・チェーン全体、全タッチ・ポイントのカバー→○
(D)定量的数値の入手・測定・比較可能性→X
他社の部材・製法・品質等の情報の入手や、比較のための同一条件への調整は事実上不可能。
(2)株価純資産倍率(PBR)
株価純資産倍率とは、A 社の株式の時価総額(株価X発行済み株式数)が正味資産価値(自己資本)よりも高いという場合に、超過部分は A 社の将来性・魅力が市場からそれだけ高く支持・評価され、いわゆる暖簾代を産んでいるという考え方のもとに、その比率で A 社のブランド価値を計るべきだという考え方である。
「早い・安い・うまい」の度合いを十分なサンプル数・歴史的蓄積を持つマーケットに評価させたもので信頼性はあるし、日々最新情報に基づき変化を追うことができる利点がある。
だが、これにも問題が 3 つあり、KPI には不適切だと筆者は考える。
(A)「逆もまた真なり」→X
顧客ではなく投資家の評価であり、顧客の評価を代表しているとは言い切れない。また、土地の含み益、投機的行動、株式の流動性や相場全体等、顧客の評価とは無関係の要因に左右される。
(B)商品別の数値・組織別のアクションへの分解可能性→X
株価は企業全体に対するもの。
(C)バリュー・チェーン全体、全タッチ・ポイントのカバー→○
(D)定量的数値の入手・測定・比較可能性→X
株式を公開していないブランド(三菱ふそう等)を評価できない。
(3)付加価値率
付加価値率とは、企業が生み出した付加価値を売上高(または生産高)で割った数値のことで、同じ部材を同じ量だけ使って同じ機能・性能・品質の製品を作り出したとしても顧客は価値の高いブランドにより高いお金を払ってくれるはずだから結果的にこの数値が高くなるはずだという仮説に立っている。「ブランド=付加価値」という一般的な価値観にも近い。
だが、これにも問題が 3 つあり、KPI には不適切だと筆者は考える。
(A)「逆もまた真なり」→X
(中小企業庁基準では)内製率を高めた場合や、大量の販売費を使って売上を伸ばした場合、交渉で部材費・外注費を削減した場合に付加価値が高まることになるが、これらは顧客のブランド評価と無関係。
(B)商品別の数値・組織別のアクションへの分解可能性→X
(日銀基準では)企業全体の数値以外取れず、商品や組織にブレークダウンできない。株価は企業全体に対するもの。
(C)バリュー・チェーン全体、全タッチ・ポイントのカバー→○
(D)定量的数値の入手・測定・比較可能性→X
付加価値の定義が曖昧(日銀は純益+人件費+金融費用+賃借料+租税公課+減価償却費といい、中小企業庁は売上高-部材購入費-外注加工費というなど役所内でもバラバラ)。また、(中小企業庁基準で必要な)他社の部材購入費や外注加工費等の情報は入手不可能。
(4)実売価格
自動車も他の商品と同様に定価(正しくはメーカー希望小売価格=MSRP)どおりで購入されることは少なく、値引やインセンティブ等により実売価格は MSRP よりも低いことが一般的である。
実売価格そのものの水準を他社の商品と比較してその差異でブランド価値を推定する方法である。
消費者の感性では、同じ性能・機能・品質の商品でも実際に支払っていいと思う金額(価値)は商標によって異なるのが現実であり、消費者の考える現実をブランド戦略の KPI とする考え方は合理的で実際的である。
だが、上記(A)~(D)のうち(C)(D)の基準を満たしていないため、筆者としてはやはり最良の KPI とは言いがたい。
(C)バリュー・チェーン全体、全タッチ・ポイントのカバー→×
実売価格とは当然ながら「新車の購入時」に付く価格のことであって、その後のオーナーシップ・エクスピアリアンスを反映しない。購入時には大きな期待を抱いて高い実売価格で買った顧客がその後品質・性能の経年劣化やディーラーのサービス品質の悪さにより不満を抱き、ブランド流出の結果を招いた場合、ブランド戦略の完全な失敗だが、この指標では少なくとも短期的には計りきれない。
逆に前評判は悪く買い叩いて安い実売価格で買った顧客がその後意外にも使用品質やサービス品質の高さに接してすっかりブランド信奉者になった場合も計りにくい。
(D)定量的数値の入手・測定・比較可能性→X
値引・インセンティブは各社の機密情報であり、特に日本では信頼できる情報を統計的に有意な数だけ集めることは不可能に近い。
(5)顧客満足度・顧客防衛率
顧客満足度が高まれば固定客になってくれる可能性が高まり、実際に顧客防衛率(ここでは代替客数÷既存客数)が高まれば固定客化の実績を計れるし、固定客化こそがブランド戦略の目的だから KPI として最適だという考え方である。
極めて正論であり、上記(A)~(D)の基準もクリアしている。だが、弱点が二つあり、筆者はこれを最良の KPI とは考えていない。(異論・反論をお待ちする。)
(a)ニューカマー吸引効果を計れない。既存客の囲い込みだけでは企業はジリ貧になる(顧客とともにブランドが老朽化し、最終的に顧客とともに生命を終えることになる)ので、ブランド戦略には新規顧客を吸引する効果も期待されているはずだと筆者は考える。
(b)ニッチメーカーには使いにくい。フルラインメーカー以外は構造的に顧客防衛率が低くなりがちで常に新規顧客開拓を必要とするが、だからといってブランド戦略が無意味だとか失敗だとはいえない。
(例えば軽自動車メーカーは、いくら顧客満足度を高めても顧客の年齢や所得の増加に応じて商品を提供し続けていくことは不可能である。従って、個別顧客に対するスタティック顧客防衛率を高めるよりも、常に一定のライフシーンやライフステージにある不特定顧客の支持・評価を集めるブランド戦略により、あるライフシーン・ライフステージの顧客層に対するダイナミック顧客防衛率を高めるべきだと考える。
この点に関して、以前本誌で詳しく述べたので参照願いたい。)
「ベストなマーケティング・ツールは?(ブランド・)ロイヤ…」
【残価率のKPI適性】
以上述べてきたような各 KPI 候補の欠点を踏まえて筆者が最良と考えるブランド戦略の KPI は残価率である。
残価率とは、中古車価格÷MSRP の比率のことで、ここでは 3年経過後の中古車仲介価格(オークション相場)と定義する。
残価率は、先程の(A)~(D)の四つの基準全てをクリアすると考えられる。
念のため整理しておくと、次のとおりである。
(A)「逆もまた真なり」→○
残価率が高いということは、経年劣化後も最も新車の MSRP に近い高値で中古車が取引されているということ。ブランド・商品の価値が商品企画時に最も近い水準で認識されているということ。率なので新車時の価格設定の高低は影響しない。
(B)商品別の数値・組織別のアクションへの分解可能性→○
MSRP もオークション相場も商品別に存在する。後述するような組織別の活動の集大成がオークション相場を構成すると考えることが可能なので当然アクションに分解することは可能。
(C)バリュー・チェーン全体、全タッチ・ポイントのカバー→○
繰返しだが、バリュー・チェーン全体での活動、全タッチ・ポイントでの顧客評価の集大成が残価率を構成していると考えることができる。
(D)定量的数値の入手・測定・比較可能性→○
MSRP、オークション相場とも入手可能で、率による合理的比較も可能。
さらに、顧客満足度・顧客防衛率の問題点であった以下の点もクリアできる。
(1)中古車相場は売り手である既存顧客の満足度だけでなく、それを欲しいと思う新規顧客にとっても魅力度が高くなければ上昇しないので、既存と新規双方へのブランド戦略の効果が測定できる。
(2)残価率はフルラインメーカーでなくても数値を向上させることができる指標である。実際に輸入車の数値は一般的に高い。
一方、問題点も主に二つある。
(a)あくまで各組織での活動の総体がもたらす結果指標なので、各活動の全体への影響度や緊急度が見えて来ず、責任の所在も不明確になりやすい。
(b)発売直後の車種の中古車相場情報が集まってくるまでに 3年掛かるので、アクションが遅れやすく、情報が集まる頃にはローテーションでモデルチェンジで担当者が代わっていることもありえる。その結果、PDCA サイクルが機能不全を起こす可能性がある。
しかし、第一の問題は、顧客満足度・顧客防衛率等その他の指標を取ったとしても免れない問題であり、経営判断で進める以外ないと思われる。第二の問題は、今回の記事にあるような予想残価率を出している機関※の数値で代用または補完するとともに、発売後暫くはより短期(半年・ 1年・ 2年)の残価率を使用することで対応可能だと考える。短期の残価率は、バリュー・チェーンやタッチ・ポイントの前半部分での顧客評価(売り手・買い手双方)を表すものとして意外に有効であろう。責任の所在が絞り込まれるからである。
※ 米国では ALG が業界標準。日本ではプロトコーポレーションが東京海上日動火災と共同開発した残価予測システムがある(下記参照)。
「将来の中古車価格を正確に予測するシステム、プロトコーポ…」
【残価率のマネジメント】
残価率を KPI に置くとして、各組織・各プロセスではどのようなマネジメントが求められるだろうか。その前にそもそも残価率に影響を与える要素にはどのようなものがあるかを整理しておきたい。
(1)品質
ここでいう品質とは IQS で表される初期の製造品質のことではない。製造品質とサービス品質の掛け算で現われる使用品質と、販売品質が組み合わせられた総合品質のことである。(詳しくは弊社執筆の「最新自動車業界の動向とカラクリがよ~くわかる本」の P187 または下記参照)
「米国での車種別耐久性、「レクサス」が10年連続首位に。米…」
「企画品質の時代」
(2)台数
新車計画台数、新車生産台数、新車販売台数、中古車発生台数、中古車買取台数、中古車出品台数、中古車成約台数、中古車再販台数、各段階での在庫台数、それらのバランス。
(3)価格政策
MSRP、値引、販売インセンティブ、ファイナンス支援、メンテナンス・プログラムや延長保証の価格、中古車買取価格、代替促進ボーナス。
(4)商品仕様
グレード体系・オプション体系、外板色、巻戻しにくいメーター、経年劣化しにくく再生しやすい塗料・素材など、メンテナンス・フリー用品、アプルーブド・カー(統一点検・整備付き)、メンテナンス・プログラム、延長保証、カスタマイズド(再商品化施工付き)ユースト・カー
(5)ディストリビューション
地域分布、季節分布、個人・法人(レンタ・リース、タクシー他)別
(6)チャネル
新車販売チャネル、サービス・チャネル、買取チャネル、仲介(オークション)チャネル、再販チャネル
(7)サイクル・マネジメント
残価据置型ファイナンス、メンテナンス・プログラム、テレマティクス入庫誘導、サービス・キャンペーン、ポイント付きクレジットカード、顧客専用ホームページ・メールマガジン
(8)露出
プリローンチ・アド、ローンチング・アド、フォローアップ・アド、キャンペーン・アド
上記(1)~(8)を大まかに組織別に並べ直してみると次のとおりで、改めて残価率のマネジメント、ブランド・マネジメントの責任は全ての組織にあることが分かる。開発・調達・生産の役割は相対的に小さく見えるかもしれないが、バリュー・チェーンの初期にいる彼らが経年劣化後の使用品質にまで責任を負わなければならないのだから期間は最長である。
「商品企画部門」・・・(1)(2)(3)(4)(6)(7)(8)
「開発部門」・・・(1)(4)
「調達部門」・・・(1)(3)(4)
「生産部門」・・・(1)(2)
「販売部門」・・・(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)
「サービス部門」・・・(1)(3)(6)(7)
「広告宣伝部門」・・・(1)(7)(8)
「物流部門」・・・(1)(2)(5)
また、マネジメントという観点から重要なことは、できる限り自銘柄車(新車・中古車とも)をマネージできる環境に置いておくということである。一度、自社ブランドのループ外に出てしまうと、価格も流通量もマネージ不能な状態に陥り、残価率もブランドも天に任せるほかなくなってしまうからである。
【中国におけるブランド・マネジメント】
ここまで一般論として「残価率を KPI にしたブランド・マネジメント」を論じてきたが、次の理由から実はこれが今後最も重要になるのが中国市場である。
(1)新車ディーラーに新車販売(しかも売り手市場での)以外の経験がないこれまで新車ディーラーには原則として中古車の下取・買取が認められ
ていなかった。
(2)ユーザーに自家用車の売却・代替の経験がない購入・保有・売却・代替のサイクルにおける全てのバリュー・チェーン、タッチ・ポイントを経ておらずオーナーシップ・エクスピアリアンスも不足している
(3)中古車の市場インフラが他市場とは全く異なる形で発展してきた交易市場なる独占市場における経紀公司なる独占的仲介人を介した取引。10月施行の中古車流通管理弁法で今後変わる可能性を秘めてはいる。
(4)2007年に市場が急膨張する
新車が急速に普及し始めたのが 2002年であり、一巡して中古車市場に一斉に放出される時期が来る。
つまり、今から 1年後に市場の誰も経験したことのないまま中古車のビッグ・バンを迎えるということである。それに備えて今から残価率を KPI としたブランド・マネジメントをきちんと設計・準備したメーカーと、放置したままビッグ・バンに翻弄されマネージ不能に陥るメーカーとでは修復不能なほどの格差が付くおそれがある。
中国は遅くとも来年には日本を上回る世界第 2 位の、また今世紀前半中には米国を凌いで世界最大の自動車市場となることが明白である。
そこでのブランド格差がもたらす結果は、今日世界最大の米市場でブランドを築いた日本車が空前の業績を享受する一方でブランド・マネジメントどころでなくなったビッグ 3 の苦境を見れば明らかであろう。
中国における残価率マネジメントを通じたブランド・マネジメントとは、いかなるものであるべきなのか、年明け早々の私たちの最優先の研究課題にしたいと思う。何しろ残された時間はあと 1年しかないのだから。
<加藤 真一>