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海外雑誌・業界記事紹介(2)・Automotive News「米国自動…
英語でしか発刊されていない海外の雑誌で取り上げられる最新の記事の内容を日本語で解説・海外での最新ビジネストレンドを分かり易くお届けするコーナーです。
第2回 Automotive News誌 February 2, 2004
“Brick-and-mortar boom, MARY CONNELY”
——————————————————————————–
Automotive Newsは、75年以上の歴史を持つ米国を代表する自動車専門誌であり、8万人以上の読者に自動車業界のニュースを毎週届けている。
この雑誌の2004年2月2日号で、米国における最近の自動車販売店による投資ブームが取り上げられている。
今回はこの記事を通じて米国のビジネスシステムの流動性と、その日本での広がりの可能性に焦点を当ててみたい。
尚、ブームになっている投資とは多角化のための投資や所謂有価証券投資などではない。
自社のコアビジネスである自動車小売販売に必要とされる店舗に対する投資(新車ショールームの刷新や改装)である。
ただ、この投資額がかなりのレベルになっている。
以下が記事で紹介されている、各メーカー傘下のディーラーによる投資金額。
総投資額/年 1店当たり投資額/年
LX 424億円(4.0億ドル) 6.3億円(5.9百万ドル)
FR 318億円(3.0億ドル)*1 1.6億円(1.5百万ドル)
LM 127億円(1.2億ドル)*2 2.1億円(2.0百万ドル)
SZ 64億円(0.6億ドル) 0.2億円(0.2百万ドル)
CH 1,060億円(10億ドル)*3 N.A.
*1 過去5年間、特に異動なし。
*2 2004年の計画
*3 2008年まで毎年の計画。以前は毎年318億円(3億ドル)程度だった。
為替:106円換算
LX:レクサス
FR:フォード
LM:リンカーンマーキュリー
SZ:スズキ
CH:クライスラー
NADA(全米自動車ディーラー協会)によると、2002年末時点の全米ディーラーの1店当たり総資産の平均は4.3億円(4.04百万ドル)。
車両在庫、部品在庫、売掛金などを除した所謂固定資産の詳細は不明なものの、例えば、リンカーンマーキュリーの2.1億円というレベルなどは全米の平均的ディーラーのバランスシートの半分にあたる金額を毎年投資していくことになる。
こうなると投資効率が気になるが、記事の中でクライスラーグループの販売担当副社長ゲーリー・ディルツ氏は「店舗改装に伴う効果は一般 的には20%の投資リターン率を期待できる。新車売上も10%程度増える」としている。
また同じクライスラーグループのディーラー関係・小売戦略担当役員であるボブ・ウィリアムズ氏は「店舗改装はオペレーション改善と同時に土地建物の資産価値そのものを増加させる」としている。
過去5年間の好調をもとに、米国の新車販売市場が今後も永遠に成長すると織り込むことについては議論があろう。また、本当にクライスラーの幹部が言うような「見込んだリターン」を取れるかについても疑問はあるものの、このタイミングで設備投資を増やすこと自体に経済合理性はあろう。
というのも、本来「金利レベル」と「自動車販売」は比例の関係にあるはずのところ(即ち、自動車販売による売上が好調になれば金利は上がり、販売不調なときは金利が下がる)、今の米国では過去5年にもおよぶ自動車販売の好調にも関わらず金利レベルは低いからだ。
これは911(ナインイレブン)以降、米国では歴史的な超低金利に基づく投資・消費促進政策、及び税制面での各種償却資産投資に伴う損金計上時の優遇などが続いていることに由来する。
勿論、これをバブルとする見方もある。
実際、今後は「どこで政策金利を上げるか」が連邦準備会(FRB)などでの焦点となっていること、また、低金利と好調な消費に基づき過剰な不動産・建物への投資を行う様は、当国の1980年代後半から90年代前半に見られた現象と酷似している。
だが、仮に米国の現状がバブルであり、そのバブルが崩壊したとしたという前提を置いた場合でも、経済システムの面から見ると、日本の場合よりも早い回復が可能な体制が整っているのではないかと考える。
米国では、需給のギャップが生じるような状態になったときの調整が「流動的な形で可能」であり、それが米国経済システムの強みだと思う。
例えば自動車販売の領域でのビジネスシステムとしての「流動性」の特徴として、以下の2点を挙げたい。
1)ディーラーそのものが売買対象となる流動的なマーケットの存在日本の自動車産業における自動車ディーラーの位置付けは、どちらかというとメーカー商品戦略・バリューチェーンの延長線となっているが、米国におけるそれの位置付けは「独立したビジネス単位」というポジショニングである。
日本ではメーカーとの長期の人的関係やテリトリー毎の顧客との訪問販売などを通じた長期的・固定的な繋がりがディーラービジネス成功の大きなファクターであるが(それだけではないが)、米国でのそれは相対的にドライであり、短期的・流動的なものとなっている。(これ自体が顧客に対する価値を提供するシステムとして最適か否かという議論は今は横に置いておく。)が故に、米国ではディーラーユニットはそれ自体が売買の対象となっている。
因みに、クライスラーのボブ・ウィリアムズ氏が「店舗改装は土地建物の資産価値を増加させる」と発言している意図は即ち、ディーラーのオーナーにとっても、企業価値を上昇させること=売買対象とした場合の売値が上がる可能性を示唆することで、投資を促進しようとしているのである。
このディーラーそのものが売買の対象となっている市場の存在により、米国では仮にディーラーそのものの数が増えすぎたり設備への投資が過剰になったとしても、(損失が生じることは日米で変わりないが)その後の需給ギャップの調整がよりスムーズな形で可能である。
2)自動車特化型不動産投資信託(REIT)など、多様な資金調達手段の存在日本でも最近総合的なREITがスタートし、それなりのレベルでオペレーションしているが、米国では不動産の投資対象がより細分化されている。
例えばCapital Automotive社という、自動車小売拠点のみに特化した形で不動産を取得し、投資対象として市場に提供している会社がある。
この会社は、全米313の自動車小売拠点(不動産)に17億ドルを投資しており、保有資産は全米30州にまたがり、43のブランドをおよそ436のフランチャイズでオペレーションしている。(同社ホームページより。)
仕組みの概要は簡単で、既存のディーラーオーナーから土地建物を買い上げ、同時に同ディーラーに同じ土地建物を貸し付ける。
買い上げのキャッシュは信託を通じて一般の投資家から徴収。投資家は賃料を裏づけにした証券を購入。
ディーラーから見ると、自社の土地建物を流動化し相対的に低い割引率で現金化しながらオペレーションが可能。また、リスクマネーは市場を通じて一般の投資家が供給してくれる為、不動産相場やディーラーオペレーション巧緻による業績変動に基づく賃料不払いリスクも、結果的には薄く広く投資家にダイルートされる。
この記事のタイトルの”Brick-and-mortar”とは、米国でニューエコノミー論が繰り広げられ、全ての商品はインターネットを経由して販売される・販売に伴う諸コストは最小化すると思われた、1998年~2001年までの数年の間に「オンラインショップ」などの固定費の掛からないバーチャルな店舗などとの対義語として流行った「リアルの、物的な」という意味。(正に、Brick=煉瓦とMortar=モルタル。)
煉瓦とモルタルのような固まった長期の投資を行っても、その後の状況次第で市場が流動化を後押しする米国的な環境に日本も近づきつつあるとは思うが(特に金融市場など)、昨今のメーカーvs.ディーラー関係の変化や地域ごとのディーラー間の統合などの動きを見ると、自動車流通 領域での変化の時期は思ったより早いかもしれない。
英語でしか発刊されていない海外の雑誌で取り上げられる最新の記事の内容を日本語で解説・海外での最新ビジネストレンドを分かり易くお届けするコーナーです。
第2回 Automotive News誌 February 2, 2004
“Brick-and-mortar boom, MARY CONNELY”
——————————————————————————–
Automotive Newsは、75年以上の歴史を持つ米国を代表する自動車専門誌であり、8万人以上の読者に自動車業界のニュースを毎週届けている。
この雑誌の2004年2月2日号で、米国における最近の自動車販売店による投資ブームが取り上げられている。
今回はこの記事を通じて米国のビジネスシステムの流動性と、その日本での広がりの可能性に焦点を当ててみたい。
尚、ブームになっている投資とは多角化のための投資や所謂有価証券投資などではない。
自社のコアビジネスである自動車小売販売に必要とされる店舗に対する投資(新車ショールームの刷新や改装)である。
ただ、この投資額がかなりのレベルになっている。
以下が記事で紹介されている、各メーカー傘下のディーラーによる投資金額。
総投資額/年 1店当たり投資額/年
LX 424億円(4.0億ドル) 6.3億円(5.9百万ドル)
FR 318億円(3.0億ドル)*1 1.6億円(1.5百万ドル)
LM 127億円(1.2億ドル)*2 2.1億円(2.0百万ドル)
SZ 64億円(0.6億ドル) 0.2億円(0.2百万ドル)
CH 1,060億円(10億ドル)*3 N.A.
*1 過去5年間、特に異動なし。
*2 2004年の計画
*3 2008年まで毎年の計画。以前は毎年318億円(3億ドル)程度だった。
為替:106円換算
LX:レクサス
FR:フォード
LM:リンカーンマーキュリー
SZ:スズキ
CH:クライスラー
NADA(全米自動車ディーラー協会)によると、2002年末時点の全米ディーラーの1店当たり総資産の平均は4.3億円(4.04百万ドル)。
車両在庫、部品在庫、売掛金などを除した所謂固定資産の詳細は不明なものの、例えば、リンカーンマーキュリーの2.1億円というレベルなどは全米の平均的ディーラーのバランスシートの半分にあたる金額を毎年投資していくことになる。
こうなると投資効率が気になるが、記事の中でクライスラーグループの販売担当副社長ゲーリー・ディルツ氏は「店舗改装に伴う効果は一般 的には20%の投資リターン率を期待できる。新車売上も10%程度増える」としている。
また同じクライスラーグループのディーラー関係・小売戦略担当役員であるボブ・ウィリアムズ氏は「店舗改装はオペレーション改善と同時に土地建物の資産価値そのものを増加させる」としている。
過去5年間の好調をもとに、米国の新車販売市場が今後も永遠に成長すると織り込むことについては議論があろう。また、本当にクライスラーの幹部が言うような「見込んだリターン」を取れるかについても疑問はあるものの、このタイミングで設備投資を増やすこと自体に経済合理性はあろう。
というのも、本来「金利レベル」と「自動車販売」は比例の関係にあるはずのところ(即ち、自動車販売による売上が好調になれば金利は上がり、販売不調なときは金利が下がる)、今の米国では過去5年にもおよぶ自動車販売の好調にも関わらず金利レベルは低いからだ。
これは911(ナインイレブン)以降、米国では歴史的な超低金利に基づく投資・消費促進政策、及び税制面での各種償却資産投資に伴う損金計上時の優遇などが続いていることに由来する。
勿論、これをバブルとする見方もある。
実際、今後は「どこで政策金利を上げるか」が連邦準備会(FRB)などでの焦点となっていること、また、低金利と好調な消費に基づき過剰な不動産・建物への投資を行う様は、当国の1980年代後半から90年代前半に見られた現象と酷似している。
だが、仮に米国の現状がバブルであり、そのバブルが崩壊したとしたという前提を置いた場合でも、経済システムの面から見ると、日本の場合よりも早い回復が可能な体制が整っているのではないかと考える。
米国では、需給のギャップが生じるような状態になったときの調整が「流動的な形で可能」であり、それが米国経済システムの強みだと思う。
例えば自動車販売の領域でのビジネスシステムとしての「流動性」の特徴として、以下の2点を挙げたい。
1)ディーラーそのものが売買対象となる流動的なマーケットの存在日本の自動車産業における自動車ディーラーの位置付けは、どちらかというとメーカー商品戦略・バリューチェーンの延長線となっているが、米国におけるそれの位置付けは「独立したビジネス単位」というポジショニングである。
日本ではメーカーとの長期の人的関係やテリトリー毎の顧客との訪問販売などを通じた長期的・固定的な繋がりがディーラービジネス成功の大きなファクターであるが(それだけではないが)、米国でのそれは相対的にドライであり、短期的・流動的なものとなっている。(これ自体が顧客に対する価値を提供するシステムとして最適か否かという議論は今は横に置いておく。)が故に、米国ではディーラーユニットはそれ自体が売買の対象となっている。
因みに、クライスラーのボブ・ウィリアムズ氏が「店舗改装は土地建物の資産価値を増加させる」と発言している意図は即ち、ディーラーのオーナーにとっても、企業価値を上昇させること=売買対象とした場合の売値が上がる可能性を示唆することで、投資を促進しようとしているのである。
このディーラーそのものが売買の対象となっている市場の存在により、米国では仮にディーラーそのものの数が増えすぎたり設備への投資が過剰になったとしても、(損失が生じることは日米で変わりないが)その後の需給ギャップの調整がよりスムーズな形で可能である。
2)自動車特化型不動産投資信託(REIT)など、多様な資金調達手段の存在日本でも最近総合的なREITがスタートし、それなりのレベルでオペレーションしているが、米国では不動産の投資対象がより細分化されている。
例えばCapital Automotive社という、自動車小売拠点のみに特化した形で不動産を取得し、投資対象として市場に提供している会社がある。
この会社は、全米313の自動車小売拠点(不動産)に17億ドルを投資しており、保有資産は全米30州にまたがり、43のブランドをおよそ436のフランチャイズでオペレーションしている。(同社ホームページより。)
仕組みの概要は簡単で、既存のディーラーオーナーから土地建物を買い上げ、同時に同ディーラーに同じ土地建物を貸し付ける。
買い上げのキャッシュは信託を通じて一般の投資家から徴収。投資家は賃料を裏づけにした証券を購入。
ディーラーから見ると、自社の土地建物を流動化し相対的に低い割引率で現金化しながらオペレーションが可能。また、リスクマネーは市場を通じて一般の投資家が供給してくれる為、不動産相場やディーラーオペレーション巧緻による業績変動に基づく賃料不払いリスクも、結果的には薄く広く投資家にダイルートされる。
この記事のタイトルの”Brick-and-mortar”とは、米国でニューエコノミー論が繰り広げられ、全ての商品はインターネットを経由して販売される・販売に伴う諸コストは最小化すると思われた、1998年~2001年までの数年の間に「オンラインショップ」などの固定費の掛からないバーチャルな店舗などとの対義語として流行った「リアルの、物的な」という意味。(正に、Brick=煉瓦とMortar=モルタル。)
煉瓦とモルタルのような固まった長期の投資を行っても、その後の状況次第で市場が流動化を後押しする米国的な環境に日本も近づきつつあるとは思うが(特に金融市場など)、昨今のメーカーvs.ディーラー関係の変化や地域ごとのディーラー間の統合などの動きを見ると、自動車流通 領域での変化の時期は思ったより早いかもしれない。
<長谷川 博史>