日産と仏ルノー、両社の提携5周年を記念し、新ビジョンを…

◆日産と仏ルノー、両社の提携5周年を記念し、新ビジョンを全従業員に配布
それぞれのブランドは尊重。品質や技術、営業利益率などは世界3位 以内に
<2004年03月29日号掲載記事>
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日産とルノーは、提携5周年を契機に「アライアンス・ビジョン-目指すべき姿」として、1.今後のビジョン、2.行動指針、3.具体的な目標を掲げた。
各社報道で主に取り上げたのは、このうち3つ目の「目指すべき目標」として具体的に掲げられた、以下3点である。
1)各地域、各市場セグメントで、製品品質、魅力品質、販売・サービス品質の3分野で世界ベスト3に入る自動車グループであるとお客さまから認識されること
2)将来的に重要な技術で、世界のベスト3に入る自動車グループとなること
3)営業利益合計額が世界の自動車グループ内でベスト3以内に入ること。
定量的に目に見えて、報道記事としても扱いやすいのは「具体的な目標」である。プロ野球で開幕時に必ず「今年の目標はホームラン何本ですか?」「打率は何割?」と問い掛け、この数字が話題になるのと同じ論理である。
昼食時の話題としての野球ネタであれば、数字のみを以ってして「xx選手は今年は何本」という話で盛り上がるのは全く問題無いが、経営の場合、「目標」は何らかの「行動指針」の結果として抽出された数字の表明に過ぎないことを認識しておく必要がある。
そして、その「行動指針」の前提には、「将来のビジョン」が存在する。
即ち、
ビジョン

行動指針

具体的な目標数値
というわけだ。

それではビジョンとは何だろうか。
一般的にビジョンとは「企業の将来の方向性やあるべき姿などを示す価値的なもの」と言われる。
ジェームス・C・コリンズ/ジェリー・I・ポラス著の「ビジョナリーカンパニー」では、ビジョン=(1)基本的価値観 + (2)目的
としている。
(1)基本的価値観
組織にとって不可欠で不変の主義。いくつかの一般的な指導原理からなる。文化や経営手法と混同してはならず、利益の追求や目先の事情のために曲げてはならない。
(2)目的
単なるカネ儲けを超えた会社の根本的な存在理由。個々の目標や事業戦略と混同してはならない。
よく大企業でも間違いを犯しがちな点が、この「利益」の部分である。
営業利益率や資産積み上げ目標、保有する資産の評価とこれに対する望ましいリターン率、経営資源の戦略的配分に基づく収益性&成長性の期待値といった数字を重視する余り、何を目的にどのような価値観に基づき、誰に対してどのような価値を提供するかを忘れてしまうことがある。
例えば、最近コンパックとの合併で話題になったHPのパッカード氏は、HPのビジョンについてかつて株式公開後にこう語っている。
「最初に、なぜ会社が存在しているかについて話したい。言い換えれば、なぜわれわれがここにいるかだ。会社は要するにカネ儲けのためにあると、誤解している人が多いと思う。カネ儲けというのは、会社が存在していることの結果としては重要であるが、我々はもっと深く考えて、我々が存在している真の理由を見つけ出さなければならない。この点を追求していくと、人々が集まり、我々が会社と呼ぶ組織として存在しているのは、人々が集まれば、個人ではできないことができるようになるからだ。つまり、社会に貢献できるようになるからだという結論に必ず行き着く。社会への貢献とは使い古された言葉だが、すべての基本である。・・・(実業界のなかを)見渡せば、カネにしか興味が無いという人も確かに居るが、基本的な原動力になっているのはカネ以外のこと、製品をつくり、サービスを提供すること、つまり、価値のある仕事をしたいという強い意欲にある。この点を頭に刻み込んで、なぜHPが存在しているのかを話し合ってみよう。・・・我々が存在している真の理由は、我々しかつくれない(社会に貢献する)ものを提供することにある。
パッカードは工学部出身で哲学科の出身ではないが、「利益は会社経営の正しい目的ではない。全ての正しい目的を可能にするものである」と考えていた。
つまり、継続企業として存在していた2つの企業が、株式の相互保有などを事由に1つの企業グループに統合していく過程で両社共通のビジョンを掲げようとすることは、仮に設立時から実現しようとしていた社会貢献の方法がそれぞれの会社で異なる場合は難しい。否、本来個社で独自に持っていたビジョンは、長年の歴史を経て培われた価値観と目的の総和であり、これを、ある一時期無理に一つに纏めようとする行為自体が、意味の無いことであろう。
今回の日産とルノーが発表したビジョンは、こうした難しい背景もあってか、非常にハイレベルな内容となっている。必ずしも、ビジョンとして掲げて妥当なものかは兎も角、以下、日産のホームページに掲載されている全文を紹介したい。
–<quote>——————–
アライアンス・ビジョン ‐ 目指すべき姿
ルノーと日産のアライアンスは、2つのグローバル企業同士が株式の相互保有を伴って、 下記の特徴を実現した、世界に類の無い企業グループである。
・ルノーと日産は、一貫した戦略や共通の目標と理念を掲げ、シナジーを成果に結び付け、ベストプラクティスの共有化を通じて、力を結集して高い成果を目指す。
・ルノーと日産は、各々の個性とブランドを尊重し、それをさらに強化していく。
–<unquote>——————–
ここで言わんとしているところは、以下2点だろう。
1.ベストプラクティスの共有
2.ブランドの尊重
即ち、お互いの「ノウハウ」や「やり方」は共有しながら、個社の持つブランド価値は最大限に生かそう、ということ。
日産・ルノーのアライアンス成立から5年、経営者の交代や資本面 でのサポートを除いて、ベストプラクティス面でどの程度の効果が生まれたかの判断は難しい。
90年代後半に出現した自動車各社の連合体(グループ)の主要目的であった「プラットフォームや部品の共通化を通じたシナジー創造・効率化」が、従来目標を上回るペースで進んでいるという話はなかなか聞こえてこないが、今後もこの方向で進んでいくのはコスト面から見れば間違い無い。 一方、個社の有するブランドはしっかり尊重する、というのも顧客に対する価値の提供という面から見て当然の帰結である。
マーケティングの大家であるフィリップコトラーによれば、ブランドとは、販売者ないしは販売グループの製品やサービスを識別し、それらを競合他社から差別化するために付される名前、言葉、記号、シンボル、デザイン、ないしはこれらの組み合わせからなるものとのこと。
日産・ルノーの掲げる2つのビジョンである、1.ベストプラクティスの共有と 2.ブランドの尊重を実現するという作業は、端的に言えば、部品やプラットフォームの共通化により商品種類を絞りながらも、デザイン面や名前を差別化することで、収益を最大化しようとする試みであるが(このこと自体は、日産・ルノーに限らず、全ての自動車メーカーの進んでいる方向性だが)、「ブランド」とは飽くまでも顧客の主観に基づく価値であることを忘れてはならない。
因みに、前述のコトラー先生によれば、製品としてのブランドを構成するのは以下の3つである。
1.製品の核(中核となるベネフィット、サービス)、
2.製品の形態(パッケージング、特徴、スタイル、品質、名前)
3.製品の付帯機能(取り付け、配達と信用供与、保証、アフターサービス)

顧客がブランドに対して抱くイメージを構造的に分解して、コアな部分のみを抽出・前面に押し出し、残りは共有化するという手法は、顧客の主観がときに感性に基づくものであることを考えると、思ったよりも難しい作業であるのは間違い無い。

<長谷川 博史>