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ヒマワリの種から採った油をディーゼル車に、筑波大学発の…
◆ヒマワリの種から採った油をディーゼル車に、筑波大学発のベンチャー設立
軽油と混ぜて使うのが通例だったバイオディーゼル燃料油を添加剤の開発により100%植物からできるディーゼル燃料を実現。バイオ技術を使い育てたヒマワリの種からバイオディーゼルを抽出する事業を行う大学発ベンチャー「サンケァフューエルス」が、筑波大学大学院生命環境科学研究科の松村正利教授らによって設立された。タイ北東部に60万ヘクタールの栽培用地も確保しており、軽油より約10円高い85円/L程度での販売が目標。
<2004年06月25日号掲載記事>
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企業にとって売上高を増やす方法を大きく2つに分けるとすると、何と何に分かれるだろうか?
幾つかの分類方法が思い浮かぶだろうが、キーワードを「既存」と「新規」と置いた場合、以下の2つになる。
1)既存市場における、シェアを上げることによる売上増
2)今まで存在しなかった新しい市場における、新しい価値の創造
1)は、既に複数のプレーヤーが参画する市場において競合他社との競争の中で自社の優位性を高める様々な活動を通じて、結果的には「他社を負かす」ことにより「自社が勝ち抜く」方法である。
キーイニシアティブとしては「コスト削減」や「戦略的価格設定」、「差別化」や「大量告知」活動などによる競争力アップ、認知度アップ、商品に付帯する各種サービスレベルの向上などが挙げられる。
所謂古典的なマーケティング諸活動はどちらかというと、この1)で如何に勝ち抜くかを構造的に取りまとめた考え方であろう。
一方、2)については、考えてみれば当たり前の話だが「今まで存在しなかった新しい市場」であるが故に、初めて挑戦するプレーヤーが「市場そのものを創造」する必要がある。そこには定石も必勝パターンも存在しなければ、リスク総額を定量的に計測する手法も存在しない。
故に、短期の課題として企業が掲げて、解決を求めることが成果に結びつきやすいのは1)の方法であろう。
しかし、究極的な社会全体の前進に繋がる手法は2)である。
勿論1)の既存市場における各種競争も、労働と資本の投入量増加・改善により今以上の生活水準の実現をもたらす。また、通商を通じた比較優位・分業の概念にもあるように「より安く」、「より良いもの」を「より適したプレーヤーが提供する」ことは経済成長を実現させる。
しかし、産業の大波のような変化をもたらすイノベーションは既存市場の中のパイの奪い合いからは生まれない*。
*パイの奪い合いの結果、新しい市場が創造されることは往々にしてあるが、ここではこれを2)に分類する。
特に日本の場合、ここ数年間は「経済発展にはイノベーションが必要、その為には起業をサポートする仕組みが重要である」として、新しい産業への構造転換が構造改革の目玉として掲げられていた。
しかし現実を見るとどうだろうか?
確かに起業は10年前に比べてやりやすくなった。個人であれば、資本金1円で株式会社も創れるようになった。また、この1年で日本の企業業績と株価は大幅に回復している。
だが、この現象(業績・株価の回復)は果たして上で挙げた2種類の方法のうち、どちらの方法によるものだろうか?
よく、2)の新市場創造の例としてデジタル家電などが挙げられるが、全体の経済成長を俯瞰すると、どちらかと言うと1)の既存市場内での競争力アップ、即ち各種コスト削減や財務リストラを経たバランスシート是正などにより収益力が高まった結果としての好業績というのが実態ではないだろうか。
よって、これから「更なるクオリティの高い人生を実現する為の手段としての経済成長」を求めるのであれば、1)の結果回復した体力を用いて、如何に2)のイノベーションを創造するかが重要になってくる。
残念ながら、大企業はイノベーションを自ら発生させることが得意ではない。よって、既存の市場の枠から外れたイノベーションを創り出すことを試みるベンチャーの存在が重要である。
本日取り上げた記事である、100%植物からできるディーゼル燃料の実現とそれに伴う大学発ベンチャー企業の設立は数あるベンチャーの中の一つでしかないが、これからは(これまで以上に)イノベーションの種は大事に育て、そこに必要な水(カネ)や養分(各種インフラ)を提供できるような環境を整えていくことが大切である。
米国の場合、これら水や養分の提供を、ベンチャーキャピタルや(更にアーリーステージであれば)エンジェルが行う場合が多い。また、そもそも価値を創造しようとする者に対するリスペクトとそれを実現しようとする者を実際に支援しようとする文化も見逃せない(先日の米国民間企業によるロケット開発の例もそうである。僅か3分間の無重力状態の実現にどれだけの意味を見出すかは、既にスペースシャトルが宇宙と地球を行き来する時代に無意味という考えもあるかもしれないが、こういった事業を支援する仕組みが存在すること自体が素晴らしい)。
日本でも昨今ベンチャーキャピタルの台頭は著しいが、スタートアップを対象とするVCよりも、既存産業の枠組みを再統合する、所謂買収ファンド・再生ファンドが活躍している状況に、価値創造挑戦者への支援の心が希薄では?と少し寂しさを感じるのは私だけだろうか。
その意味では、’04年6月24日に日経新聞が発表した2004年3月期経常利益ランキングの上位5社のうち3社を占める自動車製造販売会社の役割は大きいはずだ。(1位:トヨタ1.7兆円、4位:日産自8,100億円、5位:ホンダ6,400億円)
記事にある「サンケァフューエルス社」が確保したとされる60万ヘクタールの栽培地がどの程度の生産量に繋がるのか、リッター10円の価格高が売上に与えるセンシティビティなど、損益計画も何も手元に無い状態で「概念」だけで話をしているが、自動車産業に大きなインパクトを与え、結果的に社会貢献に繋がる可能性のあるベンチャーのサポートを自動車会社が自社のR&Dの一部を投資という形で外に出すのも一つの手であろう。
日本では大企業とベンチャー企業との直接のコラボレーションをこれまで以上に促進することが、価値創造力を高めるためには重要だと考える。
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<長谷川 博史>