ダイムラークライスラー、労働組合に約620億円の経費削減…

◆ダイムラークライスラー、労働組合に約620億円の経費削減案を提示

受け入れなければドイツ国内労働者の3%に当たる6000人を削減すると警告

<2004年07月15日号掲載記事>
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1.企業の成立起源・存在意義

企業とは、いつどのような形で誕生するのであろうか?

我々は、普通に毎日会社に行って、帰宅するというサイクルを何も考えずに繰り返しているが、実は企業とはそもそも自然状態で「気付いたらそこにあった」というような存在でない。

企業のことを「法人」と呼び、個々人である「自然人」と区別している事実そのものからも、これは自明である。

即ち、誰かが(一般的には発起人であろうか)意図・企図して「そのもの」に生命を与えねば誕生しない。そして、その「誰かが意図する内容」とは企業の数だけ存在するはずであり、千差万別である。

但し、骨子にある精神は一つに収斂される。

その精神とは、個々の自然人たる我々が、先ず最初に何らかの目的を達成しようと考え、自らの力をフル活用してもその力が及ばない際に、別の器(法人)を用意することで、各種資源を他の自然人や法人などから集めるという精神である。(当然、節税対策などなどで法人設立が為される場合などもあるが、これらは今回は対象として考えない・但し広義ではここで述べている内容に適合しているとも言えるのではないか?)。

但し、これだけであれば、例えば軍隊のような組織であっても「個々の人間(個人)の力は弱いので、組織化することで『敵を倒す』という共通の目的を達成する」という意味で法人と同じと考えられる。
それでは、法人は軍隊とどこが違うのであろうか。

それは、企業の場合その設立・生存目的が「社会(個々の顧客の累積されたマスと考えても良い)に有用・有益な財・サービスが提供する」ということにある*。

*軍隊が国民を守る為に組織化され、そのサービス内容が国民に有用であることを否定するものではないが、新しい価値をクリエイトして提供することと既にある価値を奪われることを守るという性質の違いは存在する。

筆者自身も、今まで3つの法人の設立を企図し設立手続きを行ない、実際に作ってきた経験があるが、無為に設立してきたものは一つも無く、「具体的にxxxということを社会に提供する為に、こういう会社を作るのだ」という明確な目的の元に会社を設立してきたつもりだ。

2.所謂ステークホルダーとは

このように、何らかの目的をベースに誕生する「企業」という存在だが、その誕生・成長の過程で色んな周りの「人たち」に支えられながら大きくなっていく(個々の人間が自分だけでは大きくなれず、親や友人、近所の人、学校の先生や塾の先生、会社の上司や同僚などなどに支えながら成長していき、成長と共に恩返しをしていくのと同じ)。これら、企業を周りで支えてくれる人たちのことを「ステークホルダー」と呼ぶ。一般的にステークホルダーは、顧客、従業員、取引先(サプライヤー)、金融機関、政府・社会、株主などに分類される。
それぞれのステークホルダーへの恩返し(分配)の順番や、優先順位などについての考え方は以前
『価値を生み出す経営とは(4)「売上を増やすにはもっと与えなさい」』
で触れているため、是非参照願いたい。

3.ステークホルダーへの分配区分(固定と変動)

過去ログをチェック戴いたという前提で、今度はそれぞれのステークホルダーへの恩返し、即ち分配の区分を固定と変動という形で見ていきたい。全てはビジネスの取引条件次第ではあるが、一般的には以下のような区分になる筈だ。

1)顧客 変動(ビジネスによっては、固定に近いものもある)
2)サプライヤ 変動(取引条件次第)
3)従業員 固定(日本の場合は)
4)金融機関 固定
5)政府・社会 変動
6)株主 変動

分配の区分とは、顧客に対する価値提供に比例した形で分配するのか否かという意味である。

4.顧客は変動

この中で最初に分配をしながらも、同時に価値創造の唯一の源泉である「顧客」への価値分配及び価値実現(即ち、ネットの収益)の区分は変動である。即ち、より多くの価値を顧客に提供(分配)する結果として、より多くの収益を得ることが出来るわけである。
端的な言葉で言えば、「収益は常に変動的である」ということ(こう言ってしまえば当たり前のことではある)。

即ち、(企業にとっての)リスク管理的には*、収益が変動であるのならば各種費用も全て変動のほうがベターである(個人で言えば「出世払い」のほうが、定期的な定額返済よりも都合が良いのと同様だ)。その意味では、上の3.の3)従業員、4)金融機関の、2者のステークホルダーへの分配という意味では、企業として可能であれば変動化したい動機が働くものである。

*一方、収益を拡大していくのであれば、例えば工場設備投資とそれに伴う減価償却費でも、一定の固定費を抱えながらも、それを上回る収益を計上することで、BEPを超えた分だけ利益とするほうがベターという考え方も存在するが、飽くまでも「リスク管理」という面では、ALMギャップを無くすというのと同義のレベルの「変動収益に対しては変動費用」がベターという意味である。

5.ドイツにおける従業員の分配区分について

しかし、本日記事として取り上げているダイムラークライスラーの本社があるドイツでは、ルールとしてステークホルダーの内の「従業員」に、相対的に多くのオーナーシップを与えていることから、「本来企業にとって変動化を求める(特に業績悪化時は)対象である」従業員への分配を固定化できている場合が多い。
*(取締役会や経営会議などにおける一定の比率を、法律での定めにより労働組合に認めている)。

今回の記事では会社が、労働組合に約620億円の経費削減案を提示し、受け入れなければドイツ国内労働者の3%に当たる6000人を削減すると警告したという。

本来は、一定の経営権を有している者は当該企業が継続的に社会に有用・有益な財・サービスを提供することをモニター可能なはずであり、このような権利を有しているにも関わらず業績が悪化(≒「社会に有用・有益な財・サービスを提供出来ていない状態」に陥った場合)した場合の責任を取る必要があるのは当然の帰結であり、その意味では今回の記事のような形で従業員への分配を減らそうとする流れは、ある意味理にかなっているはずだ*。

A  B B/A
現状 削減幅 %
従業員数(千人) 366   6 1.6 %(ドイツ国内労働者の3%)
当期利益(億ユーロ) 4.5   5 111.1 %

6.日本における株主レベルでのオーナーシップ

一方日本の場合、法人(特に大企業)に対するオーナーシップが希薄、否、存在していないことが、従業員への分配が未だ固定の状態で維持されていることの一因であると考える。

即ち、企業のオーナーシップを有している株主が別の法人であり、逆に自社も当該法人の株主となっている現象⇒「株の持ち合い」により、誰が誰のオーナーであるかが分からない状態であるが故に、従業員の内部昇格による社長が無意識のうちに従業員への分配を固定しているのではないか。

筆者はこのこと自体を否定するものではないし、資本主義のルールで別の法人と株式を持ち合いすることが禁止されているものでもないが、事実として株式の持ち合いという環境下ではオーナーシップは醸成されにくい。

結果、企業が本来の活動である「社会に有用・有益な財・サービスを提供する」為の諸活動を行う際に、気付くと2つの現象が生じていることが多い。

1)そもそもの企業設立の目的を忘れ、その為の手段である短期のアービトレーションなどの結果でしかない利益獲得活動に埋没してしまう。結果、社会への価値提供レベルが低下し、利益獲得自体も出来なくなっていく。
2)責任の所在が曖昧になり、「こういう目的のために、こっちの方向に向かうぞ」という方向性を出す人間が居なくなってしまう。

しかし、昨今バランスシートリストラクチャリングが進行しつつある中、徐々にではあるが、株式の持ち合いは解消されつつあり、これに伴い

・オーナーシップが純粋な外部株主に委譲されつつある。
・従業員への固定分配の神話も崩れつつある。

7.日本でも、歴史的に従業員への分配は固定ではない(武士の時代)

上記のような変化が進む中、これからの日本企業の「従業員」というステークホルダーへの分配の方法は今後どうなっていくであろうか?

歴史を振り返ってみると、日本でも鎌倉時代の武士の世界では(封建主義(Feudalism)をベースにしていたものの)、実に明確な個々の武士(従業員)への「変動分配方式」が取られていたことが分かる。

嘗て武士が戦った理由は、主君の為、源氏・平氏といった上位概念の為という側面も存在していたものの基本的には「先陣」、「徒歩での一陣」、「一番槍」や「一番駆け」など、味方同士でも個人間で、凄まじい功名の争いがあり、先陣や一番槍の武士は誇り高く「われこそは、武蔵野の国のxx家の何々の家来、xx左衛門なり」などと叫んで、周りの武士がこれを勇ましい栄誉と称える風潮があった。

そして、戦が終わったあとの領土・報酬は、先陣を切ったものにより多く与えられる(とはいえ、武士は飽くまでも功名のために戦い、報酬のためではなかったとは思うが、人間である以上、多くの報酬をもらったり領土を賜りたいという気持ちも当然あったはず)。
封建主義の限界は、有限である土地を主従間におけるサービス提供の対価としたところにあるが、今後の環境変化の方向性という意味では、どちらかと言えば、昔の武士の魂にあった、良い意味での個人主義・封建主義(Financial Feudalism)へのルネッサンスに注目したい。

新渡戸稲造の「武士道」に注目が集まるのも、5千円札が変わることだけが理由ではない。

<長谷川 博史>