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三菱自動車、独立系販売ディーラーの切り捨てを画策か
三菱自動車販売協会の西原会長(兵庫三菱自動車販売・社長)は、「販売店(全国172社926店)の95%は不採算店ですよ。この調子じゃバタバタとつぶれていく」「いますぐにでも手を打たないと本当にもたない」と明かすが、三菱自動車の社員からは、「ウチの資本が入っているディーラーは存続の方向という話は出ているようだが、独立系については聞いていない。最悪の場合、切り捨てになっても仕方がないという意味かなと思う。もっと言えば将来的に国内販売は度外視し、アジアやヨーロッパを主戦場にすればいいと
いう意見も聞く」と言う。
<2004年07月22日号掲載記事>
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先ず大前提。
三菱自動車が自社のディーラーの切り捨てを「画策」するわけがない。
自動車メーカーは(一部法人や政府などへの直接納入を除き)、一番大切な顧客との接点を全面的に販売ディーラーに依存している。そして、企業は何らかの価値を顧客に提供することにより収益を確保していくものであることを考えると、顧客へのダイレクトな接点にメスを入れるのは最後の手段である。
よって、資本系列有無により片方を維持して片方を切り捨てるといったことを「画策」することは有りえない。
しかし先週後半からの 3~ 4日の間のだけでも、以下のような施策が次々と記事になっている。
・オランダの生産子会社「ネッドカー」株式の一部売却を検討
・登記上も本社を京都に移転へ
・世界ラリー選手権(WRC)への参戦休止を正式発表
・米イリノイ工場の生産縮小、約1200人の人員削減を発表
・米国金融子会社の売却を検討中
少し前までであれば、ネッドカーや米国金融子会社などは聖域であったはずだ。
一方、国内販売を見てみると、確かに大変なことになっている。
平成16年6月新車販売台数(登録車)
当月(A) 前年同月(B) A/B%
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・三菱 4,885 13,681 35.7
・全社合計 94.3
本年累計(C) 前年累計(D) C/D%
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・三菱 52,724 80,155 65.8
・全社合計 97.2
市場全体での前年同月比が 5.7% ダウンで推移する中、三菱の販売台数は前年同月比で 64.3 %もダウンしている。
このような状態において、販売店は利益を確保出来るだろうか?
以下、社団法人日本自動車販売協会連合会「自動車ディーラー経営状況調査報告書」における平成 14年度 (平成 15年3月期) 自動車ディーラー経営状況調査結果・全車種店総合1社平均を基に、費用項目を単純に変動・固定に分類することで、簡単な試算を行ってみた。
H15.3. 売上高64.3%ダウン前提の試算
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売上高 8,501 3,035
変動費 7,009 2,502
貢献利益 1,492 533
固定費 1,381 1,381
経常利益 111 -848
売上高には新車、中古車、サービス、部品、その他が含まれる為、新車販売台数の減少がそのまま売上高全体に響いてくるとは考えにくいものの、無料点検に伴い修理必要個所が発生した際に 修理費用を 100% 顧客負担とさせることは難しいであろうし、中古車についても市中のオートオークションでは出品価格と落札価格の差が激しいことから転売も困難な状態にあること、また、そもそも新車販売も値引きを強いられていると想像されることから、下手をすると新車販売台数ダウン率がそのまま売上高ダウン率となってもおかしくない。
即ち、日本に存在する自動車販売店 1,512 社の 1 社当り平均 P/L を用いて売上が 64.3% ダウンしたと仮定した場合、経常利益レベルで実に 8.5 億円の赤字になるという数字が導き出される。1 社当り平均純資産は約 11 億円ということから勘案すると、税効果などを考えない単純計算では実に純資産の 8 割に相当する。
三菱自動車の販売店の損益状況や資産・負債状況を把握していない為、実際には自己資本比率がある程度充実していたり、収益構造も上で掲げた単純平均とは異なるかもしれないが、国内 172 社、約 2 万人が勤務する三菱販売店の95% は赤字という報道もある為、事態の深刻さに変わりは無いと想像される。また、上で純資産を毀損させる額として仮定した 1 社当り 8.5 億円を単純に172 社で乗じると、金額は約 1,500 億円と巨額な数字に積み上がる。
冒頭述べた通り、三菱自動車が自社のディーラーの切り捨てを「画策」するはずはない。
しかし、台所事情として足元を固めることがそう簡単であるわけでもないのは事実である(勿論、三菱グループとして必死にバックアップするであろうが)。
このような状況下、販売店として考えないといけない打ち手は何であろうか?
当然、日々の地道な販売努力、お客さまの信頼を取り戻すための無料点検などを従業員一丸となって取り組んでおられる大変な日々の中で、誠意を以って働いていくという日常は大切である。
これに加えて、考えねばならない打ち手は何であろうか?
一つは店舗単位での縮小・閉鎖や人員関係の整理による固定費削減であろう。既に幾つもの店舗を閉鎖したというニュースは聞こえてきているし、また正式に閉鎖していなくとも実質的には同じような状況にある店舗もあるだろう。
次はメーカーからの支援を懇願する方法だ。
これは、絶対に必要な原資であるが、上に述べたようなメーカーの台所事情を勘案すると、今の危機を脱出する為に着実に確保できる原資として計算に入れてしまうのは、経営者としてやってはならない。
そして最後は、思い切ってマーケティングミックスのうちの骨子である、「扱い Product を変更しながら、自ら有している Place を最大活用する」という手法だ。
即ち、自らが抱えている拠点を生かす為に別メーカーの商品を販売するということだ。メーカーとの契約を見直すなどの法的な問題や在庫整理、既存顧客リストの扱い、メーカー毎に異なる販売手法や仕組みをゼロから学ばねばならないなど、課題は山積みではあるものの、市場全体としての販売は微減であり、別メーカーの商品はそれなりに売れているということを考えれば、検討可能な打ち手であろう。現実的に三菱以外のメーカーで三菱が有する販売拠点を欲するメーカーがどの程度存在するかは分からないが、自社の既存拠点との兼ね合いでカバーできていないエリアや、主要幹線道路に面しているような優良物件などについては個別の検討に値するはずだ。
以上 3 つの打ち手のうち、最後の手法はメーカーからすると一番困る打ち手であろう。
このコラムでは 3 つ目の打ち手を取れ、と言っているわけではない。しかし、市場(マーケット)に需給の調整を任せれば、自然とそのようになってもおかしくないわけであり、自動車流通以外の領域では同様の事例は散見される。
当面の現実的な対処策としては、上の3つ全ての打ち手を織り交ぜながら、メーカーと一緒になって三菱自動車のブランドを市場に再度浸透させるにはどうしたら良いかを検討するということであろうが、こういった危機的状況下では従来の自動車メーカーと販売店の関係であった「依存・被依存関係」を頭の中から払拭して、能動的に次の一手を考える必要がある。
<長谷川 博史>