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国交省、国費600億円を投入し、高速道路の通行料金を政策…
◆国交省、国費600億円を投入し、高速道路の通行料金を政策的に引き下げへ
値下げで大幅減収となる主に地方の高速道路が対象。ETCの利用が前提
<2004年08月20日号掲載記事>
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何らかの書物を読んだうえで、その内容を纏めるという作業は、意外と難しい作業である。
一連の作業では、読み取れる内容や解釈、及び「こんなことも考えられるのではないか?」という新たな切り口が求められている。
即ち、「書く」という作業を行う目的は、読み手が同じ疑問を抱くある内容をベースに、それに対する新たな事実を提供するか、若しくはそれに対する意見を述べることにある。
事実というのは (本来は)一つしか存在しない筈であるが、意見というのは「百家争鳴」で良い。
よって、意見を述べる際に重要なのは、書物・筆者が何を言おうとしているかを構造的に整理して、その書物が主張する内容に合意するか否かについてクリティカルに説明することである。
こうした観点からすると、先ず最初にやらないといけないのは、筆者の言わんとすることを構造的に把握することである。
構造的に筆者の主張を把握する手法の具体例として、今回、国交省が発表したとされる掲題の記事を以下のように纏めてみた。
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「国土交通省が、税金を財源に高速道路の通行料金値下げを行う方針を固めた」
1.事実
1)国交省が値下げ分の原資 600 億円を日本道路公団に交付し、利用者に還元する。
2)既に実施が決まっているコスト削減で行う平均1割の料金値下げ
(2千億円相当)とは別枠で実施する。
2.対象
1)地域
主に地方の高速道路が対象
値下げで高速道路の利用が増え、並行する一般国道の渋滞が緩和されることなどが値下げ対象区間の条件。
2)条件
引き下げてしまうと大幅減収となる区間は対象外
3)ETC
割引はいずれも料金所で止まらずに支払いができるノンストップ料金収受システム(ETC)利用が前提となる。
3.狙い
1)渋滞緩和
利用の促進や一般道路の渋滞緩和が狙い
2)収支改善
国費を利用増加の呼び水とし、対象区間の収支改善も狙う。
4.減収の際の補填方法
国交省は、割引対象の区間ごとに該当する公団(民営化後は会社)と地元自治体とで協議会を設立。割引料金や、減収のうちどれだけを国交省と自治体が補てんするかを決める。
5.記事で述べる問題点
1)2001年12月に閣議決定された特殊法人等整理合理化計画では、道路公団の事業に「2002年度以降は国費を投入しない」と明記されている。
2)政府の閣議決定に反する
→渋滞緩和で公共の利益につながる。国費は利用者に還元するので、閣議決定の趣旨に反しない。
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如何であろうか?
こうして文章を構造的且つ網羅的に並び替えてみると、疑問点が浮き彫りになってくる。
1.何故地方の高速道路だけが対象なのか。
良くある話だが、財源は都市部なのに対して何故地方だけが対象なのか。
首都高など、都市部のほうが経済効果は大きくないか?
2.公共の利益は、結果としての売上高に反映されるのではないか?
一般の事業法人が何らかのサービスを提供している際に値引きを実施する理由は以下の通り幾つか考えられる。
1)積極的理由
値引きにより販売数量が増加して、結果として売上高を上昇させようとするケース
2)防衛的理由
競合他社との関係において、止む無く値下げに追い込まれるケース
3)商品ライフサイクル上の理由
プロダクトライフサイクルの終わりに、既に商品やサービスの償却が終了していて、1単位販売することにより発生するコストがミニマムな場合などに、戦略的な値引きを行うケース。
4)現金化という理由
とにかく会社に現金が無く、明日の借入れ返済期日に間に合わないといった場合、叩き売りしてでも在庫などを現金化するケース。
今回のケースはどれであろうか。
2)、3)、4)でないのは確かだろう。
よって、1)を狙いながら、実際には売上高未達の場合に税金を投入を期待する、但しその上限は 600 億円、というものではないだろうか?
しかも、ユーザーが高速道路をあまり利用してくれなかった際に備えて、「渋滞緩和は公共の利益につながる」という言葉が述べられている。
もし、ユーザーが隣に走っている一般道よりも、値引き後の金額をベースに高速道路を利用したほうが便利だと感じれば、自然と高速を利用するわけで、結果として公団の収益(売上高)にこれが反映されるはずである。
市場に任せれば結論が出るはずの状況に対して、公団側の見込み通りにユーザーが反応しなかった際には、
1)国交省からは財源が税金である補填が為され、
2)更に、結果として渋滞は少しは緩和されたのだから、「公共の利益に繋がったのだ」と主張が可能
という手厚すぎる有形無形のセーフティーネットが敷かれているというのは少し都合が良過ぎないだろうか?
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記事に記載されている内容以上の事実を把握している人からすれば、もっと違った見方が有りえるだろう(筆者自身は、この記事以上の情報は一切有していない。また、道路公団関係の仕組みに明るいわけでもない)。
しかし現実世界では常に得られる情報は限定的であり、こうした環境下で何らかの判断を下す必要がある際には、事実を構造的に整理してみることが有効な場合が多い。また、仮に下した判断に誤りがあったことが判明した場合でも、構造的に事実を捉えたうえでの意味合い抽出及び打ち手の選択を行っていれば、その後効果的にその意味合いの抽出を組替えて、代替案を抽出することも可能となる。
<長谷川 博史>